第4話 不器用な鳥との出会い①
あれから数日がたつ。ユリとユーキは西の街を目指していた。何キロか移動したところで体力E筋力Eのユリは力尽きしゃがむ。
「置いてくぞ。」
「もう足がパンパンで動けません...。」
ユリはさらに座り込む。
その姿をみたユーキは深くため息を吐き、この先の道を見据える。50キロ先にあるという西の街にはいつ着くのか。
ユリは少し先に壊れた馬車が乗り捨ててあるのを見つけ目を輝かせる。
「提案があります!」
ユリは人力車の案を出したが即却下されがっかりしていた。
二人はそのまま川の近くで休む。ユリは文句を言いながらも器用に釣竿を作成し魚を釣っていく。川の魚は入れ食い状態である。
「お前、家何?」
「農家です。」
ユリの答えにユーキはふーんと思考を止め、草原に寝そべり目を閉じた。
ユリは魚を器用にナイフで捌きながら川で内臓を洗っていた。
ふと近くに白い鳥が遊びにきているのに気づく。草むらからもぺーとこちらを伺っている。目がたれておりやる気を感じない。羽が小さい。毛並みがふわふわして体型がぽっちゃりしている。
(魚が欲しいのでしょうか?)
試しに魚を投げてみる。鳥はのこのこと近づく。始め手の平サイズかと思われたが、存外に遠くにいたようで魚に近づく頃には2メートル超えの巨体を晒していた。
「わあああ!」と驚き悲鳴をあげる。
ユーキが剣を抜き鳥に近寄る。しかし、鳥は微動だにせずこちらの様子を伺っている。
「待ってください!敵意はないようです。殺してはいけません!」
「油断してると丸呑みされるぞ。」
ユーキが剣を収めてくれた。
鳥がペンペンとユリに話しかけてくる。
「あはは。私を食べてはだめですよ。」
ユリが鳥との会話を成立させている。ユーキはユリの頭が心配になった。
「ふむふむ。仲間とはぐれてしまったようですね。旅のついでに一緒に探してあげましょう。モンスターペンギンのようなのでモンペンと呼ばせていただきます。」
「あ?」
急展開に間が抜けた声がユーキから出る。それをよそにペンギンがペンペンとユリに喋りかける。
「助かるぜ、お嬢。この際だ。なんか手伝うぜ
。だそうです。」
「はあ!?」
ユーキは突然舞い降りた面倒な事態に声を上げた。
ユリは壊れた馬車を器用に改造し鳥車を完成させた。試しに車に乗りモンペンに引いてもらう。
モンペンはしばらくもぺーと固まった後、急にダッシュする。
「わぁぁ!止まってください!」
モンペンが急停止する。突然の速度の変化に握力のないユリはぽーんと前に投げ出され顔から着地した。
「うぐぅ...。車を引くのは苦手ですか?」
モンペンは、ははは!楽しいな!と笑う。
ユリとモンペンの練習はしばらく続いた。
次の日、ついにモンペンは鳥車に二人を乗せのこのこと歩くことができるようになった。ユリが手綱を握る。
ユーキは始め鳥車に乗ることを抵抗していたが、走る一定の振動とユリが何故か作ったコロコロとなる鈴の音に即寝てしまった。ユリは後ろの荷台で寝るユーキにベビーカーに乗った赤ちゃんを重ねる。
ユリはモンペンに話しかけてみる。
「おうちはわかりますか?」
親父はテキトーに移動するからな。わかんねーな。
「家族は何人ですか?」
20人程度だな。
「疲れませんか?」
俺はこうみえて鍛えてるんだぜ。朝飯前さ。
「どうして逸れちゃったんですか?」
男はいつまでも輪の中にいられない生き物なのさ。
「ふーん。なんだかかっこいいですね!」
モンペンとユリは仲良くなった。
一行は西の街『ハーベスタ』に着く。街と自然が一体になったような場所であり、中央に大きな木が守り神のように生えている。
モンペンに口笛を吹いたら迎えに来てくれるようにと約束し一旦別れた。
街には道行く人が多く見られ、数人が歩みを止め歓迎してくれる。ユリはほっと安心した。
街を散策してると酒場にユーキが向かっていく。ユリは苦笑しつつ後を追いかけた。
酒場にてユーキはビールを、ユリは牛乳を頼む。その牛乳は故郷のものと同じ甘い味がしてユリは懐かしさを感じた。店内を見渡すと目が合った男性客が笑いかけてくれる。
「お前も酒飲めよ。」
「未成年ですよ。まだ飲めません。」
ユーキを見て驚く。ビールを半分程飲み干したところですでにほろ酔い状態であった。
(ユーキはこの程度で酔うことができるのですね。すごい。今のユーキならなんでも話してくれそう。)
この機会にずっと気になっていた質問をしてみることにした。
「どうして魔法使いさんを探しているんですか?」
「げんきか確認したい...それだけ...。」
「なんでですか?」
続けて質問してみるとユーキが酔いを覚ますように牛乳を奪い飲み干してしまう。
「なんだっていいじゃん。」
(これ以上は聞けないようですね...残念。)
その瞬間、がたんとユーキは机に突っ伏した。耳まで真っ赤にして目を回している。
ユリは目の前の事態に困惑したがやがて気づいた。この酒場の牛乳も故郷のものも、誰かの悪戯でお酒が入っていたのかもしれない。故郷で毎朝牛乳を飲んでもケロッとしていたのは酒豪の両親の遺伝子のおかげであった。
ユリは男性客に手伝ってもらいユーキを宿に連れて行くことができた。ふと、窓の外で誰かが手を振っているのに気がつく。
「何かありました?」
ユリは窓を開けて声をかけた。
ユーキが目が覚める頃、次の日の朝になっていた。
二日酔いに目を瞑る。酒場で、ビールを飲んで、その後の記憶がない。
「悪かったな...。」
部屋にユリの姿はない。隣のベッドは使われた痕跡がなく、窓からは風が入っていた。
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