第5話 不器用な鳥との出会い②


 ユーキはユリが何者かに連れ去られたと考え、酒場に向かった。


閉まっていたがドアを蹴り続けているとマスターが渋々出てくる。すぐにマスターの胸ぐらを掴み昨日の状況を尋ねる。


「お、お前が潰れたから、3人の男が連れの女の子を手助けしてたぞ。うぐ、あまり、みない顔だし、旅人だと思う。し、しぬ。」


「新参者が宿まで介抱できるかよ。」


マスターはすっかり怯え、できるだけの情報をはいたのだった。



 ユリが気がつくと目の前にいくつかの陶器とたくさんの人の足元が見えていた。体は全く動かない。なんとなく薄暗く、隙間から風景が見えることから馬車の中のようである。


(何が起きたのです?いや、魔法使いさんの記憶にあります。これは、魔物を依代に封印する魔法!私はそれをかけられてしまったのですね。きっと自分も目の前の陶器と同じ姿をしているのでしょう。なんとかユーキに見つけてもらわないと!)


ふともやっとした気配を感じる。それぞれの陶器から出ており、自分からは他の人と違いもやが勢いよく溢れ出している。


(私が他のみんなより持っているもの、魔力?魔法は使えなくてもこのように魔力を察知できるのですね。このもやもやしたものを集結して発散させたらこの依代を破壊することができる気がします!)


ユリは溢れる魔力をおにぎりを握るようなイメージで集め始めた。



「お前酒場にいたな。その中みせろよ。」


 ユーキは街の出入り口で馬車をひかせ街を出ようとするターバンの男に声をかけた。男は「知らねーよ」とその横を通り過ぎようとする。


ぽんっ


馬車から間抜けな音がしてことんと何かが倒れる音がする。あまりにも不自然なタイミングと音にユーキが首を傾げた時、馬車から10人ほどの人間が飛び出し、ユーキを襲う。咄嗟に剣を抜きそれを受け流した。


剣士、魔法使い、格闘家がユーキを囲う。全員酒場にいた連中である。


その隙にターバンの男は馬車を発車させた。


ユーキは口笛を吹き、目の前の敵に集中した。



 ユリは泣きたかった。集めていた魔力は突然のユーキの声に集中力が途切れ弾けてしまった。依代を壊すこともできず街から離れていく。


(このまま私はどこかで置物として過ごすのですね...。)


目の前が真っ暗になった。


ぺちぺちぺちぺち!


平たい足音に顔をあげると、モンペンが手足をバタバタ動かし追いかけてくる姿がみえる。ユーキの口笛でモンペンがユリの臭いを追って助けにきてくれたのである。


(良かった、これで助かります!…あれ?)


一瞬安堵するもモンペンの様子がおかしいことに気づく。いつも垂れている目がまんまるにかっ開き血走っている。そう、モンペンはユリが危ない状況であること、自分しか助けられる者がいないことから極度の緊張状態になっていたのである。


馬車の前に回り込み止めるはずだった。しかし、パニックになっているモンペンは自分が何をしたかったのかよくわからない。


登り道になり馬車が減速した瞬間、モンペンは馬車の荷台に頭から突っ込んだ。ターバンの男は後ろからの衝撃に前に投げ出されていった。


頭を荷台に突っ込んだまま、モンペンは目の前に魔力を感じる陶器を発見する。


助けないと!助けないと!


半狂乱に陥ったモンペンは目につく陶器を次々に飲み込み始める。目が血走った鳥に食われる瞬間、ユリは今までにない恐怖を感じ悲鳴をあげた。


モンペンはそのまま逃げてしまえばいいものを何故かターバンの男の前にのこのことやってきて立ち止まった。


「ん?逃げないのか?後ろの依代を奪われたわけではないのか?」


ターバンの男は、目の前の巨大な鳥の意味不明な行動に固まる。


その時、モンペンは何故か男に感謝を伝えようとしていた。モンペンは人の真似をしてお辞儀する。嘴が勢いよく男の頭を抉り、男は気絶した。


馬車をひいていた馬はそれをみて、ぶはっ!お前最高だな!と、笑って走り去って行った。モンペンはしばらくもぺーとしていたが褒められたことに気づき、ほっこりした。



 モンペンが口笛が聞こえたところに到着するとユーキが山積みになった人の上に腰を下ろし待っていた。


「ユリは?」


ユーキがきくとモンペンは俺の腹の中さ!とぺんとお腹を叩く。


「そうか、食ったのか。」


ユーキが剣を抜こうとしたため、慌ててジェスチャーで弁解した。



 ユーキとモンペンは冒険団へ10個程の依代を届けた。冒険団は周辺に滞在する魔法使いに依頼し依代を解呪した。その中の数人が鳥を嫌いになっていた。


ユリはユーキ達と無事合流を果たした。


「助けてくれてありがとうございました。足を引っ張って申し訳ないです...。」


迷惑をかけてしまったため置いていかれるのではないか。不安に思っているとユーキにデコピンをされる。


「これに懲りたらあまり人を信じ過ぎないことだな。」


「....心配かけてすみませんでした。」


ユリはデコピンの衝撃に目の前が白く霞んだが、ユーキが自分を案じてくれていたことを嬉しく思った。



 数日後、勇者の情報を得たユリ達は隣の街へ出発しようとする。後ろから赤毛でポニーテールの小さい女の子がそろそろと近づいてきた。同じく依代に封印され攫われそうになっていた子のようだ。


「助けてくれてありがとう...。」


「当然のことをしたまでです。」


ユリが返事をする。隣の街から攫われてきたらしく、行き先は一緒である。


「乗っていきます?」

「ほんと?」

「却下。」


ユーキがめんどくさいといったように即拒否する。


「次の街まで距離があります。かわいそうですよ。」

「知らねーよ。」

「それで道中彼女に何かあったら私達のせいですね。きっと今日のことを毎晩夢に見るんです。あの時こうしとけばよかったって...。」

「...。」


ユーキは黙る。特に自分は気にしないがユリが傷心極めると大変面倒なことになる気がしたのである。


その手応えにユリは心の中でちょろっと舌を出した。


こうして、一行は幼い少女リンと隣の街まで一緒に行くことになったのである。



 隣の街に向かう道中。


リンがユリの背中にはりつくように荷台からモンペンを見ている。


「どうかしましたか?」

「その鳥、知ってる。モンスターペンギン。人を食べるの。」

「モンペンは私の友達です。大丈夫ですよ。」

「魔物は獣...。みんな、殺されるの。」


突然リンは低い声になり、モンペンの背中を睨む。


「醜悪な生き物...。」


リンの様子から異常に魔物を嫌っているのが伝わる。


ユリはモンペンのような優しい魔物が誰しもに受け入れられないことを寂しく感じた。

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