メモリーリセット⑥




直正改め新士は幼少期から異様な程に昔の出来事に興味を示した。 幸いだったのは受け継がれていたのは記憶だけで人格までコピーされたわけではなかったことだ。

赤子の頃から大人のように振る舞えば実の両親でも奇妙に思ってしまう。 もしかすると捨てられてしまうかもしれない。 だが新士はそうではなかったため、それが原因で孤児院行きになったわけではない。


「新士。 また古い本を読んでいるのね?」


ただ3歳の頃には読み書きもできていたし、本を読むことにも強い興味を示していた。 しかもそれが普通の人はあまり読まない古い書物ともなれば人目を引くというもの。

過去に興味を持つのはいいが、どこか変わっている子だと思われていたくらいだ。


「うん。 昔の出来事は見ていて楽しいよ」


母の白城(シラキ)は横から本を覗き込んだ。


「また300年前のことを調べているのね。 おじいちゃんが集めていたものだけど捨てなくてよかったわ」


そう言って洗濯物を取り込みにいった。 新士は特に300年前の出来事に強い関心を示し、それより過去を気にすることはほとんどなかった。 


「にしてもどうして300年前なのかしらねぇ。 300年前に面白い出来事なんてあったかしら?」


独り言を呟く母に新士は尋ねた。


「ねぇ、お母さん」

「何?」

「大海賊イルーゾの秘宝ってもう見つかったの?」


それは歴史として伝わっているものではない。 ただマイナーな文献などに時折名前を見ることのできる人物。 新士は他の有名な人物ではなく、マイナーもマイナーな海賊に興味を示したのだ。


「大海賊イルーゾの秘宝? 何だろう、それ? 私はあまりそういうことに詳しくないから」


祖父がいたら直接尋ねられたかもしれない。 白城が見ていないと分かっていながらも新士は本の一部を指差して説明を始めた。


「この本には『財宝はその名の通り金銀財宝が入っている』って書いてあるよね」

「それがどうかしたの? 財宝だから普通じゃない?」

「うん。 でも実際は違うんだよ」

「・・・え?」


白城は手を止め新士を見た。 一体この子は何を言っているんだろう、そんな顔をしている。


「あぁ、待って。 金銀財宝が入っているのは嘘じゃない」

「ちょっと、新士? どういうこと?」

「だけど金銀財宝と同時に恐ろしい何かも一緒に入っているんだよ」


白城は不審に思い洗濯物を置いて新士のもとへとやってきた。


「新士? 大丈夫?」

「大丈夫って何が?」

「何がって・・・」


3歳児が通常気にするようなものではないのだ。 しかもあまりよくないことを言っている。 だから白城は不審に思ったのだ。


「僕が言っているのは本当だよ?」

「新士。 止めなさい」

「お母さん信じてよ」


白城は怖くなって新士の話を止めようとする。 だが新士は止まらなかった。


「だってそのせいで財宝を隠さないといけなかったって。 いや、捨てないとって言っていたかも」


そう言うと白城は必死の形相で新士の顔に近付いた。


「ッ・・・! それはどこに隠したの!?」

「え? 場所は――――」


躊躇うことなく場所を伝えると白城は顔を青ざめさせた。


「そんなところに・・・」

「間違いなくこの財宝は危険なものだよ」


案外こういった話を信じ財宝を探し求めている人間は多い。 いや、多いというわけでもないが少なからず本気で探している人間はいるのだ。

単純に財宝が見つかれば万々歳で、基本的には見つからず生涯を終えることの方が多い。

しかし、もし新士の言葉が正しければその財宝はまだ発見されておらず、発見されればマズいことが起きる可能性があるということだ。


「新士は海賊時代に生きていた人の生まれ変わりなの・・・?」

「うん? 生まれ変わり? 何それ?」

「そんなことはあるわけ・・・。 でも新士が誰かに入れ知恵をされていたとか考えられないし・・・。 そもそもこんな話、他では聞いたことがない」

「?」


キョトンとする新士を見て白城は新士の腕を引っ張った。


「行くよ!」

「行く? どこへ行くの?」

「今すぐに外へ出るの! 今言った新士の話を世間に伝えるのよ!!」

「どうして?」

「だって危険なものなんでしょう!?」

「う、うん・・・」


必死な顔をしている白城の顔は鮮明に憶えていた。


「今でも秘宝を狙っている者はたくさんいるの! その人たちに秘宝が渡ってしまったら大変なことになる!!」


白城は新士を連れて家を飛び出したのは、全ての鍵を新士が握っているためだ。



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