1-4 向日葵の部長

「おまたせ!」


 夏の夕暮れの空が、そのまま染み込んでしまったかのような茜色のボブヘアーが揺れている。

 揺れる髪に釣られるように自分たちの視線が部長へと向けると、遅刻と注目からか部長は自分たちに向けはにかんだ。


 オカルト研究部の部長であり、自分の数少ない友人の一人、大領中椿だいりょうなかつばき

 自分や万次郎とは違い、普通科の高校に通う同級生。その性格は明朗快活めいろうかいかつで、幼さの残る顔つきと合わさり一目見ただけでは同級生とは思われない。実際三人に街を歩いたとき、何度も後輩と間違えられたくらいだ。

 ちなみに、蕪木が立てば芍薬しゃくやく座れば牡丹ぼたん、歩く姿は百合の花。だとするなら、部長は立っていても座っていても、ましてや歩いていても夏の青空の下に咲き誇る向日葵ひまわりだ。もちろんその意味の中に可愛らしいから。という意味も含まれているのだけれど、部長の場合自分や万次郎を励ます時も、ましてや叱ってくれる時も、部長は常に笑ってお決まりのセリフを言ってくれる。故に部長は向日葵なのだ。


 そんな部長が自分たちの前の椅子に座ると、何も言わずに店主からクリームソーダが出される。幼い頃から家族ぐるみでこの喫茶店を利用しているため、もうお決まりなのだとか。

 ストローを口に咥え一口クリームソーダを吸い上げると、たちまち部長は破

顔した。その魅力はあの蕪木と匹敵するもので、視線を逸らすことができない。と言うことは分かってほしい。

 向日葵の部長とタヌキの万次郎。そして、ひねくれものの自分。はたから見ればタイプの違う三人が、運命に悪戯されて丁度二年前のこれくらいの頃にオカルト研究部を立ち上げることになった。まあ、大層な名こそ打っているが、実際のところ多くの時間は喫茶店で井戸端会議に花を咲かせるのだけれど。

 ただ、自分と違い部長は面白いものを本気で探しており、万次郎は目の前から消えてしまったという幽かな存在を本気で求めていた。

 それ故時として、少しだけオカルト研究部の名が示す通りの不思議な現象についての話をする日もある。

 どうやら今日はその日のようだ。

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