8月 31日 ’XX

 この国には、八百万の神という概念がある。ざっくり言うと、ありとあらゆる物には神様が宿っている、という話だ。食べ物や持ち物やなんやかんやすべて、このバットにだって神様が宿っている。よく言われなかったか?「米粒1粒も残すな! バチが当たるぞ!」って。んなこと言われてもなぁ? って思うかもしれんが、信心深い人はそうやって自分の子供や近所の人に道徳を説こうと思ったんだろうな。知ったこっちゃねぇけどよ。


 んで、んでだ、物だけじゃなくて概念にも神って宿るんだわ。どういうことかって? ほら、晴れの神様とか、雨の神様とか、怒りの神様とかな。あ、愛を司る神様っているじゃん。アフロ、なんだっけ? まぁいいや。そのアフロちゃんみたいに形として見えない概念にも神は宿るわけだ。アフロちゃんは宿ってるわけじゃない? 気にすんなそんなこと気にしちゃ負けだ。


 話が逸れまくりだな。私が言いたいのはだ、宿んだわ。どういうことかって? 何月何日ってあるだろ? その何月何日それぞれに神が宿っているわけだ。1月1日とかいいよな。ハッピーだ。


 んで、その中の8月31日の神ってのが、私なワケ。わかるか?


 あ、信じてねーな? そりゃわかるぜ。見るからに信じてねーもん。そもそも日付の神様ってなんなんだってな。私もそう思うぜ。

 でもな、現実に存在してるわけだ。何ってな、私は8月31日以外の日を知らないんだわ。どういうことかって? 今日は8月31日だろ? んじゃお前らにとって明日は? そう、9月1日だよな。でも、私の場合は次の年の8月31日なわけだ。寝ても覚めても8月31日なわけ。

 意味わかんねーって顔してんな。多分、ていうか絶対、明日に私は存在しない。確認したことないからわかんねーけどな。次にお前と会えるのは来年の8月31日だ。んでその次は2年後の8月31日、その次は……ま、そんな具合だわ。


 でもなぁ、どうだろうな。いやな? 今までこうして面白愉快なことして気を引いて私の存在を世に知らしめていたんだけどよ? どうも次会うときはみんな忘れてるっぽいんだよな。なんか、こう、都市伝説になってるわけでもないっぽいし。

 もしかしたら、私に関する記憶は9月1日になったらきれいさっぱりなくなっちまうんじゃないかなーって思うわけよ。そんなわけねーって思うだろ? 私もそう思う。けど、現実問題として1年越しとはいえ私のことを記憶して再会した人間はただの一人もいないわけよ。私としてもよ、それじゃぁちーっと寂しいからよ、どうにかこうにかしてみたいわけよ。例えば? んー、そうだなぁー、あ、日記に書いてみるとかどうだ? なぁ、手前てめーが忘れちまっても何かに書いちまえば文字としてわずかでも残せるかもな。いいなそれやってみようぜ。


 おう、また明日な。

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