2-p04 AIで絵を描くぬい
【9月4日】
忌引で学校を休んでいるが、朝と夜は自主練で野球の素振りをすることにした。
ヒデアキは
「碧生くん、今日はフルプロしたら」
「
紫藤家の菩提寺の定めでは、命日から七日経った日を「
でも今はそういう風習も合理化され、お葬式と同じ日にこの儀式を済ませてしまうのが一般的、と葬儀社の人が言っていた。いずれにしろ命日自体が事故のあった日で結構前なので、お葬式と初七日はほぼ同日だった。
父が言うには、「節目というのはやっぱり大切だから、ヒデアキが学校に行く前の日に、お父さんがお経をあげてニナノカの儀式をします」だそうで目下お経の練習をしている。
素振りが終わって、
「今日は写真、どうしようか」
とヒデアキは碧生に尋ね、夕日を仰いだ。
隣で碧生が自分の小さなスマホでツイッターを開き、少し驚いた顔をした。
「あ。DMが届いてる」
画面の隅、封筒の形のアイコンに数字が付いていた。
タップすると吹き出しの中にメッセージが綴られている。
碧生はヒデアキと千景を日陰に連れて行って、画面をコンクリの壁に投影した。自然光の中では見づらいが、かろうじて文字を読むことができる。
「温泉」という人からのメッセージだった。
「アンソロお疲れ様でした!ほのぼの兄弟マンガに癒されました〜♨️初めてお名前呼ばれたお兄ちゃん。忘れられない瞬間ですね🥺💕
鍵アカの方で毎日進捗見せていただいておりました。AIを使った原稿、紙媒体で見てもすごく綺麗で感動です😳教えていただいたURLから試してみましたが私には使いこなせず💦チハルさんの緻密な作業を崇めてます✨🙏✨いつか使い方をご教授いただけたら嬉しいです。
イベントでお会いできるかなあと思っていましたが、お仕事だったんですね。次にお会いしたとき、ぬい服お渡ししたいです。
お忙しそうなので返信お気遣いなく🙇♀️」
「また鍵アカの話だ。この温泉っていう人、アンソロにいたな」
と碧生。
最初は何を指しているのかイマイチわからなかった「アンソロ」の意味を今はほぼ完全に理解している。
「また返信いらないって言ってる」
ヒデアキは首を傾げた。
「お母さんって……ネットでは違う人格だったのかな……」
チハルのプロフィールには「ぬいちゃんを愛でる。壁打ち。リプはあまりできませんが見てくれてありがとう」と書いてある。そっけないもんだ。
母と相互フォローのツイッターユーザーは非常に多いが、そもそもツイートにリプできないようにして投稿していたり、交流を持つ相手はごく限られているようだ。
なんだか気難しい人みたいな扱いだ。現実とは反対。
人がSNSに求めるものは必ずしも繋がりではないということか。
でも高瀬先生とは会おうとしていたし、「オフ会に出席したことがある」とぬいが言っていた。
DMをチラチラ見ると確かに、グループチャットでそのときの連絡の記録が残っていた。
千景が、
「そういえばナツミは、AIで絵を描くプログラムを手伝ってたことがあったなあ。あれはネットの中でいい感じに育った頃だろうな」
と投影されたメッセージをじっと見つめている。
というよりも、その向こうにある思い出を見つめているんだろう。
「……返事、しない方がいいのか」
とヒデアキはメッセージをもう一度読みながら呟いた。
「この人、オフ会でいっぱい話した人だ」
と碧生も独り言のような小さい声で言う。
「全然返事をしないのは、感じ悪いかもしれない。ナツミはオフ会、普通に楽しそうにしてた。また会いたいって言ってた。嘘じゃないと思う」
「感じ悪いのは嫌だなあ。お母さんほんとは良い人なのに」
ヒデアキと碧生がモヤモヤしている隣で、珍しく黙ってスマホを弄っていた千景が不意に、
「お。あった、これだ。ナツミが手伝ってたやつ」
と別のものを壁に投影した。パソコン専用のWEBサービスらしくてレイアウトが微妙だ。
「てきとーに絵を描いて……」
千景がスマホの上でフェルトの手を動かし、ヘニョヘニョと謎の何かを描いた。耳っぽいものと髭っぽいものがあってネコのつもりらしい。
「てきとーに説明を入れると」
a jumping fluffy baby white tiger like a kitten
「線画に変換される」
レコステの千景が飼っていた「わたあめ」みたいな生き物が画面上に現れた。
「ネコだ。可愛い」
「ドラッグで回転する3Dデータになってる」
「これって千景くんの能力?」
「いや、これはただのオンラインサービス」
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