第24話 聖騎士の癖にうっかりお酒に呑まれて
別に楽しい事はなかった。
時間を潰していただけ。
思入れなんてなかった。
なのに、どうしてこんな――
「ねえ、君。異世界転生に興味ある?」
私は死んだ。
自殺だ。
この世に未練はなかった、むしろ苦しみしかなかった。
親しい人はいない。
愛しいと思っていた人は敵だった。
ボロボロになって生きる意味もなく、死に意味を見出した。
そんな私を待っていたのは、女神のような美しい悪魔だった。
「特別に君を、君の作った創造物の世界に転生させてあげるよ」
この世に未練はなく生に執着はない。
死だけが救い。
これ以上、続けていく意味なんて何もなかった。
だというのに悪魔は私に続きをさせようとしてきた。
おまけに最悪なのは、その世界が私が思い浮かべた創作物の世界だったという事だ。
こんな、現実逃避の為の道具に価値を見出した事なんて、ない。
そんな世界で生きていかなければならないなんて、地獄だ。
唯一の救いは、その物語はあまり短くない物語だったという事。
道筋も単純、私はただ二人の人物から一人を選択すれば良いだけだった。
「だけど、私の思うようにはいかなかった」
その女性、黒土のどかは続ける。
「選ぶべき人の片割れは何故か私に殺されに来た。何故か妹を名乗り妹と思い込んでいる子が現れた。そして何より――」
彼女は方を見、「はあ」と嘆息する。
「聖騎士の癖に酒に呑まれて聖女に手を出すし」
「……」
「私の作った物語の癖に、私の物語は全然いう事を聞いてくれなかった。登場人物が勝手に動いて私の好きなようにしてくれなかった。唯一の救いは、ベルゼが物語を加速して終わりまでの道筋を早回りしてくれた事ね。それのお陰で、エレガントとは言わないけどこうして私は終わりを迎えられた」
だというのに、と彼女は続けた。
「まだこの世界は終わらない。私はこうして終わりを迎える為のすべてをしたというのに、どうして? こんな
「……そうか」
あの真っ白な部屋の中で何故急に素直になったのかと思っていたが、そう言う事だったのか。
それがこの世界を終わらせる条件だったから。
それでもなお、この世界が不自然に続いている事に、彼女は焦燥感を募らせている。
……本当に?
「じゃあ、さミナミ――いや、のどか」
「……なに?」
俺は一度空気を深く吸い込み、極めて真面目な口調で彼女に提案した。
「えっちするか?」
「……はい? ――はい!?」
ぎょっと眼を見開く彼女。
どうやら頭がその言葉の意味を理解したらしく、慌てたようにまくし立ててくる。
「な、何言ってんの貴方。そんな事して意味なんて」
「お前だってそれが条件だと思って俺に抱かれたんだろ、一度は?」
「……ぅ」
「やっぱり嫌々だったのか?」
「……」
「少なくとも俺は、違うように見えたけど」
俺の言葉を聞き、彼女は一度反論しようと口を開いたが、その口はぱくぱくと何も発せず、そして諦めたらしい彼女は肩を落とす。
それから彼女は迷うようにぽつぽつと語り出す。
「……こんな世界、嫌いだったけど。終わらせるためとはいえ貴方に抱かれたくはないって思ってた」
「え、マジ?」
「そんな作業みたいに、それだけの理由で行為を及びたくはなかった。貴方とは、少なくとももっとマシな感じでしたかったわ」
「それは」
「ぅん……うん」
彼女は自身の言葉に納得するかのように頷きながら続けた。
「貴方との旅は、イヤじゃなかった。イヤじゃないって思えたのは、初めてだった」
「――それなら」
「だけど私は、それでもこの世界を続けられない。だってそんなの想像した事もないもの。勇者は魔王を倒して、この世界を去っていくの。その後の事なんて」
「それなら、大丈夫だよ」
にこりと不敵に笑い、話しかけてくるのは。
南海彼方。
「だってさ、まだ物語を終わらせるにはまだ早いもの」
「いや、でも。魔王は死んで」
「死んでない。だって今も、ここにいる」
「――いや、でも貴方は」
「魔王らしい事一つも出来ていないからねー。なんか状況に流されてばっかりだったし、ここは一発好きなようにさせて貰うよ」
そして彼女は良い笑顔をしながら、ぱちんと、指を鳴らすのだった。
「えいっ☆」
刹那。
――王城が音を立てながら、崩れた。
「は」
「――は!?」
「て、テレポートッ!」
咄嗟にテレサがテレポートを使い、俺達を外へと瞬間移動させる。
次の瞬間、俺達は王城の外にいて――目の前でぶっ壊れていく王城だったものを呆然と目撃するのだった。
一緒にテレポートしてきたカナタは笑う。
「はっはっは! 魔王らしくこの国の城をぶっ壊してやったぜ!」
「あ、貴方……」
「という訳で勇者。これから私は魔王としてどこかに新しい城を構えて貴方を待っているから、死にたくなった時に来なさいな――そんな訳で、アデュー☆」
そして彼女は。
流星のように去って行った。
残された俺達は呆然と立ち尽くす。
……衝撃から最初に復活したのは、ニナだった。
「どうする、勇者。あんたの倒すべき敵はまだいるらしいけど?」
「い、いや。でも、この物語って一応ジャンルはラブコメだし……」
「ラブコメの時代は終わった! 今からは異世界ファンタジーだ!」
「ええ……」
「みんなもそれで良いよね! 私は旅を続けたいんだけどっ」
「そう、ですね。そうですね!」
テレサも。
半ば自棄になりながら叫ぶ。
「なんか知らないですけど、ご主人様とミナミがゴールインして世界が終わるなんていやですもの! ご主人様は私のご主人様なんですからねっ!!!!」
「いや、そんな予定はないです」
「クロード、愛してます!」
「そ、そっすか」
「という訳で、ミナミ!」
テレサはその勢いのまま、のどか――いや。
ミナミに尋ねる。
「こんな中途半端な終わりを貴方は許しますか! 貴方の人生、もっと楽しみましょうよ!」
「わ、私は……」
「はいかイエスしか聞きません! もう一度聞きますよ、貴方も人生を楽しみませんかっ!」
「は」
ミナミはそれから。
少し遠慮がちに。
……くしゃりと表情を歪ませ、小さく呟く。
「……ぅん」
「声が小さいです!」
「うん……ぅん!」
それが合図だった。
――喧騒が聞こえて来た。
人々の営み。
青空が輝き、その下で人々の生きる声が聞こえてくる。
……王城はそのままだったけど。
「どうやらすべて終わったみたいですね」
「……いえ」
涙を流すミナミに抱き着くニナとテレサ。
それを遠くから眺める俺の視界の端で、カルテナさんとソフィア王妃が話しているのを見る。
「きっと、多分。今が始まりの時です」
◆
「う、う……」
頭が痛い。
痛い。
……痛い?
なんで?
ああ、そうだ。
確か昨日、パーティーがあったんだ。
何でも昨日、ちょうどミナミの誕生日だったので、その勢いで誕生会が開かれた。
なんて言うかいろいろ都合が良すぎると思ったけど、それもまあ、良いと思えた。
だけど、何で俺は頭痛を感じているんだろう。
昨日、何かあったっけ?
むくり、と身体を起こし周囲を見渡し、ぎょっとする。
「え」
美少女達が全裸でぶっ倒れていた。
なんか、股間からは――
「え」
びっしょりぐっしょり濡れているのは汗か否か。
「や」
それを見て思い出す。
そう言えば俺、昨日たらふくお酒を飲んだな。
そこから記憶がない。
ニナ。
ミナミ。
スゥ。
カルテナさん。
ソフィア王妃。
テレサ。
……そして何故かカナタもいる。
全員幸せそうな寝顔をしているけど。
「やべぇ……」
俺、この先長生き出来るのだろうか?
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