第23話 役者は揃い、真実は明かされる
「まさかこんなに早くこの場所に戻って来るとは、な」
俺は思わずそう呟く。
空は相変わらず真っ白でだからこそ違和感がいっぱい湧いて来るけど、だけどその場所が懐かしい場所なのは変わりない。
王城グレートローズ。
ソフィア王妃が住まい、この国の生末を決める場だ。
「どうしてここがこんな場所にあるのかは分からないけど、だけどカルテナさんがミナミを連れてここに来たって事は、やっぱりあの人がすべての発端なのかな?」
「どうでしょう。その可能性は高いと思えるほどにあの人、悪だくみをしている姿が似合っているのですが」
「だよなぁ」
なんて言うか、すべての元凶が彼女と考える方が自然な気がしてきた。
とはいえ、こんな超常的過ぎる現象を引き起こせるかと問われれば「うーん」と唸らざるを得ないけれど。
ソフィア王妃。
そう言えば、彼女が勇者を召喚しようと決めたんだったな。
魔王軍を討伐するためにいろいろと作戦を練り、実行してきたのも彼女。
俺達勇者パーティーが組まれたのも、彼女による提案があったからだった。
「うーん」
「なんにせよ、早く侵入してしまいましょう。これ以上良からぬ事が起きる前に」
「そう、だな」
テレサの言葉に頷く。
これ以上の最悪って一体どんな事だよとは思うが、しかし予想を裏切って来るからこその最悪とも言える。
……もしかすると、冗談抜きに世界が終ろうとしているのかもな。
昨日の俺に言ったら冗談だろと鼻で笑われそうな話だ。
話が急展開過ぎる。
それこそ――物語で言ったら駄作も良いところだ。
それが現実に起きているのが厄介なところだが。
「じゃあ、行こうか」
俺は全員にそう言い、王城へと向かって進み始めた。
……もしかすると護衛の騎士達が守りを固めているのではないか。
そう思っていたが、しかし王城の中は予想を裏切り人影一つなかった。
街と同じく、人の痕跡すらない。
人が生活をしていたという名残、温度が感じられない。
「どういう、事だ?」
違和感が拭えない。
何がどうすればこんな事になってしまうのか。
しかし歩を止める事は決してせず、そして予想される妨害が何一つなかったからこそ俺達は想定よりも早く目的の場所へと辿り着く事が出来た。
王の間。
白亜一色で統一されただだっ広い広間。
その中央で、彼女は俺達の到来を待っていた。
「来ましたか」
「ソフィア王妃……」
白銀のロングヘア、赤色の瞳。
すらっとした体躯の女性。
シニカルな笑みを浮かべながら俺達を迎え入れた彼女は、状況が状況だというのに極めて落ち着いた様子を見せつけて来た。
「貴方達がここに来たという事は、世界が今陥っている現状について、表面的にはある程度分かっていると考えるべきでしょうか?」
「空が変で、人がいない。世界は荒れ地だらけになっているし、とにかく意味が分からないってのが俺達の本音ですよ」
「でしょうね。私も真実を知らなければ取り乱しかねないと思います。そう言う意味で、驚きつつも真実の礎石を探ろうとし、ここまで辿り着いた貴方達には素直に称賛の拍手を送るべきなのでしょうね」
ぱちぱち、ぱちぱち。
静かな王の間に空しく拍手が鳴り響く。
「さて、では。これから貴方達にはこの世界の真実を知ってもらいます。本来ならお茶をしながら話したいところですが、生憎と従者はいないので。申し訳ないですが、そのまま立ったまま聞いていてください」
「……」
「まず、ですが。貴方達は神を信じますか?」
彼女の話は荒唐無稽で馬鹿らしい話題から始まった。
「まあ、信じる信じないはさておくとして、少なくともこの世界には神は存在します。それも、創造神と呼ばれる類のものです。この世界を作り、そしてその土台の上で行われる物語を記した、神が」
「……物語?」
「その物語は、勇者の物語です。勇者が魔王を倒すために異世界から召喚され、そしてその勇者は旅の途中で仲間達と、あるいは敵とハラハラドキドキのラブコメディを経験する」
実にオモシロオカシイ物語です。
そう微笑みながらそう言い、そしてソフィア王妃はおもむろに笑みを消した。
「つまり、それ以外は何もないです」
「……は?」
「言葉通りの意味です。勇者がこの世界を訪れる前の歴史は何一つとして存在してはおらず、そして世界は勇者が辿る筈の道筋しかありません。無です」
「言っている、意味が」
分からない。
無、だって?
いや、でも。
だって、俺は産まれた時から今までの記憶が、ある――
「あまり考えない方が良いですよ? 貴方達の過去、いえ、いっそ設定と言ってしまいましょうか。それは間違いなく穴だらけで矛盾塗れ。考えると発狂する可能性があります」
「……」
「とにかくこの世界はそういうあやふやでボロボロな土台の上に成り立っている世界で、そして今、物語は終わりを迎えようとしていました」
彼女は言う。
「つまりは、勇者がラブコメを終了させようとしたのです」
ラブコメを終了させる。
それはつまり、
「え?」
視線が俺に集まる。
「お、俺なのか?」
「ええ、いえ。正確に言うと、勇者の恋愛対象は二つでした。聖騎士である貴方と、魔王であるベルゼ、その二つです」
「べ、ベルゼが……?」
「結局彼はその役割を全うしようとはしませんでしたがね。むしろ、この世界の在り方に嫌気がさして、世界もろとも終わらせようとしました。結果から見ると、彼の計画は半分成功しているみたいですけどね」
「待ってください」
と、待ったを掛けたのはテレサだった。
先ほどまで黙って話を聞いていた彼女は思案顔でゆっくりとソフィア王妃に尋ねる。
「貴方の言葉が正しいとしましょう。この世界が物語の世界で、そしてそれ以外はあくまでフレーバーとして存在するだけのあやふやな概念である。そして、それらは勇者が恋に落ち、それが成就する事で終わる事になる。そう言う事ですよね?」
「ええ」
「ですが、一つ気になる事があります」
テレサは厳しい視線を送りながら言う。
「どうして、貴方はその事を知っているのですか? 物語の登場人物でしかない私も、そして貴方も、そんな舞台の裏側の事情なんて知りようがないでしょう?」
「それに関しては至極簡単な理由です。私が悪役だからです」
「あく、やく?」
「物語の終盤で登場し、この世界の真実を告げる役割を持って私は生まれました。だからこそ今まで、この世界をの終焉を避ける為に行動をする事が出来ましたし――結局ほとんどが無駄に終わってしまいましたが――とにかく、こうして貴方達に真実を告げる事が出来ました」
「……」
「ジャンル的にはメタフィクションと言うのでしょうか。主人公である勇者は、この世界が自身が作った物語でしかなく、そしてエンディングを迎えたらすべてが無に帰す事を知ったらどのような判断を下すのか」
「は?」
その言葉の意味する事は。
つまり。
「ああ、勘違いしないでくださいね。あくまで彼女は設定を考えただけです」
ソフィア王妃は言う。
「ミナミという役割を与えられた彼女は原作者であり、創造神は別にいます。そしてどうやら彼女はベルゼと同じく早々にこの物語を終わらせたいと、そう願っていたようです」
「それは、どうして」
世界が終わってしまうというのに。
何故、彼女はそのような選択を取ろうとした?
「それに関しては、直接本人に聞いてください」
「――! ああ、そうだ。ミナミは――」
「ここよ」
かつん。
背後から足音が聞こえる。
振り返ると、そこには見慣れた筈なのに何故か初めて見るような感じがする女の子がいた。
ミナミ。
いや違う。
それはあくまで彼女の役割の名前。
「私の名前は、黒土のどか」
よろしくね?
彼女は困ったように首を傾げて見せた。
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