第22話 縺九∩縺輔∪縺ョ荵ア蠢

「な、なにが起きているんですかこれは!」


 聖女テレサは半ば半狂乱になりながら叫ぶ。

 彼女が見つめるのは空。

 心を静めてくれる優しい青が広がっている筈のそこには、今はのっぺりとした白がある。

 濃淡のない、どこまでも広がる真っ白。

 それは、まるで。

 神様が、青空のテクスチャを貼り忘れてしまったかのような――


「ダメー、やっぱりいないよー」


 走り寄りながらそう報告するニナの顔は困惑一色。

 彼女もまた、なにがなんだか分からないと言った感じだ。


「どこを探しても人影一つない。ていうか、人の痕跡が何一つないよ」

「そんな……」

「その様子だと、テレサも同じ感じ?」

「ええ……クロードとミナミも見つかりませんでした」

「そう、っか」

「……」

「……」


 沈黙する二人。

 訳が分からず、何をどうすれば良いのかすら分からない感じだった。

 あの瞬間、ベルゼをミナミが倒した刹那、どうやら意識を失ってしまったらしい二人。

 目を覚ますとそこには3人しかいなかった。

 テレサ、ニナ、そしてスゥ。

 クロードとミナミ、カナタの姿はなかった。

 そして異変を感じ空を見上げれば、そこには白しかないという状況。

 街には人の痕跡すらない始末。

 明らかに異常事態だというのに、いや、異常事態過ぎてもはや事態を解決するためのとっかかりを見つける事すら出来ない状況だ。


「これって、ベルゼの仕業かな」

「因果関係を考えるなら、そう捉えるのが自然ですが……」

「ですが?」

「なんでしょう。もっと大きな何かが働いているような気がしてならないのです」

「そう思う? ――実は私もそう思っているんだよ」


 ニナは腕を組みながら唸る。


「なんだろ、凄く胸騒ぎがするんだ。まるでこの世の終わりが近づいているような、そんな感覚。悪寒って言うのはちょっと違うかもだけど」

「この世の、終わり……」

「ま、見た感じ世界の終わりとは程遠いけどね。人がいなくなって空は変で、むしろ劇場の演劇が終わって、諸々を片付け始めているって感じ」

「……」


 テレサは思案する。

 とはいっても、すべては堂々巡りで答えは出てこない。

 ただ不安を助長していくだけ。 

 大切な人はいなくなり、世界はおかしくなった。

 永遠に変わらないと思っていたすべてが変わり果ててしまった以上、自分すらも変貌しないという理由もなく――


「二人とも~」


 思考に割り込むように先ほどから姿を消していたスゥが姿を現した。

 どこか疲れているような、暗い表情。

 状況が状況なので仕方がないのだが、なんだろう。

 更なる最悪を持ち込まれるのではないかという嫌な予感がした。


「何て言うか、あれ」

「あれ?」

「……」

「ヤバい。ヤバ過ぎて今の状況を表現するための語彙が足りない」

「簡潔に、あった事を話してください」

「……う~ん、とね。それじゃあ簡潔に言うと、世界が何かおかしい」

「……知ってますけど」

「理由は分からないけど人工衛星がおかしくなったから、とりあえず面倒だけどジェット機に乗り込んでそこら辺を空から確認してみたんだよ。そしたら、さ。ないんだ」

「ない?」

「うん。世界がね、穴だらけだった」


 穴だらけ。

 その表現に二人は首を傾げる。

 

「どういう事?」

「空から見ると、だだっ広い荒野に緑色の大きな蛇が這っているような感じになっているの」

「緑っていうのは、森か草原ですか?」

「そう言う事……これってどういう事だろ、この場合どうして他が消えたんだろって考えるより、どうしてそんな風に残ったんだろって考える方が自然な気がするし」

「私に聞かれましても。ニナは何か分かりましたか?」

「さっぱり」

「です、よね」


 疑問が一つ増え、不安の種はどんどん増していく。

 だからこそ、その現象に対し、三人は驚きそして最大限の警戒を現した。


 いきなり現れた、木製の扉。

 

 ガチャリ、と音を立てて開くそれを見、テレサは魔力を練りニナは拳を構え、スゥは小銃を構えた。

 果たして――


「あ、? みんな」

「……クロード!」


 テレサは警戒をしつつも喜びながら彼の元へと走り寄る。

 不安で押しつぶされそうになっていた時に現れた小さな希望。

 思わず泣きそうになる。


「ど、どこにいっていたのですかこのおバカ!」

「い、いや。俺もよく分からないけど、なんか真っ白な空間にミナミと一緒にいて。それで、その。なんやかんやあってこうして出る事が出来たんだ」

「そう、ですか?」


 何やら一瞬口ごもった彼に対し違和感を覚えるも、とりあえずは彼が帰ってきてくれた事に安堵するテレサ。

 ニナもスゥも少しだけ安心し、ほっと胸を撫で下ろす。

 





 唯一。

 違う感情を露にする者が、いた。


「どうして」


 震える声で呟く。


「ど、どうして……終わらないの……?」


 視線が集まる。

 場違いな不安を抱え、場違いに呟いたその少女は。


「貴方、誰?」


 おもむろに姿を現したのは、カナタ。

 カナタは鋭い視線をその少女に向ける。


「お姉ちゃんの姿をしているけど、違う。お姉ちゃんじゃない、貴方は」


 クロードと一緒に扉から出て来た少女、ミナミ。

 ミナミはカナタの事をきっと睨み、震える声で呟く。


「……意味分かんない。どうして? 私は、ちゃんと――」


 彼女の言葉を切り裂くように。









 ――黄金の鎖が、少女の身体に巻き付いた。


「キャッ!」


 その鎖に引っ張られ、空に持ち上げられる少女。

 驚きのままに全員の視線はそのまま空へと移動する。

 そこにいたのは。


「――カルテナさん?」


 若葉色の髪。

 スカイブルーの瞳。

 その身を包むのは白銀の輝きを放つ鎧――【銀陽騎士】。


「すみません、みなさま」


 一言そう謝罪をしたカルテナは、それから返答を待たずに勢いよくその場から飛び去って行く。

 彼女がどこへ飛び去って行くのか。

 それは、すぐに分かった。

 分かってしまったが故に、驚いた。


「どうして、ここに王城が……?」


 それは、物語の始まり。

 勇者が召喚された場所であり、いずれ旅の終着点となる筈だった、王女が住まう城。

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