第21話 はじまり
「なあ!」
その男は唐突に俺達の前に現れおもむろに容赦なく遠慮なく前触れもなしに話し始めた。
「お前達って、ラブコメってどう思う?」
その男は話す。
「正直僕は大嫌いだ。文学というジャンルにおいてラブコメというものははっきり言って淘汰されるべき存在であると僕は定義している。純愛恋愛、不純愛など様々な種類があるがどれも正直存在するべきではない、産まれてくるべきではなかったと言えよう」
その男は話す。
「そう僕が定義する理由は極めて単純であり明解だよ。ラブコメと言うのは盛大な文字数稼ぎでしかないからだ。文字数を稼ぎ、たった数行で終わる筈の事を長々とつらつらと語り続けると言う意味のない行為をしているからだ」
その男は話す。
「ラブコメと言うのは数行で終わるものである。だというのに男女の関係を一々連綿と語るというかったるい事をするのは正直時間の無駄であり文字数の無駄だ。それでも意味もなしに意味のない言葉を続け続ける様子を見るとはっきり言って吐き気がして来る」
その男は話す。
「腹立たしい事に、ラブコメというジャンルでは物語を続ける為に登場人物を増やす場合もある。元々意味のないというのに登場人物の意味すら希薄にしていくとは本当に度し難い。そうして物語を水増ししていき、そして最終的には着地点を見失い終わる事すら出来なくある。そうなってしまえば本当に地獄だよ」
その男は話す。
「終わらないという意味では、延々と物語を引き延ばすというのも苛立たしい。空耳、風の音、そもそも多くを語らず一年以上を無駄に徒労する。たった一言を口にすればそれで終わると言うのにそれすら出来ないというのは正直如何なものかと僕は思うよ」
その男は話す。
「終わらない物語というのは地獄だ。終われない物語と言うのは駄作だ。そして僕はそのような概念を破壊するために存在している」
その男は。
語る。
「だから僕は、そんな狂った世界を壊す事だけを目的として――」
「くどいよ」
静寂を破るかのように。
あるいはそれこそ定石を壊すかのように。
聖剣の輝きが、その魔族を叩き切った。
「が、ふ……!」
「どうしてあんたがまだ生きているのかは知らないけど、こうして目の前に現れて殺されないと思ったのかしら?」
遠慮なしと言うか、なんか重要そうな話をしそうな雰囲気だったのに容赦なしに聖剣で殺しに行ったミナミに俺達は改めて凄いなこの人と思った。
そして。
たった今殺された男。
ベルゼは。
嗤った。
「は」
「はは」
「はははは」
不気味に笑う男。
それを見て、何かするつもりかと判断したらしいミナミは聖剣を振るい男を切り裂き――
「それがお前の選択か勇者?」
「それなら、物語の結末は一つだ――」
刹那、世界が。
割れ――――――
◆
◆
◆
「ん、んん……?」
目を覚ます。
何か柔らかい感触があった。
目を開けてみると、そこに広がっているのは目が痛くなるほどに真っ白な風景だった。
柔らかい、そう感じたのは足元の床がマットレスのようになっていたから。
どうやらそのマットレス質の床はどこまでも続いているみたいで――
「いや、どこまで続いているんだ?」
地平線の果てまで続いているように見えた。
一体何がどうなっていると混乱しながら周囲を見渡していると、そこで俺は近くで人が倒れているのを見つけた。
人、というより知り合いだ。
「ミナミ!」
俺はふかふかのマットレスに足を取られない様に気を付けつつ彼女の元へと急ぐ。
「ん、ん。クロード……?」
「ああ、俺だ」
「え、っと。え……ここどこ?」
目を覚まし周囲を見渡し、意味が分からないと首を傾げる彼女。
「いや、俺もよく分からないんだ。目を覚ましたらここにいた」
「……もしかしなくても、あのベルゼの攻撃かしら?」
「その可能性は、高いと思う」
「……」
キョロキョロと見渡し、それから何かを考えているのか黙るミナミ。
それからどうやら何も分からなかったらしく「はー」と肩を落としながら溜息を吐き、それから俺に言う。
「……とりあえず、歩きましょうか」
「そう、だな」
俺は彼女の手を引っ張り立ち上がらせた。
それから数分、景色は変わらなかった。
かった、と言ったのは唐突に延々と続くと思われた景色に終わりが訪れたからだ。
現れたのは、一枚の扉。
木製の立派な扉。
そしてその扉には一枚の金属のプレートが取り付けられている。
それには簡素な一文が書かれている。
『セックスしないと出られない部屋』。
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「……は?」
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