第20話 おしまい
粉々に砕け散り魔王城はなくなった。
そこには巨大なクレーターと瓦礫の山が出来上がっている。
死体はない。
魔族のものだったものは衝撃と熱ですべて消し飛んでいる。
人類の敵として存在していたものは、たった一瞬にして消え去ったのである。
それでも。
そこに。
命の灯火が一つ、あった。
「し、死ぬかと思った……」
それは少女の見た目をしていた。
魔王、カナタ。
異世界より召喚され魔王に仕立てられた女の子。
――勇者、ミナミの妹。
「予想通りというか私の計画通りなんだけど、まさか空から攻撃が降って来るとか思わないでしょ誰も」
そう毒づきながらも、彼女はとても晴れやかな表情をしていた。
笑みすら浮かべている。
すべては計画通り。
こうして、魔族達を残さず一網打尽にする事が出来た
「うん、スゥに目を付けておいて正解だった。まさか彼女が魔族の中で最強の戦力を持っているとは誰も思っていなかっただろうからね。ましてや、その彼女が攻撃を仕掛けてくるとは――ん?」
と、そこでカナタは視線を移す。
何やら物陰から音が聞こえたからである。
かつん、かつん。
それは足音だった。
ぱちぱち、ぱちぱち。
それは拍手だった。
姿を現したその人物を見、カナタは視線を鋭くする。
「……誰?」
「ああ、そういえば君には僕の姿を見せた事はなかったね」
それは長い手足を持った長身の男だった。
黒いコートを着ている事から、その人物が魔王軍に関する人物である事が分かる。
しかしカナタはその人物の事を知らなかった。
「僕の名前は、ベルゼだよ」
「……」
ベルゼ。
カナタは、その名前だけは知っていた。
「私の魔王としての初めての仕事、死んだ幹部の仇討ち。その幹部の名前がベルゼだった気がするけど」
「そうだね、その通りだ」
「死んだふりをしていたって訳?」
「まあ、そんなところだ。物語の冒頭でナレ死するような奴だと思われていただろうが、とりあえず今も、こうして生きているよ」
淡々と薄い笑みを浮かべながら語る男、ベルゼ。
しかしその瞳の奥底にはほの暗い闇がチラついている。
カナタは最大限の警戒をしつつ、ベルゼに尋ねた。
「何故、このタイミングでお前が現れる? 魔王軍が全滅したのを見て焦ったの? どうやら何やら企んでいるみたいだけど、流石に魔王軍がなくなったらその計画もおじゃんになりそうだし」
「いや?」
ベルゼは極めて真面目な口調で答える。
「それに関してはありがとうと言わざるを得ない。正直、あの量の魔族を全員殺すのはどうしたら良いものかと常に考えていたからね」
「――は?」
カナタは、流石に呆然とせざるを得なかった。
「なにを、言っているの?」
目の前の男の考えている事が分からなかった。
「お前は一体、何を企んでいる?」
「あえてこう表現させて貰おう。物語の加速、と」
ベルゼは如何にも面倒だと言わんばかりに肩を竦めて見せる。
「勇者が毎回雑魚の魔族をプチプチ潰しながらラブコメを展開するのを見る魔王の気持ちを考えてみたまえ。吐き気がしてくるだろう?」
「ま、おう?」
「ああ、そういえば君。どうも気づいてなかったみたいだね。だけどさ」
その男は言う。
「勇者がこの世界に召喚されたのは、魔王率いる魔王軍がいたからだろう?」
「……じゃあ、お前は」
「君の想像した通りだ、と言いたいところだが。」
その男は首を横に振って見せる。
「より正確に言うと、本来は魔王になる筈だった存在なんだ、僕は。ただ、生憎とそういう役割を担いたくはなかったからね、だから君を召喚して魔王にした」
「どう、して」
「正直、転生勇者の物語に付き合いきれなかったからさ。だからさっさとあの勇者には物語のエンディングを迎えて貰わなくてはならない」
「……っ!」
カナタは。
南海彼方は思った。
この得体の知れない男の望む未来は分からない。
しかしこのままこの男の好き勝手にさせる訳にはいかないのは分かった。
それと同時に、この底知れぬ男を倒せか分からない事も理解した。
故に、彼女が取った行動は――
「……、お姉ちゃんとこの世界との縁を断ち切――」
「悪いが」
ベルゼの姿がブレた。
声だけが聞こえてくる。
「物語の結末はぽっと出の君が決められるようなものではない」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます