第17話 戦果

「悪いニュースが一つあるわ」


 スゥを連れてテレサとミナミ、二人がいる街の中心の公園へと辿り着くと、開口一番そんな風にミナミが言った。


「というか、悪いと言っても割と順当で「ああ、知ってた」って感じな話だけれども」

「なんか、あったのか?」

「ええ。あったというか、今まさにあったというか」


 少し申し訳なさそうにしている二人。

 二人がそうしているという事は、何か街の住人に何かやらかしたという事だろうか?

 なにがあったのだろう。

 もしかして、魔族の襲撃?

 スゥが陽動で本命は実はあった、とか?


「今、こうして結界を張っていたら街長がやって来たの」

「街長が?」

「ええ、本人は労いの言葉を言いに来たって言ってたけれども、多分最後に言ってた言葉が本音ね」

「……?」

「勇者がいると、それを狙って魔族がやって来るからみんな怯えている、だって」

「……あー」


 なるほど。

 それは確かに、いずれは思われる事かもしれない。

 いくら聖女テレサによる強固な結界があったとしても、こうして魔族が襲来し生活を脅かしているのだから。


「そんな事を言っている間に、また襲撃があったみたいでしょ? そりゃあもう、イヤになるのも当然よ」

「街長は今、どこに?」

「帰っていったわ、避難したのかもね。どちらにせよ街長は私達がこの街にいる事を良しとしていなくて、それは割と他の人達も同じように考えているの、かも」

「うーん……」

「ま、それは後で考える事にしましょう――それで?」


 と、そこでミナミはテレサとニナに様子を観察されているスゥの方に視線を向けた。


「それが、今回襲ってきた魔族の子?」

「そう。スゥって名前だってさ」

「あまり強そうには――いえ、魔族を見た目で判断するのは危険か」

「なんにせよ、今はテレサ様の封印術で無力化されているから割と安全だとは思うけど」

「……それにしては、随分と大人しいわね。諦観しているのかしら?」

「あー、それは違うよ」


 そう言うのは、俺の隣でぼーっとしていたカナタだった。

 つまらなそうにしていたが、どうやら話を聞いていない訳ではなかったらしい。


「この子は――あー、貴方には言ってなかったけど、割と効率主義なの」

「へえ? で、それが今大人しいのと何が関係があるの?」

「暴れても状況が好転しないから何もしないって感じだろうね。まあ、あとは」


 そこで彼女は少しだけ挑発的な口調で言う。


「舐められているんじゃない?」

「……舐められる?」

「非情になれないって思われているんだよ。今までの勇者の行動から考えて、捕虜に対して非道を行うような人間ではないって魔王軍の連中は分かっていると思うから」

「なる、ほどね」


 じっとスゥの方を見るミナミ。

 大してスゥは惚けた表情で目を閉じ俯いていた。

 いや、こっくりこっくりと船を漕いでいる。

 

「舐めているどころか寝ているが?」

「まあ、安心し切ってるだろうね。下手したらここ、血の気の多い魔族の連中の中にいる時よりも安全だから」

「いや、でも。私」

「まー、貴方は良いってそのままで」


 どこか焦った様子のミナミに対し、カナタは分かっていると言わんばかりに頷きながら言う。


「貴方は勇者。そういう優しい女の子だから、それで良いの」

「……」

「それより、さて。これからは私の仕事だ」


 そしてカナタはおもむろに「ぱちん」と指を鳴らす。

 次の瞬間だった。


 ブワッ!!


 彼女の陰の中から、泥が湧き上がった。

 それは獣のような強大な顎を持っていて、そして大口を開けたそれは勢いよくスゥへと襲い掛かり――


 がぶっ……!


「へ」

「え?」


 一息に丸呑みにした。

 そして泥はずるずると彼女の影の中へと戻っていき、そしてなくなった時には完全にスゥの姿がなくなっていた。

 俺、ミナミ、ニナ、テレサ。

 全員困惑。


「ちょっ、え?」

「という訳で、これから私はあの子を調きょ――洗の――教育してくるんで、そこのところよろ!」


 そう一方的に言い放ち、カナタもまた姿を消した。

 彼女の存在が俺の中に入っていくのを感じる。

 その他に異物が俺の中にいる事も、また。


「えーっと」


 呆然とする中、一番最初に復活したのはミナミだった。

 みんなの視線が集まる中、彼女はひとり「こほん」と咳ばらいをし。

 

「とりあえず、今日は解散って事で……?」


 そう言う事になった。



  ◆



 とりあえず今日はみんな解散し、各々休む事となった。

 テレサが何か言いたげだったが、流石の俺も精神的に疲れていたので、素直に宿に戻って休む事にした。

 ベッドに倒れ込み、目を閉じる。

 きっと疲れが溜まっていたのだろう。

 あっという間に俺は夢の世界へと堕ちていき――


 
















「うふふ♡ そろそろ素直になったら♡」

「ぉー、ふぅー、ぅおー♡」


 なんかいかがわしい感じに縄で縛られている半裸のスゥを嗜虐的な視線で見下ろしながらちろりと唇を舐めるカナタがいた。

 ……いや、何やってんのこいつ等?

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