第16話 ――終わる

 ズダダダダダダダッッッッ!!!!


 爆音が鳴り響く。

 それは俺が咄嗟に作り出した巨大な氷山の向こう側から聞こえてくる。

 その氷山を作り出した際、そのままあの黒鉄の巨人を思い切り後方に吹き飛ばしたと思ったが、しかしそのまま攻撃されている。

 正体不明の攻撃。

 あの黒鉄の巨人に付いている筒から何かが撃ち出されているのは分かるが、しかしそれがどんな原理で行われているのかはさっぱりだった。


「なんだ、なんなんだあいつは!」

「あの子はスゥ、一応神州出身の魔族だね」

「神州って言うと、極東にある国だっけ?」

「そう、そこの子」

「そんな事は良いから、そいつの能力とかを教えてくれ」


 いつこの氷山がぶち抜かれるんじゃないかとハラハラしつつ、俺はカナタに尋ねる。

 

「スゥは超効率主義ののんびり屋だね」

「その二つって矛盾してない?」

「ううん、のんびりしたいからすべてを効率的にやりたがる子って事。ちなみに今彼女がやっているのは、超攻撃力で街ごと吹っ飛ばそうとしている訳だね。サイコなロジカルだけど、それが簡単に出来るからこそそれを選択したんだろうね」

「あれは、彼女の能力なのか? だとしたら、召喚系の魔法を使っているのか?」

「より正確に言うと、彼女が扱えるのは【アイテムボックス】。異空間にものを放り込んで持ち運ぶ事が出来る能力。それで彼女は『あれ』を持ち込んだって事」

「『あれ』はなんだ?」

「神州お得意の超技術によって作り出されたカラクリ、だね。メッチャ時代を先取りしているけど、一応はカラクリの範疇だと思う」


 もう完全にロボットだよ、とカナタは肩を竦めて見せる。 

 そのロボットというのが何だか分からないが、とにかく神州が持つ技術力によって作り出された兵器って事は分かった。


「で、弱点はあるのか?」

「さっきも言った通り、一応あれって彼女が魔力で作り出しているんじゃなくて、元々あるものを【アイテムボックス】で取り出しているだけなんだ。だから待ってたら勝手に機能を停止させるよ」

「ホントか!?」

「だけど、彼女の【アイテムボックス】って無尽蔵だから、弾切れとかまず起きないと思う――」


 ズバンッッッッ!!


 俺達がいる場所から5メートルほど離れた位置の氷山の壁が砕け、氷が欠片となって飛び散った。

 慌てて氷山の様子を確認するが、どうやら穴が開いた訳ではなく衝撃でこちら側の氷の表面が吹き飛んだだけらしい。


「って、どうなったらそんな現象が起きる?」

「多分零式レンズ弾を使ってるんだろうねー」

「なんだそれ?」

「レンズ効果っていうのを利用して爆発の威力を一点に集中させて、装甲の向こう側までインパクトを伝える弾? って言ってた」

「よく分からないって事は分かった」

「多分、氷をぶち抜くんじゃなくて、先に私達を殺す事にしたんだろうね。実際、段々こっちに近づいてきているし」


 確かに、さっきからこちら側の氷の壁の表面が次々と剥がれ吹っ飛んでいくが、それがだんだんと近づいてきている気がする。

 このままでは、間違いなく俺達に当たるだろう。

 そうなる前に何らかの手段を講じなければいけないんだろうけど――


「って、あれ。ニナちゃんどこいった?」

「え、あ?」


 言われて気づく。

 そういえば、さっきから彼女の姿が見えなくなった。

 慌てて周囲を見渡す。

 もしかして氷に巻き込まれてどこかに吹き飛ばされたのではないかと思ったが、しかしどうもそうではないみたいだ。

 

「一体――?」

「ふー」


 と。

 そこで。

 

「ただいまー」


 ニナが姿を現した。

 ……脇に、件の少女、スゥを抱えて。


「……下ろしてぇ」


 力なくジタバタしているが、しかしがっちり捕まえられているらしく逃げられない。

 その事はすぐに分かったらしく、だらんと脱力して無言になった。


「え、っと。一体どうやって」

「いや、普通に横から回って捕まえに行った」

「……氷山、結構横に広がっていると思うんだけど」

「普通に走って行った」


 マジかよ。

 それだけ全力疾走したというのにまるで気づかなかったぞ。

 そしてそれはスゥも同じだったのだろう。

 気づけば先ほどの爆音は聞こえなくなっていた。

 どうやら操っている主が捕まった事で機能を停止したらしい。


「お、思ったより呆気なく終わったな」

「いやまあ、良い方じゃない? 誰も怪我せず終わったんだし、上々だよ」

「それで?」

 

 と、ニナはスゥをぶらぶらと揺すって見せる。


「どうする、この子? 一応魔王軍の魔族らしいじゃん?」

「どうするって言われても……」


 俺が視線を下ろすと、スゥは「こうさーん……」と手を振ってみせた。

 

「……降参って言っているし、とりあえず捕虜として捕まえておいて、ミナミに判断を請うか」

「それもそうだね」


 頷いて見せるニナ。

 

「それじゃあ、早速行こうか」

「ああ」


 頷き、街の方へと向かう俺達。


「ふーん」


 一人、背後を歩くカナタが意味深に鼻を鳴らしていたが、とりあえず今は無視する事にした。

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