第15話 つかの間は――
拳が迫りくる。
それはドラゴンすらも屠る事が可能なほどの威力が込められ――てはいないだろうけど、まともに食らえば致命傷に至りそうなほどに強力な一撃。
素早く、重たく、強力な一閃。
しかし俺はそれを真正面から受け止める。
ズン……ッ!!!!
衝撃が身体に走る。
決して軽くないインパクト。
それでも【氷狼騎士】はきちんとその衝撃を抑え、内側にいる俺には一切のダメージを通さなかった。
それはかつての俺では無理だった芸当だった。
少なくとも、今までの俺がその一撃を食らっていたら鎧ごと真っ二つになっていたと思う。
しかし、今は違う。
防御し、堪える事に成功している。
如実にパワーアップしている事が伝わってくる。
「ふーん、やるじゃん」
そして、その一撃を放った少女、ニナは興味深げに呟く。
彼女の恐ろしい事は、まだまだ本気を出していない事。
そしてその本気の一撃を何発もぽんぽんと連打出来る事だが、しかし仲間にそんな事をしたりはしない。
あくまで今回は、俺がどこまでやれるのか試しただけ。
回復し、魔王の心臓を手に入れた俺がどのような事が出来るのかを確認するための作業だった。
そんな訳で、俺達は今街の外に出ていて、そこで一通り模擬戦闘を行っているのだった。
「少なくとも、防御力は間違いなく上昇しているね。前までだったら軽く割れてた筈だし」
「そうだな。間違いなく以前はお前の攻撃に耐えられなかったと思う」
「それに、攻撃魔法もちゃんと威力が上がっているみたいだし? 言う事なしじゃん」
肩の力を抜き、こちらに近づいて来るニナ。
俺もまた【氷狼騎士】を解除して「ふぅ」と小さく息を吐いた。
「不幸中の幸いって奴だ。魔族にとっては完全に予想外だろうし、これからは間違いなくクロードの活躍の場は増えるだろうね」
「ああ、任せてくれ」
「見た目は完全に悪者っぽいのは玉に瑕だけどねー」
恐らく魔力の影響だろう。
【氷狼騎士】の装甲は白銀から黒に変わっていた。
見た目が完全に黒騎士に変わってしまったのである。
それでも能力は変わっていない、いや、むしろ性能は向上しているので問題はない。
騎士団に戻ったらいろいろと心臓の事を含め説明する事が増えたのも間違いないのだが、まあ、それは今考えても仕方がない。
「それにしても、貴方も災難だよね」
「ん? 何がだ」
「いろいろとひと悶着あって、文字通りハートブレイクされちゃった訳だし? 短期間だけど本当に気が気じゃなかったでしょ。特に、パーティーから抜けないといけないってなった時は」
「それは、うん。そうだな」
俺は頷く。
あの時は、確かに軽く絶望していたと思う。
ヤケ酒してやけっぱちになるくらいには。
それが転じて、こんな事になるとは思いもしなかったが。
「それが今では、魔王も仲間になっちゃってさ。私もびっくりな訳よ」
「そりゃあそうだ。敵対している筈の奴が急に仲間になった訳だしな」
「そういえば、魔王は今、どうしているの?」
「呼んだ~」
と、カナタがにゅっと姿を現す。
そしてきょろきょろと周囲を見渡し、「あれ?」と首を傾げる。
「あの聖女は?」
「テレサ様は今、勇者と一緒に街の中心で結界を張り直しているよ」
「あー、そう言えば本体が叩き割ったもんね」
納得と言わんばかりに頷くカナタ。
「でも、一応言っておくけど。あの程度の結界なら魔王軍の連中なら誰でも割れると思うよ、悪いけど」
「そうなのか?」
「んー、後方支援の子達は分からないけど、基本フィジカル面で優れている脳筋がメインだからね、魔王軍って」
「脳筋て」
「つまり私みたいな人達って事か」
「それで良いのか、ニナは」
「難しい事は分からないからね。そう言う事はミナミに全部お任せ、だよ」
「分かる。頭を使うのは疲れるからね~」
「でしょ~」
なんか意気投合している二人。
仲が良くなるの早いな。
「だからまあ、魔物や悪意のある人間を遠ざけるのには良いけど、魔族相手には効かないって思っておいた方が良いよ。そうあらかじめ思っておかないと、いずれ――」
急に。
カナタは黙り、ニナの方を見た。
いや、違う。
正確には、ニナの背後を、見た。
俺達もまた、つられてその視線の方を見る。
そこには――
「だっるぅ……」
猫背の少女がゆっくりとこちらに歩いてくるのが見えた。
困惑と、驚愕。
その少女の格好には見覚えがあった。
その少女は、あの魔王が来ていた黒いコートを身に纏っていたのだ。
だるんだるんに着崩していて非常にだらしがない。
しかし、それでも。
その少女が、魔王に関する人物である事は、間違いない。
「んぁ?」
そしてその少女はこちらを見、少しだけ目を見開く。
「なんで? 魔王様がここにいんの?」
「そういう貴方、スゥこそ。どうして貴方が?」
カナタにスゥと呼ばれたその少女は少し黙り、それから一人納得したように頷いて見せる。
「んー、ん。ま、良いやどうでも。私には関係のない事だし」
あくまで彼女はきだるげで。
しかしそこから間違いなく雰囲気が、変わった。
少女は面倒臭げに呟く。
「これより、この街を粉砕する、ね?」
ガコンッッッッ!!!!
それは金属が大地を踏みしめる音だった。
現れたのは巨大な黒鉄の塊。
細長い棒状の何かが複数こちらに向いていて、背中には煙突が生えている、そんな何者かによって作られた巨人。
そこに殺意は感じられない。
それでも、イヤな予感があった。
「ニナ、あいつは――!」
俺が叫ぶよりも早く。
爆音が空気を叩いた。
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