第14話 つまるところマウンティング
ここのところ何度も通っている気がする、テレサが泊っている宿屋の部屋。
仁王立ちするテレサの前で、俺は冷や汗を流す。
ヤバい。
目が据わってやがる。
その癖表情はニコニコ顔だ。
怖過ぎる。
ここまでの緊張感を感じるのは戦場でもなかったし、もしかすると初めてかもしれない。
何が怖いって、何に対して彼女がそんなに不機嫌になっているのかこちらはまるで想像出来ない事だ。
いや、というよりも最近のテレサの行動と思考パターンはまるで読む事が出来ないのだが。
そこまで考えたところでそういえばそもそも彼女の思考を読む事は出会った時から出来ていなかった事を思い出す。
元から、テレサはよく分からない聖女だった。
……いや、だから何だという話だが。
「さて」
と。
そこでテレサは笑顔を消し完全に無表情になる。
無表情と言っても苛立ちが完全に隠しきれていない。
俺の方を睨みつけ、そして相変わらず俺の腕に絡みついているカナタを更に鋭い視線で睨みつけた。
「貴方。クロードから離れなさい」
「ん~?」
「『それ』は、私のものです」
「別に貴方のモノではないでしょ。『護衛対象』のテレサさん?」
「……っ」
そしてなんかカナタもテレサに対し喧嘩腰だった。
挑発するような言葉でテレサの事を煽るけれど、迷惑だからそう言う事するのやめて欲しい。
実際、どうやら「かちん」と来たらしいテレサの表情の凄みが増していて、見ていてとてもツライ。
正直この場から逃げ出したくてしょうがないのだが、しかしそんな事をしたら最期背後から刺されるような気がする。
どちらに刺されるのか。
それはやってみないと分からない。
「ふ、ふん! 何やら私に対してマウントを取ろうとしているようですが、良いんですか? 私、これでも幼馴染属性を持っているのですよ?」
「負けヒロイン属性じゃん」
「なっ、言ってはいけない事を言ってしまいましたね! 喧嘩売っているんですか、喧嘩売っているんですねっ!」
「そもそも幼馴染とか幾度も手を出す機会があったのにへたれて何も出来なかった負け犬じゃん(笑)」
「はぁーっ!!!!」
「敢えて言おう。お兄様の犬は私一人で十分だと」
「ご、ご主人様は渡しませんよっ!」
テレサはそう叫び、こちらにすっと近づいて来る。
物凄い足捌きで、一切反応出来なかった。
そしてカナタとは反対の腕をぎゅっと抱き寄せてくる。
むぎゅ。
カナタとは違い、柔らかいおっぱいの感触が伝わってくる。
「む……」
「ふ、ふふ。幾ら偉そうな事言ったって、そのぺちゃぱいボディでご主人様をどう誘惑するって言うんですかぁ?」
「ぺちゃぱい言うな、スレンダーと言え!!」
「まな板ボディ……!」
「んだとこの雌牛」
「牛で結構、お乳搾りプレイとか出来ますからね。何なら今から私、母乳が出る身体になっても良いですよ!」
「スレンダーなのに母乳が出るという背徳感が良いんでしょうが!」
「搾りにくいでしょ、凹凸がないんですから!」
「お兄様!」「ご主人様!」
そして二人は俺に対して同時に問うてくる。
「どっちのおっぱいを絞りたいっ!!」
「いや、どっちも搾りたくないんだが」
「私のおっぱいから出る母乳は甘くて濃厚ですっごく美味しいですよ、多分!」
「はぁ!? 私の母乳なんてあっさりしているけどのどごしさわやかでいくらでも飲めるんだから、恐らく!」
「お前等よく憶測でそんな会話出来るな」
ていうかあまりに内容があんまりなので聞いていられなかった。
お願いだからそういう会話は生々しいので二人だけの時に会話して欲しいと思う。
しかしそうは言っても、俺が渦中の人物である事は分かっている。
どうやら彼女達は俺の取り合いをしているって事は俺も理解しているし、俺が何らかの答えを出さなくてはこの騒動に終わりなない事も分かっていた。
だから、俺は応える。
「テレサ、まずは落ち着いてくれ」
「な、ご主――はい、分かりました」
一瞬噛みつき掛けたが、すぐに「すん」と落ち着くテレサ。
「別にこれからもテレサとは変わらず同じように接するから、そうカナタの事を警戒するな」
「……本当、ですか?」
「ああ、当然だ――それと、カナタ」
「ん?」
「あまりテレサをからかうな。一応お前にとっては先輩なんだから」
「違うよ、お兄様。この人は」
彼女は「ふん!」と鼻を鳴らしながら言う。
「キャラというか、属性が被っている。だけど方向性が微妙に違うから、存在的に許しがたいの」
「属性とは」
「わんこ属性。いや、雌犬属性」
「そんな属性捨てちまえ」
「だってぇ、お兄様に虐められるのとても素敵だし♡」
「……不本意ですが、それには同意ですね」
なんかテレサもカナタに同意していた。
「お兄様から乱雑に道具のように扱われているのに、襲ってくるのは果てしない快感。屈服され、征服され、自分はただの所有物だって分からされる感覚がとても素晴らしいの♡」
「そうですね。ご主人様に自身の身体を蹂躙される時、私は自身が『人間』ではなくただの『肉袋』である事を思い知りました♡」
「お兄様の鉄杭に穿たれて、ぶっ壊されたい♡」
「ご主人様に私のすべてを曝け出したい♡」
「「あはっ☆」」
なんか意気投合していた。
なんでやねん、さっきまで喧嘩してただろうが。
「お兄様」
「ご主人様」
そして、二人は相変わらず俺の腕をぎゅっと抱きしめながら、上目目線で尋ねてくる。
「「どちらの雌犬から、具合を確かめたい?」」
答えなきゃならないの、その質問?
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