第13話 イかれた新メンバーを紹介するゼッ!

「という訳で。この人は新しくパーティーに入る事となった魔王ちゃんだ」

「よっろしく~☆」

「待て待て待て待て」

「どうしたミナミ」

「どうしたも何もないんだけど……」


 ミナミはにやにやと不敵な笑みを浮かべている魔王カナタを見て「なんでさ」と突っ込みを入れる。


「いろいろと突っ込みたいところは一杯あるけど、まず一つ言わせて。どうして魔王がここにいるのよ」

「いや、こいつは魔王本人じゃなくて、俺の心臓に宿っている思念体なんだ」

「……そういえばそんな事を言っていたような気がするわね」


 渋々とと言ったように頷いて見せる彼女。


「だけど、それは貴方に敵対しているとも言っていたわよね。そいつの所為で貴方が魔法を使えなくなったとも言っていた。それがなんで今はこうして味方面して私達の前に現れているのよ」

「それは、その。昨日いろいろと話してたら意気投合して、それで仲良くなったんだ」

「そうだよね~」

「えぇ……」


 嘘つけと言わんばかりに半眼になるミナミ。

 しかし申し訳ないがこちらとしてはこうとしか言いようがない。

 俺も記憶がない訳だし、あったとしてもその内容は間違いなく他言出来ないような内容なのは間違いないので、ここは口をつぐんで誤魔化すしかない。


「ていうか、魔王」

「カナタで良いよ~」

「カナタ、ね」

「なに、私の顔に何か付いてる?」


 じっとミナミはカナタの事を見る。

 そういえば、最初カナタは自分の事を『ミナミ』と言っていた。

 ミナミ。

 それは勇者と同じ名前だった。

 顔立ちもどこか似ているような気がするし、もしかして――


「いや、違う」


 と、ミナミは何かを否定する。


「私には確かに妹はいるけど、妹がこの世界に召喚されている筈がないもの」

「そうだね~」


 ふと、カナタはちょっとだけ、本当にちょっとだけ寂しそうな表情をした、そんな気がした。

 何故、そんな顔をするのか。

 分からないけど、だけどミナミの言葉に嘘はないと思うし……


「話を戻すわ。それで、魔王。貴方はどうして私達の味方をするの?」

「それに関しては一言で言えるよ」

「と、言うと?」

「お兄様の素晴らしさを、この世界中に知らしめるため」

「……は?」


 何言ってんだこいつという顔をするミナミ。

 俺もそんな表情をした。

 何言っているんだろう、この魔王。

 対し、魔王はどこか夢見る乙女みたいな表情をしながら語り始める。


「素晴らしいお兄様の素晴らしい事をこの世界の女の子が知らないのはとっても勿体ない事、だからすべての女の子はお兄様の虜になるべきなの」

「……言っている事が難解過ぎて理解出来ないのだけれど」

「まあ、一言に言ってしまえば、お兄様ハーレム計画かな?」

「なるほど、貴方の頭の中が意味分からない事はよく分かったわ」

「貴方もハーレムの一員にならないか?」

「……ならないわよ」


 馬鹿言っているんじゃない。

 額を押さえ首を横に振るうミナミ。

 

「とにかく貴方に敵意がないのは最初から分かっていたし、それで私達に助力してくれるというのならばそれこそ助かるわ。いろいろな話を聞かせてくれそうだし」

「まあ、そこら辺に関しては期待しててよ。いろいろ情報は聞かれた範囲では教えてあげるから」

「……貴方、確かここを訪れたのは仇討ちとか言ってたらしいけど。魔族に対して何か思う事はないの?」

「別に、何も。私はあくまで思念体だから、魔王本人が抱える問題とは一切関係ないからねー」

「それはそれでどうかと思うけど――で」


 と、そこで初めてミナミはカナタから視線を外して横を見る。

 

「テレサはこの事に関して、何か意見はない?」

「……」


 テレサは。

 ニコニコ笑っていた。

 黙ってニコニコ笑っていた。

 はっきり言おう。

 怖過ぎる。

 怖過ぎるから何か言って欲しいのだけれど、彼女は黙って俺の事をじっと見つめてくる。

 視線を外せない。

 外したらぶっ殺されそうな、そんな気がした。


「……まあ」


 そして、それから数秒して。

 ようやっとテレサは口を開く。


「本人自体には敵意がないみたいですし、何よりミナミが『良し』としたのならば良いのではないでしょうか」

「それで、大丈夫なの?」

「ええ、大丈夫です。魔族との戦いに私情を挟むつもりはありません。大義の為には時に教えを忘れ最も正しい事をするべきだと、主もおっしゃっていますし」

「そう、貴方がそう言うのならば」


 ふっとミナミは肩から力を抜き、それから黙ってその場から立ち去ろうとする。


「どこに行くんだ?」

「ニナを迎えに行くわ。改めて魔王の事を紹介したいし」

「あ、それならちょっと待ってください」

「ん?」

「ちょっと、個人的にクロード達とお話、したいですので」

「え゛」


 くるり、と彼女は笑顔のままこちらを見てくる。


「良いです、よね?」

「……」


 ぶんぶんと首を縦に振るう事しかない。


「なんだろ、お話って。気になるな~」


 そしてカナタはニコニコ顔で俺の腕に腕を絡ませてきた。

 

「ワクワクしちゃう。どんなお話するんだろ♪」

「……ええ、楽しいお話をしましょう」


 相変わらず二人はニコニコ顔で。

 俺は一人がくがく足を震わせるほかなかった。

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