第4話 朝、今後の方針
「ん、んー?」
集合場所の街の広場にて、勇者パーティーの連中と合流した俺達。
そこで、ニナが何やら不審そうな表情をする。
「なんか二人、距離感がおかしくない?」
「え」
「はい?」
こちらをジロジロと見つめるニナ。
それに同調するかのようにミナミも頷いてみせた。
「確かに、昨日よりちょっと距離が離れているように見えるけれど、もしかしてあの後喧嘩でもしたのかしら?」
「いや、別に。そんな事はないよ」
「そう?」
そう言いつつもミナミはあまり納得していない様子。
ヤバいな。
勇者であるミナミは天性の直感を持つ。
その的中率は、一度として魔族の急襲を許さず、常に先手を取る事に成功している程だ。
そんな直感をこんなところで使うなよと思いつつ、俺は平静さを装いつつ冷静に答える。
「ただまあ、昨日ちょっとお酒を飲みながらはしゃいじゃってな。それでちょっと気を付けなきゃって思っているのはあるよ」
「……テレサになにかしたの?」
「テレサ様は俺の護衛対象だぞ? 未遂でもそんな事したら首が飛ぶよ」
「ふーん」
ちなみに、こうしている間もテレサは含みのある笑みを浮かべながら無言でいる。
どうやら彼女からの助言は期待出来ないらしい。
いや、今日の朝の事を思い出すと、口を開けたらどんな事を言われるか分かったもんじゃないので、むしろ黙ってくれている方が嬉しいか。
「ま、良いですケド」
首を傾げつつとりあえず納得したらしいミナミ。
その様子にほっと胸を撫で下ろす。
流石の彼女も、テレサが昨日の今日でマゾヒスティックな欲求に目攻めたとかそんなトンチキな現象へと辿り着く事は出来なかったようだ。
出来たら凄いし、出来たら困る。
「じゃあ、ま。とりあえず今後の方針について話しましょうか」
と、ミナミは少し表情を引き締め、腰に手を当てながら俺達を見る。
「今後の事だけど、とりあえず私達は魔王軍の幹部の一人を倒す事に成功した。それ自体は嬉しい事だけど、それ以上に問題も発覚したわ」
「問題?」
ニナの疑問にミナミは答える。
「遠距離攻撃の手段の少なさよ」
「えー? 一応テレサとミナミでそこら辺はカバー出来てるじゃん」
ニナの言う通り、実際勇者パーティーは少数ながらも精鋭が揃っている。
勇者、ミナミ。
片手剣使いながらも斬撃を飛ばしたり、あるいは魔法を使う事で遠距離攻撃を可能としている。
聖女、テレサ。
彼女は回復魔法や浄化魔法、強化魔法など補助の魔法を得意としているが、決して攻撃魔法を使えない訳ではない。
むしろ得意である。
そして、戦士のニナ。
彼女に関しては純粋な近距離アタッカー。
だがしかしその威力は勇者に匹敵するどころではない。
むしろ軽く凌駕している。
具体的に言うと、最強種と呼ばれるドラゴン相手ですら攻撃を当てさえすればノックアウトさせる事が可能なほどだ。
そして、聖騎士の俺。
俺は基本的にテレサの護衛を仕事としているが、今はどうしても防御を取る事の出来ない仲間の補助をしている事が多い。
どうしても強大な魔法を使う時、隙が出来てしまう時がある。
あるいは、盾を持ち敵の射線を防ぎつつ、攻撃の隙を作ったりもする。
他のメンバーに比べれば仕事量は少ないけど、パーティーに貢献は出来ていると自負している。
攻防隙がないパーティー。
しかしミナミの言葉も一理ある。
「純粋な遠距離攻撃アタッカーが欲しいって、そういう事だろう?」
「ええ、そうよ。魔法使いとか、弓兵とか、そこら辺をスカウトしていきたいわね」
「当てはあるのか?」
「……一応冒険者ギルドで求人を出してみようと思ってる。どうせこの後はしばらく魔族との戦いとは無縁のちまちました仕事をするだろうから、その合間にって感じ」
「なるほど」
俺は頷き、他のメンバーの様子を見る。
ニナは不服そうではあったが頭の中では理解しているらしく渋々と言った感じに頷いている。
彼女はどちらかと言うと感覚に従うタイプだが、決して馬鹿ではない。
むしろ頭に関しては冴えている方である。
そしてテレサの方を見る。
「……♡」
なんか、目が合った。
え、なんで合うの?
ちょっと背筋が凍る。
ニコニコとした笑顔にすら恐怖を覚える。
「て、テレサ様はどう思いますか?」
「……ええ、そうですね」
彼女は何か言葉を選ぶかのようにゆっくりとした口調で答える。
「私的には特に不満はありません。ご――クロードの負担が減ってくれれば私も嬉しいですから」
「ふーん」
にやにやと笑いながらニナが言う。
「なんだかんだ言って、テレサってクロード好きだよねー?」
「ええ、大好きですよ?」
「お、おぅ。まさか正直に答えてくるとは思ってもみなかったぜ……」
そんな受け答えを俺は冷や冷やしながら見ている。
彼女も聡明だから、迂闊な発言はしないだろうけど怖いものは怖い。
そしてそんなハラハラしている俺と二人に対し、ミナミは子供を見守る親みたいな視線を送るのだった。
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