第3話 記憶喪失……(⑉⊙ȏ⊙)

 静まり返った病院の廊下を駆け抜けていった。


『カッカッカッ……』


 エコーが効いているように自分の足音だけが、ヤケに響いている。



 走ってはいけないと解っていても、気が焦ってしまう。


「ハァハァ……」運動不足なのだろう。

 ほんの少し駆けただけ息が上がった。



 一目散に受け付けで聞いた病室へ駆け込んだ。


「うゥ……!!」一斉に、看護師らの視線がこちらに向いた。



「や、大和です……!! マリアは!!

 大和マリアは、こちらですか!!」

 ボクは早口で、まくし立てるようにマリアのことを看護師らに訊いた。



「あァ……、ご主人ですねえェ」

 看護師らは困惑気味に笑みを浮かべた。


「ハァハァ……」息を切らして頷き、病室のベッドの様子を伺った。


 すでに、マリアは病室のベッドの上で横になり、応急処置は済んでいるようだ。



 頭に包帯が巻かれ、痛々しく見えた。

 だが、キレイな顔にはキズひとつないので、ほんの少しだけホッとした。



「奥様!! ご主人が来ましたよ!!」

 看護師が優しく妻に声を掛けた。


 だが、マリアはボクを見てもなんの反応も示さない。ヤケに顔色が蒼白あおざめている。



「お、おい!! マリア……?!

 大丈夫か」

 彼女の元へ歩み寄り声を掛けるが、マリアは怯えた表情でボクを見つめているだけだ。



「……」

 また言い知れない嫌な予感がした。


「あなた……」マリアは、かすかに震えるような声でボクを呼んだ。



「ああ、そうだよ。ノアだよ!!」

 ボクはまた頷き、すぐに彼女の手を握りしめた。


「あなたは、どなたですか……?!」 

 しかしマリアはボクの手を振り払い、少し睨みつけた。



「えェ……?」

 まさか……。



「あ、ご主人!! 今夜は、あまり刺激なさらずに!! 奥様を安静になさって下さい!!」


「えェ……?」



「幸い、命には別状ありませんので……。

 ただ……」

 看護師は思わせぶりに言葉を飲み込んだ。


「ハイ!! ただ、なんでしょうか……」

 またザワザワと胸騒ぎがした。



「奥様は、ご自分の名前も解らないようで、マイナンバーカードで確認しました」



「えェ……!!(⑉⊙ȏ⊙)!! それじゃァ!!」

 まさか、記憶喪失!!



「バッ、バカなァ……」

 そんなドラマや漫画じゃあるまいし……。








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