10 今の職場は
澪実さんの受け持つ学年が修学旅行真っ最中の頃に遡る。
三枝は、別口から別の殺し屋に依頼があったことを掴んだ。
近年、いわゆる視える人が幽霊に調査を行った結果、寿命を全うした方々は天国で過ごすことを選ぶ傾向にあると知られてきた。
死後も守護霊になって働きたいと望むのは、かつて未練を感じ、成仏に時間のかかった若者が多数派だそうだ。
そして現世ではまだまだ生者に対して守護霊の数が充足していると言うにはほど遠い。
守護霊がいる人といない人で不公平が生じる、ということで守護霊問題は物議を醸した。
それを解決しようと目論んだ役人がいた。
役人は、おそらく安易な考えで、殺し屋に依頼した。「誰でもいいから若い守護霊を増やせ」。
そして、集団殺害は実行された。
澪実さんの勤務する高校の教員、生徒はみな殺害された。かなり
実は澪実さんたちも、修学旅行から帰ってから遅れて殺害決行が予定されていた。
どのみちこの先暗殺が決まっていてそれを覆せないなら自分も加担しよう、と三枝は言い出した。
始め三枝のその論理は僕には全く理解できなかった。
結果として、首謀者の役人らの元に憑いていた守護霊がみんな辞職した。
不幸が首謀者らの元に集まり、彼らのほとんどが不運で亡くなった。
そして、殺害された教員・生徒らと、彼らの守護霊だった者たちは、次に政治の餌食になりそうな生者を護ることに徹した。
僕も澪実さんを呪い殺したわけだから言えた義理ではないけど、当時、情勢を淡々と眺める三枝を不気味に思ったことは覚えている。
最終的に、何が正しかったのか今もわからない。
――澪実さんの隣で三枝がぐちぐち喚いた。
「あーあ……仕事したくないなあ……。このお祖母さんなら俺がいなくても自力で十年二十年は生き延びるでしょ」
澪実さんが「ぐずぐず言わず仕事しなさい」と一喝した。
𠮟りつけた割には穏やかな眼差しだった。
三枝は、モモコお祖母さんの守護霊になった。
お祖母さんの天国の友人サクラさんから「娘たちと一緒に天国でモモコちゃんを待ってるからね」という伝言を届けるために、死後に守護霊となる進路を選んだのだ。
僕はもう一度、心の中で噛み締めるように、呟いた。
何が正しいのかわからないけれど、ひとまず、今の職場はまあまあ悪くない。
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