10

何も焦ってなんかないさ。

誰かと逢うと自分の価値を疑う。

なんて、ちっぽけなんだろうって。

遅いね。

伝えられないね。

分からないね。

秋は自分が語りたい。

今は語れない。

秋は自分が嫌いだ。

自分の気持ちを誤魔化してばかりいる。

秋は常に変化を望んでいる。

その気持ちは嘘ではない。

光と風の街。

夜を歩く。

都市の夜。

ウイルスと闘う街。

人々の声は小さくなった。

人々の距離は遠くなった。

人々を照らす光は明るいままだった。

ギターを背負った男が語っている。

人々は距離を置いて耳をすましている。

男は夢を追っている。

男は生きたいと語っている。

生きづらい世の中で負けないと頑張っている。

拍手する為に秋は聴き続けた。

男が歌うことをやめてほしくない。

彼に生きていて欲しい。

身も知らず、離れれば他人にも値しない関係となるのに秋は祈る。

街は人を護っている。

生きて欲しいから。

頑張って欲しいから。

秋は応援する。

今、歌っていない秋の代わりに誰かを応援する彼に力をあげたい。

(がんばれ。がんばれ)

みんな、何を願っているんだろう。

どのようにして生きていく為に願うんだろう。

誰かが願っていたときに全ての人の肩を優しく抱けるだろうか。

秋は抱けない。

けれども。

みんな生き抜いて欲しいという気持ちも本当だ。

秋と相反する人間ですら、秋は生きて欲しいと思う。その気持ちは嘘ではない。

男がギターを置いた。

秋は拍手する。

人々は眠たい目で通り過ぎる。

秋の他にも拍手する人がいる。

男は照れくさそうに頭を下げた。

人々は散っていく。

元の流れに戻る。

路上で誰かが歌い、終わる。

何かが光り、消える。

繰り返しの中で人は何を得たんだろうか。

男は片付けを始める。

「あの。」

男は秋の方を見た。高揚が頬に出ている。

「素晴らしい演奏でした。ずっと聴いていたくなるそんな、そんな」

「あはっ。ありがとうございます。冥利に尽きますわ」

男は照れくさそうに頭をかく。

「いつも弾いてらっしゃるんですか。こうやって」

「そうっすね。つい最近まで路上ライブなんて夢のまた夢見たいなひどい状況やったけど、ようやくできるようになって」

「出逢えてよかった」

秋は握手する。

男は少し困惑しながらも頭を下げる。

「頑張ってください。これからも」

秋は離れていく。

今、自分は何をしたのか。秋は行いを反省する。

何処となくぎこちなかった。いつまでも本当と思われる気持ちと共に生きることは難しいな。

気持ちは嘘ではない。伝えたいものは本当だ。しかし、自分の中にそこまでの気持ちがなかった。

今自分は何を考えているのか。

いつも、よくわからない。

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