第16話 幕間 招待状
木葉英奈は夢を見続けていた。
最愛の兄に殺される夢だ。
兄の手は妹の首を絞め上げ、──それがずっと続いていた。
「おに……ちゃ……」
「……、」
英奈は兄に多くの迷惑をかけてきた自覚はあった。その兄が苦しんでいるなら、苦しんでいる理由が
それで兄が救われるなら、それでもいい。そう思っていた。
だから、このような夢を見ているのだろう。
これはきっと、自分自身の深層心理が見せている夢なのだ。
だが……だからこそ──兄は妹を『殺せない』。
木葉詠真に木葉英奈を殺せるはずがない。
兄を最も愛しているのは妹であり、兄の愛を一番理解しているもまた、妹なのだから。
英奈は『それでもいい』と思う反面、想像すら出来ないのだ。兄が自分を殺すことを。あの人は何があっても守ってくれる。どんな苦難が襲い掛かっても必ず助けてくれる。
その信頼は揺るがない。その愛こそ、兄妹を繋ぐ何よりの絆なのだから。
「せかい……いち、かっこ……いい……お兄ちゃん、だもん……だから……」
──泣かないで。
「えい……な……」
首を絞め上げている兄は、その瞳から涙を流し続けていた。
「……おに……ちゃん」
もう苦しまなくていいから。大丈夫だよ。
そう言って、英奈は兄を抱きしめようと腕を伸ばす。
……だが、なぜかそこに右腕が存在していなかった。
☆ ☆ ☆
サフィラス・マドギールは苛立ちを露わにしていた。
木葉英奈捕縛から丸六日。身体に強烈な電気信号を与えて強制的に超能力を発動させる装置に繋いでいるにも関わらず、彼女は一向に超能力を発動させる様子がない。
制御率という項目が一際低いとは聞いていたが、全く発動してくれないレベルではないとも聞いている。ならば何が原因なのか。
そう考えた時、心当たりは一つだけあった。
「おに……ちゃん……」
彼女が延々と口にし続けている『お兄ちゃん』という言葉。特殊な薬の投与によって悪夢を見せることにより、外部からの刺激をある程度遮断すると同時に感情の昂りを誘発する効果があるのだが、どうもこれが原因となっているようだ。
ともすれば目を覚まさせるべきなのだろうが、拷問じみた実験で早々に精神に異常をきたされるのは非常に惜しい貴重な人材だ。彼女の役目はこの島でデータを取るだけ終わらない為、出来るだけ壊さずに持ち帰りたい。
そこでサフィラスはあることを思いついた。
「兄妹セットならば、多少安定するかもしれない……」
兄・木葉詠真の捕獲。たった一人で拷問を受けるより、二人で、それも肉親である兄とならば精神へのダメージもいくらかマシになるだろうと考えたのだ。
ならば、どう手に入れるか。木葉詠真はこの島の中で七位という地位を得る強力な超能力者らしい。下手な刺客は返り討ちにされる可能性が大きい。とは言え、七位に匹敵する者を利用するには今少し時間が惜しい。
「ふむ……ならば僕自ら動くとしましょうか。となれば、お兄様をご招待する必要がありますねぇ。……クヒヒ、ではとっておきの招待状を作成するとしましょう」
サフィラスは手の中で遊んでいた『千切れたストラップ』を木葉英奈の右腕の中指に縛り付けると、すうっと指を這わせ、肩の辺りで動きを止める。
肌に当てた指先に薄青い円状の模様が広がり、
「少しちくっとしますよ……クヒ」
──サフィラスの顔に鮮血が飛び散った。
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