第7話 幕間 異物


 夜の闇の中。ある建物の屋上に男が座っていた。その男の髪は──青い色。

 男は濡れた革靴を愛おしそうに眺めながら足を組みかえる。

 脳裏に蘇る、あの少女の顔。なんと愛おしいことだろうか。

 欲しい。一刻も早く欲しい。一分一秒が待ち遠しい。


「──下克上の時は近い。生温い『超能力』の国など早々に立ち去りたいものですね」


 その男は立ち上がり、窮屈なスーツを脱ぎ捨てた。

 次の瞬間、男が纏っていたのは闇──漆黒のマント。


「使徒よ、そのまま本国で沈黙しているといい。もうすぐその座は私が頂くのだから。その後で、先代に堕ちたアナタの素顔を拝見させてもらうとしましょう」


 夜の空。闇に溶け込む異物の耳を塞ぎたくなるような笑い声が響き渡る。

 近い。時が近い。


「極上の手柄はすぐそこにあるのですから、僕が自由を得る時はもうそこに……」


 男が手柄を、自由を手にする時が。


「待っていてくださいね、迎えはもうすぐ来ますので」


 ──誰かが、何かを奪われる時が。

 それはすぐ背後まで迫っていることに『誰か』は気付けない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る