第4話 四大元素Ⅲ

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 能力制御率実技テストが無事終了。残る通常授業も終わって、昼時を前に柊学園では終礼の鐘の音が響き渡った。

 帰り支度を済ませて本来ならこのまま下校となるのだが、詠真は今朝生徒会長から放課後に生徒会室に来るよう連絡を受けている。

 了承した以上無視する訳にもいかず、これといって断る理由もない。

 ──ないこともない、な。

 二年の教室がある二階から生徒会室がある三階へ上がる階段を五段ほど進んだところで、詠真はくるりと身体を反転させる。今になって行きたくなくなったのだ。


「……帰ろう……っ!」

「きゃっ」


 振り向きざま、詠真は肩に何かがぶつかった軽い衝撃に思わず手を伸ばしていた。

 だがその手は可愛らしい短い叫びには届かず、不意の衝突でバランスを崩した彼女は階段下で盛大に尻もちをつくことになった。


「お尻いったぁ~」

「あ、悪い。怪我はないか、舞川」


 詠真の眼下、尻もちをついた拍子にスカートの中を惜しげもなく露わにさせた少女は、その事に気付かず階段の上から手を伸ばすクラスメイトを半眼で睨み付けた。

 舞川鈴奈まいかわすずな。それは彼女の名前である。二つに束ねてなお腰に届く程長く細い綺麗な黒髪は廊下を黒く染め、混血だろう類稀な美貌は半眼でも損なわれることが無い。良くも悪くも痩身のモデル体型で文句の付けどころがない圧倒的麗人。だがあまり他人と話さない冷たげな印象と保有する超能力から学園内では『薄氷はくひょう』と呼ばれている二年三組の一員だ。

 そして彼女も詠真と同じ『序列取得者』である。


「わ、悪かったって。そんな睨むな」

「絶妙なタイミングね。わざとかしら?」

「わざとだとして俺に何の得がある……」

「貴方の視線、私の顔じゃなく、少し下なのだけれど」

「! い、いや、まあ……へえ、水色なんだあと思って……」

「えらく正直なのね。感想はそれだけかしら?」

「感想!? え、と……そんな姿でも綺麗っつーか……」

「そう。いいわ、許してあげる。せっかくの光景、忘れないことね」


 そう言うと鈴奈は立ち上がってスカートの上から尻を叩き、頭頂部から生える二本の髪束を手の甲で払って、詠真の隣を何事もなかったかのように通り過ぎていった。

 ……なんなんだアイツ。

 詠真は彼女と言葉を交わした経験は少なく、といっても同じ序列取得者として他の者よりは多いかもしれないが、それでも友と言える程交流している訳じゃない。今の今まで舞川鈴奈がどういった人物なのかよく分からなかったが、今少しだけ分かった気がした。

 変な奴。それに尽きるだろう。


「……普通忘れろって言うもんじゃないのか? 意味が分からない……」


 薄氷──その薄い氷の奥にあったのは、水色のフリル付きレースパンツだった。


「……ハァ。これもバックレようとしたバツか……ご褒美なのかもしれないけど、こう、なんとなしに諸手を上げて喜べないのはなぜだろう……生徒会室行くか」


 ☆ ☆ ☆


「そんな気はしてましたけどね」


 生徒会室へ入室した詠真の視界に真っ先に入ってきたのは、ついさっき遭遇した『薄氷のレースパンツ』ことクラスメイトの舞川鈴奈だった。

 鈴奈は入室するや否やそのような台詞を吐いたクラスメイトへ、無表情でこう尋ねる。


「また見たくなったの? 飢えてるの? 今日の晩御飯に一品添えたいのかしら?」

「はいはいお上手ですね。生徒会長座布団を一枚お願いします。できれば鉄板入りで」

「そぉれ~」


 部屋の奥から間延びした声と共に座布団が投げられ、あろうことかその座布団には本当に鉄板が仕込まれていた。重量五キロはあるだろうそれをなんとか受け止めた詠真は、謎の用意の良さにツッコむ気力さえ失ってしまう。


「何に使うんですかこれ……」

「何って、こんな時の為ですよ?」

「こんな時は二度と来ないので家に持って帰ってください」

「あら、そうですか……残念です」


 メールでも目にしたその言葉、『残念です』と口癖とする彼女の名は雨宮滴あまみやしずく。立っていれば膝裏を撫でるほど伸ばされた黒髪は隅々まで手入れが行き届いており、彼女の顔立ちは凛々しさと可憐さが絶妙なバランスで融合した芸術的な美しさを誇る。全身のあらゆる箇所においておよそ欠点のない人体の黄金律は、もはやヒトを越えた何かなのではと疑いたくなるほどに素晴らしい一つの美の到達点だ。その超越した美しさゆえか、彼女は一七歳ながらどこか老成した雰囲気を漂わせている。それすらも美。彼女を構成する要素総てが美へ昇華されていると言っても過言ではないだろう。加え彼女も学園で四人いる序列取得者の一人。まさに非の打ちどころがないとはこのことである。

 詠真は、改めて現状を確認する。現在、生徒会室には彼女ら二人と詠真の三人のみ。

 実は舞川鈴奈と雨宮滴、彼女らは非公式柊学園最強美少女選手権でトップ美少女の座をかけて戦争を行っている三大派閥の二柱であり、つまり学園で最美少女の二人なのだ。

 もちろん、戦っているのは非公式ファンクラブであるのだが。


「緊張していますか? 木葉くん」

「あ、いあやそういう訳じゃ。ただ、この場をファンクラブの奴らにでも見られたらどうなるんだろって心配になって」

「大丈夫ですよ、木葉くん」


 滴は会長席から徐に立ちあがると、髪を揺らしながら詠真に近付き、そのまま彼の胸板に両手を添えて頬を摺り寄せた。

 詠真は去年の夏に行われた滴との模擬戦で勝利して以降、かれこれ半年以上も彼女からこのような熱いアプローチを受け続けている。生徒会室に行くのをやめようと思ったのはこれが理由である。迷惑でこそないが、一思いに突っぱねられない詠真の未熟さが招いたことでもあるため、ただの自業自得だと言える。


「その時は生徒会長として取り締まるだけです。風紀の乱れは許しません」

「一番乱れてんのは会長だと思うんですけど」

「ふふ、そうですね。私は毎日木葉くんの脳内であられもない姿に剥かれ、さぞ激しく乱れていることでしょう。木葉くんの、す・け・べ・さ・ん」

「会長を晩御飯の一品に添えたことは一度もないですよ」

「あら、とても残念ですぅ……」

「その茶番はいつまで見ていればいいのかしら?」

「舞川さんも混ざる?」

「いいえ。複数プレイは趣味じゃないので」

「そういう問題か?」

「他にどういう問題が?」

「乱交じゃなきゃいいのか?」

「言葉を選びなさい。でもまあ、ええ、貴方が私に恋をさせてくれるのならね」


 ……やっぱ変な奴だ。

 詠真は滴を剥がしながら内心ため息を吐いて、近くのパイプ椅子に腰を下ろした。

 会長席に戻る滴の背中を眺めながら、


「俺と舞川、んで会長と来たら、御影みかげも呼んでるんですか?」


 御影とは、二年四組の御影夏夜を指しており、四人目の序列取得者だ。彼女は鈴奈や滴とは別ベクトルで人気があり、非公式柊学園美少女選手権三大派閥の一柱でもある。

 滴は残念そうに首を横に振り、


「御影さんは外せない用事があるそうなので先立って内容をお話したのですが、どうも乗り気ではないようで断られてしまいました」

「え、なんか面倒なことなんですか?」

「面倒かどうかは受け取り方次第ですね」

「で、その内容は何なのでしょうか」


 鈴奈もパイプ椅子に腰を下ろして大胆に足を組み、白い太ももが顔を覗かせる。

 彼女の一連の行動と言動からして、詠真は自分がまず男として見られていないのだろうということを理解し、それが少し気に食わないので鈴奈の太ももを凝視することにした。


「はい、では簡単に説明しましょう。実は明日の放課後、他校を交えた交流試合が行われることになったのですが」

「明日? 急な話だな」

「いえ、交流試合自体は前から決まっていたのですが、本来なら序列取得者は参加できない決まりだったのです。ですが複数の企業から要望があり、急遽我が校から序列取得者を参加させることになったのです」


 交流試合──つまり超能力者同士の超能力を使用した模擬戦形式の試合のことだ。天宮島では年に一度の祭典で高校生による超能力を用いた競技が開催され、その中の一つに模擬戦形式のトーナメントバトルも行われる。これの主目的は、公式の場で超能力を大々的に披露することで研究所や超能力を応用した企業へのアピールすること。いわば、自分を売り込む絶好の機会。これを機に大学進学ではなく就職を選ぶ者も少なくない。

 交流試合とは、学校主催で研究所や企業を招き、優秀な生徒を売り込むことで学校の実績を上げつつ生徒にチャンスも与えられる一学期に数度行われる行事のことである。

 滴の言葉通り、本来なら序列取得者は参加できない。というよりさせないものだ。序列という最大のアドバンテージを持つ生徒は交流試合を行わなくても研究所や企業の目に止まる存在。ならばこの場で出すべきなのは隠れた才能だ。

 だが、お客様からの申し出ならば断わる理由がない。

 鈴奈は足を組みかえながら太ももを凝視される視線など気にもせず、


「それを断ったってことは御影さんは進学一択なのかしら」

「どうもそのようですね。あと、あまり目立ちたくないとも」

「序列取得者が今更な話だけどな」

「まあ、この場に居ない方の話をしても仕方ありません。御影さんが参加できないとなれば、参加できるのは三人の中で二人だけになってしまいました」

「それはどういう?」

「実は今回の交流試合、タッグバトル形式でして……これも向こうの要望ですね。毎度同じものを見るのも飽きるので、趣向を変えてみたいとのことです」

「我がままなお客様ばかり集めたのね」

「学園長も同じことを仰ってました」


 乾いた笑顔を浮かべた滴は鈴奈の太ももを凝視している詠真の姿に首を傾げながら、


「私は大学進学を決めていますので、残ったお二人に参加して頂こうと思っているのですが、不都合はございますか?」


 数秒ほど沈黙が落ち、先に答えを出したのは鈴奈だった。


「タッグバトルなのよね?」

「はい」

「つまり、学校の為にも私たちの為にもマヌケな姿は晒せない。ある程度のコンビネーションは必要になってくるわ」

「そうだな。でも俺と舞川はまともに話したのは今回が初くらいだ」

「そうね。でも重要なのはそこじゃないわ」

「重要じゃないとは?」

「必要なのは認めることよ、互いの力をね」

「? 俺のがお前より序列上なんだが」

「貴方は七位。私は一五位。ダブルスコアね。でもそれは数値だけのものよ。貴方が肉眼でどれほど私の太ももを凝視したところで感触までは分からないでしょう? 触ってみないと分からない。つまりそういうことなの」


 ふうむ……と唸った詠真はようやく鈴奈の太ももから視線を外し、彼女と目を合わせる。


「俺と一戦やって、背中を預けられるかどうかを確かめたい。ってことか」

「ダメかしら? 必要ないかもしれないけど、私に勝てば、何でも言うこと聞いてあげてもいいわ。でもこういうのってフラグって言うのかしら?」

「ほう、余裕だな。……そんなに俺と組む気がないと」

「負ける気がしないってだけよ。私が勝ったら貴方を認めないって訳じゃないし」

「…………うーん。……分かった。参加するしないはとりあえず保留として、二年三組最強がどっちかここいらでハッキリしようか。今から模擬戦、不都合ないか? 生徒会長」

「木葉くんが私にではなく舞川さんに対して発情しているのは残念でなりませんが、いいでしょう、生徒会長の権限において許可しましょう」


 ☆ ☆ ☆


 場所は再び柊学園特設競技場。生徒は殆どが下校しており部活も活動は明日からとされている為、たまたま残っていた僅かな生徒だけがスタンドに点在している。彼らが見つめる先、グランドの中央には二名の生徒が一◯メートルの距離空けて向かい合っていた。

 天宮序列七位・木葉詠真。評価九三パーセント。

 天宮序列一五位・舞川鈴奈。評価八六パーセント。

 彼ら『序列取得者』には政府から『異名』が与えられており、試合を行う時はその名を名乗るのが一種の礼儀のようになっている。これは公式戦ぐらいしかお目にかかれない希少な光景で、そも今回のような模擬戦自体珍しいことなのだが。


「さて、準備はいいか舞川」

「いつでもどうぞ」


 詠真は片手を挙げることで放送室からグランドを見下ろす滴に準備完了を告げる。

 ジジッとスピーカーからノイズがもれ、滴の声が響いた。


『ルールを確認します。制限時間は五分。勝敗条件は、どちらかが行動不能あるいはギブアップ。又、こちらで続行不能と判断するか、模擬戦を逸脱した危険行為と判断した場合は試合如何に関わらず中断を命じます。応じない場合は実力行使に移行した後、停学処分か最悪退学も覚悟してください。まあ無いとは思いますがいちおうです。──では』


 ガコンッと起動音を立て、グランド外枠の床が一メートル開いた。そこから現れたのは空へ向かって高く聳える半透明の壁──対超能力用特殊強化ガラスの防壁である。

 高さ一◯◯メートル幅二◯◯メートルの円柱ステージ。その中央で、短く息を吐いた二人は僅かに片足を引いた。


「私から名乗らせてもうわね。序列一五位〈天上てんじょう氷花ひょうか〉舞川鈴奈」

「よくもまあそんな恥ずかしい名前を堂々と……ハァ。序列七位〈四精霊王エレメント・フォース〉木葉詠真」


 序列一桁は異名に『王』の字を冠し、彼らは纏めて『九王』と総称されている。

 詠真はこの名が大嫌いだった。理由は、単純に恥ずかしいからだ。

 だが名乗り終えてしまえばもう気にしても仕方がない。

 集中。そして、開始のゴングが鳴り響く。


『〈天上の氷花〉VS〈四精霊王〉──試合始めッ!』


 先攻を取ったのは詠真だ。能力制御率テストと違い、序列一五位を相手に下手な出し惜しみはしない。右目が緑に左目が茶に染まる。それが表すのは二属性同時発動である。現状詠真が同時に発動できるのは四つ中二つが限界なのだ。

 風の力を巧みに操って身体を地から数センチ浮かび上がらせた。同時に滑空移動で前進し、一気に肉薄を試みる。


「よく知っているのね」

「これでも舞川とは一年の時からクラスメイトだからな」


 舞川鈴奈の超能力は『破滅凍土アブソリュート・ゼロ』と言って、大気を凍らせて自在に氷を生み出す力だ。名の通り彼女は絶対零度を操れるが、能力の影響は自身にも及ぶ為使用することは無いと言われている。そもそも、発動すれば『殺してしまう』規模の力など使用する必要がないのだ、そこは警戒する必要もない。

 詠真が警戒したのは足場の支配だ。地面を氷漬けにされればまともに歩くことはできず、完全に相手の術中にはめられてしまう。だが浮けるなら話は変わってくる。しかし、それでも空に躍り出るのは危険だと詠真は考える。相手は空気を凍らせる力だ、どだい何処に逃げても一緒なのだが、あの力は能力者自身にも影響を与える。つまり、彼女は自分の近くでは大きな力は使えず、離れれば離れる程使える力の規模は大きくなるという訳だ。

 ゆえの肉薄。相手の矛を奪った上で、蹂躙する。


「ふふ、でも少し甘いわね」

「──ッ!?」


 接触まで三メートルというところで、詠真の足は芝生を踏みつけた。身体を浮かしていた風が殺されたのだ。滑空のスピードを殺しきれず慣性により前につんのめった詠真は、咄嗟に判断で転倒先に跳び箱二段程度の石柱を出現させると、逆立ちの要領で手を突いて強く押し返し、弧を描いて大きく宙を舞った。

 最高到達点で地上の鈴奈と視線が交錯する。


「なぁるほど」

「さて、どう出るのかしら?」


 詠真の落下点は既に氷に侵されており、足場は掌握されている。

 更に鈴奈は空気を凍らせることで、空気の流れである『風』を封じてきた。

 四つの内早くも一つが攻略され、それ以前に『水』は『氷結』と相性が悪すぎる。

 残るは二つ。だが、その二つに『氷結』と相性が良すぎる力がある。

 右目の色が緑から赤に変わる。操る力は──氷を溶かし尽くす『火』だ。


「まあ妥当よね」

「まあ妥当だな」


 詠真が着地した地面の氷だけが部分的に溶解し、水蒸気が立ち上っていた。

 簡単な話だ。靴底から放出した火で氷を溶かしただけ。だが靴は微塵も燃えていない。

 そしてこれこそが、


「舞川、これが七位と一五位──一桁と二桁の差だよ」


 轟ッ! と燃え上がったのは──詠真の全身だった。足元から頭を包み込み、まるで見滲み出し可視化したオーラのように、詠真は炎を纏っていた。

 これが二人を隔てる差──能力制御率の差である。

 鈴奈は二桁──自分の能力で周囲に及す影響が自分にも及んでしまう。

 詠真は一桁──自分の能力で周囲に及ぼす影響を、自分が選択したモノ以外へ一切として及ばないよう能力を発動することが出来るのだ。

 物理現象の改変を選択できるとでも言えるだろう。つまり、詠真は自分の能力で生み出した火を全身に纏っても影響を一切受けず、自分が選択したモノだけに火の影響を及ぼすことが可能ということ。現在詠真が選択しているのは地面の氷だけで空気は選択していない為、酸素を燃やすことはない。火の影響を受けないからと言って、酸素を燃やしてしまえば窒息してしまうからだ。

 見せつけられた歴然とした力の差。

 だが、鈴奈は微塵も怖気付いていなかった。


「空気を燃やさないってことは、こういうことよ?」


 直後、詠真は炎諸共、氷の柱の中に閉じ込められた。


『舞川さんッ!?』


 スピーカーから滴の取り乱した声がノイズ混じりで響く。

 この状況、端から見れば『人間を氷漬けにした』ようにしか見えない。鈴奈の超能力は空気を凍らせる他、水分を凍らせる力も備わっている。全体の八◯パーセントが水分で構成される人間が氷結されてしまえばどうなるのか、考えずとも分かることだ。

 それは──、


「──勝手に殺すなよ」


 氷の柱の中から声がもれた。閉じ込められた少年の腕が動き、前方に翳され、少年と外界を隔てていた氷が赤熱し、濃い水蒸気を発して柱はその形を保てなくなった。

 ピチャっと水を踏む音。その水は一瞬にして蒸発し、額に汗を滲ませた第七位は制服の胸元を摘まんでパタパタと扇いだ。


「水蒸気あっつ……」

「……これが一桁と二桁の差、ね」


 徐に、鈴奈は右手を天に伸ばした。──ギブアップのサインである。


「もういいのか?」

「ええ、貴方の強さは認めるわ。むしろ、私が貴方の背中が務まるか心配なくらい」

「心配には及ばねえよ。氷漬けにされた時は正直焦ったしな」

『〈天上の氷花〉のギブアップにより、勝者〈四精霊王〉! ってことで二人とも急いで生徒会室に来なさい! ハラハラしたんですから!』


 滴が大声を出したせいでスピーカーから発せられたキ─ンと甲高いノイズが耳をつんざき、詠真と鈴奈は顔を合わせて苦笑をもらし、急いで生徒会室に向かうのだった。

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