sence(永久機関から始まるSF能力バトル)

@teruteruboya

第1話無限のエネルギー

「僕は、一体?」


「ここは、どこ?」


 静かな場所に少年は居た。


 ガラスの筒の中に不思議な液体と人のようなものが浮かんでいるのが見える。薄ぼけた意識の中、微かに話し声が聞こえてきた。


 「人類はエネルギー問題を解決する為に死力を尽くして、文明に身を捧げて生きてきたんですよ!そんな中、ようやく生み出た永久機関! 人類の叡智の結晶! そのはずのものがどうしてこんなことになるんですか!」


 生きの良い若い研究者が、壮年の研究者を凄い勢いで問い詰める。


しかし、髪も無く、年も相当離れている老人に明るい笑顔で淡々と若い研究者は言い返されてしまう。


「エネルギー問題は実際に解決してるじゃないか。代案でもあるのかね?」


 永久機関が生まれた事で、人々の生活が変わったことは誰にでも分かることである。しかし、エネルギーが永久に生み出され続ける事による損害は、計算外の事であると近しいものなら誰でも知っている事であった。


 黙ってしまう研究員に近づいて、追い詰めるように壮年の研究者は満面の笑みで言葉を掛ける。


「それでは全てを君に任せようじゃないか!私はもう満足なのだよ!!ここで起きた全てに!!」


 恐怖と何も言い返せない事で固まってしまった研究員は、その場から立ち去ることしかできなかった。


 若い研究員は廊下を駆け足で進みながら思案する。膨大なエネルギーを放出し続けるのが永久機関だ。放置していたら一体なにが起こるのか分からない…きっと知っている人はだれもいないはずだ。無限のエネルギー体なんだ、ブラックホールだって発生してもおかしくはない。どうしてだ?皆知っていたはずじゃないのか?ヤバい産物だってことぐらいは!こんな非人道的な結末を向かえても良いのか?良いはずがないだろう。それを証拠にさっき見たものが全てを物語っている!



 人間をエネルギーの保管庫にする!



 まさしく人間電池だ!!



 perpetual motion machine管理室に到着する若い研究員。



 (直訳で永久機関管理室である。かろうじて球体を保っているエネルギー物質がそれである。カッターで刻んだ様なエネルギーが常時放出されている。ガラスで囲われており、入れ物との連結部分には管が繋がれている。それゆえ床には大量の管が敷き詰められている。)



 「お、新人のカネダ君。」



 「その顔は結構効いてそうだな。」



 「まぁ派遣されたんだし諦めて働きなよー。しょーじき給料も桁違いなんだしさω」



 ここで働く先輩逹から同情の声が向けられた。


 この研究所で働く人達は皆、超が付くエリートで少数精鋭の体制が取られている。僕もその一人ってことになるけど…。僕達は国家公務員としてここに雇われている。


 民間から引き抜かれたり、コネのような物で…あくまで噂だけど…採用された人が居たり、元々ここで働いている人が昇進したりって形でこの研究所で働いている。まぁ民間の会社が【とある理由】で国が管理できる国営になったんだけどね…。


 僕は引き抜かれた側の人間、つまり外様なんだしすぐにやめても問題ないでしょ…もううんざりだし…


 ってなんだか長く考え事をしてた気がするなぁ…言い出すなら早くしないと。



 「すみません。もうやめさせてください。」




 研究所が一瞬、静寂に包まれる。メガネを掛けた先輩が間髪入れずにカネダに忠告する。


 「君、見たんだろ?あの人逹がどう選ばれたのか考えてみたか?【普通の人】が選ばれる訳じゃないのは考えれば分かることだ。それにこのまま君がやめてしまえば身の安全は保証できない。君はもう【普通の人】と言えるかい?」


 立て続けに短髪の先輩からも引き留められる


 「君も了承してきたはずだ。この永久機関事業に携わる事が出来て嬉しく思ったんだろう?この国の未来のためだ。そう思う君がまさしく選ばれたんだよ…このプロジェクトに。そう考えられないか?」


 若い女性の先輩がダメ押しをする


 「このプロジェクトが続く限りはしょーらい安泰だよー。このプロジェクトが失敗するって事はどーいう事か教えようか?地球の終わりだよ。それこそね?」


 このプロジェクトに入る前にカネダも説明を受けていた。国家事業、もっといえば地球規模でエネルギー飽和問題が水面下で囁かれていた。自分も助けになれる事はなくとも、その渦中に入り自分の目でこの問題の行く先を見てみたいと思っていたことを思い出していた。


 若い女性の先輩が間を埋めるように、思い出した口調で喋り始める。


 「そういえばハザマ博士はー?カネダ君と一緒に行ってたはずだよね?戻ってくるの遅いわね。」


 「ハザマ博士ですか?願っていればきてくれるんじゃないですかね。メグさんの元に!」


 「全く無いよ。マジで。。いつ?いつそんな風に見てたぁ?むしろ私の事【そんなに】見てくれてたのかなー?サクライ君はω」


 「べ、別にそんなこと無いですよ!し、仕事上一緒に居る事が多いから注意して見るだけで、自分の仕事をこなしてるだけです!」


 狼狽えながらサクライは自分のメガネを掛けなおすと、至極真っ当なツッコミが入れられた。


 「お前の仕事はそこのでけぇのの観察だろ?メグの観察なんか仕事でもないし、それにお前の専門外の分野じゃねぇか。あと男のツンデレはキツイからやめろよ!なぁカネダ」


 「それはそう思います。カイフさん」


 「専門外の分野ってどういう意味ですか?ふざけないでくださいよ!二人とも!それに君もだよ!」


 サクライがカネダに詰め寄っていくと、カネダは所在無くうつむいている他なかった。そんな若い研究員4人が喧騒している中ハザマ博士が戻って来た。


 ハザマ博士が少し曇った表情をしていたばかりにカネダは、先程の啖呵をきって出ていったことを詰め寄られるだろうと身構えてしまったが、ハザマ博士は研究室の二階の中央部分、今若い研究員逹や永久機関がある一階部分を見張らせる、ガラス張りのコントロール室に入っていく。


 ハザマ博士が副所長にとある告げ口をしているのがカネダから目視できた。



 少し前のカネダがハザマ博士に啖呵をきり、言い返され部屋を出ていく場面に戻る。



 バタン!勢い良くカネダが部屋を出ていく音が部屋に鳴り響いたあと、ハザマは無数のガラス筒が並んでいる部屋を歩いていく。


 このプロジェクトに参加している限りは絶対に逃げることは許されない禁忌の科学。逃げようとしたところで私も安全ではないのだが…。


 ハザマはプロジェクトに思いを馳せながらとある披検体に近づいていく


 この披検体逹にはエネルギーを貯蔵してもらうだけでは足りないのだよ。エネルギーは貯めているだけではなんの意味もないのだから…


人とは想像するものを全て作れるとは良く言ったものだ。


 研究室の一部にしか知らされていない極秘のプロジェクトが存在する。プロジェクト ノウン 人間には未知の能力がある。だからこそその事実を知られてはいけない。


 とある大きな試験管の前でハザマは驚嘆していた。



 目覚めていたのか……



 「おはよう私の子よ」


 

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