お札に封じられた私は、河内山から後輩君に手渡されました。

 後輩君こと小泉梓馬君は、私を集一の裁判の傍聴席に持ってきました。小泉君の会話から、左隣の席に鶴屋君がいることもわかります。

「よおっ! お前たちも来たのかい」

 右隣の席に座っていた男の人が、二人に声をかけます。小泉君は私(お札)をその男に見せつけました。それは、私にその男の顔を見せるようでもありました。右隣に座っていた男は、私の部屋に何度もやって来た刑事でした。年季の入ったコートを着ている、かっこいいおじさま風のヒトです。

 しかし許せません! 

 このおじさまが集一君を逮捕したそうではありませんか‼ いったいどこに目をつけているのでしょうか⁉ 

『このおいぼれめぇ! 集一を返せ!』

 私は刑事のおじさまに向かって、精一杯汚い言葉を浴びせました。しかし、おじさまは顔色一つ変えませんでした。私の声はやはり霊媒体質のヒトにしか届かないのでしょう。

 一方、小泉君は青ざめた表情で、私をカバンの中に収納しました。




 しばらくして扉が開く音が法廷に響きました。司法権力者の入場のようです。カバンの中なので、その姿は見えませんが……。

 それにしても、集一はいつ入廷するのでしょうか? もしかして、もうとっくに入廷している?

『集一‼』

 私は届かないと知りつつも、大声で叫びました。小泉君が冷や汗をかいているのが感じられます。鶴屋君が心配になって「無理するな。辛いなら見なくてもいいんだぞ?」と気をつかってくれています。

「いや、そうじゃないんっすけどね……何というか……」

 小泉君は答えに困っている様子でした。やはり小泉梓馬君は霊媒体質です。ずっと聞こえないふりをしていますが、私の声が彼には聞こえているのです。

『ねえ、小泉く――』 

「被告人! 何を笑っているのです‼」

 私の声は、裁判官と思われるヒトの、大きな声でかき消されてしまいました。

 

……しかし、次の瞬間、私は聞いてしまったのです。

「すいません。俺、約束しちゃったんで‼」


 これは! 間違いありません、集一の声です‼ 今、この法廷に集一がいます‼ 同じ屋根の下に彼がいます‼ 会いたいです……彼に……。


『水辺集一に、もう一度会いたい‼』


 私は全身に力がみなぎるのを感じました。

 私たちは約束したのです! 

 集一はこんなつらい状況に置かれても、約束を守ってくれました。しかし、私は約束通り笑顔でいれそうもありません。

 あの悪霊を追い払うまで、集一を助けるまではっ‼


「……仕方ないっすねぇ。あとは自己責任でお願いしますよ!」

 小泉君は私をカバンの中から取り出しました。私(お札)は青白く光っています。封印された霊的エネルギーが、お札の外に溢れているのです。

「先輩……ホント、すんません!」


 小泉君は鶴屋君の背中に私を貼りつけました。

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