八
あれから数週間が経ちました。
私の部屋にやってきて、不審火により全身大やけどを負った謎の男は、自身を河内山宗純と名乗りました。胡散臭さ増し増しです。話によるとこの男、集一に雇われたというではありませんか。
果たして本当でしょうか?
にわかには信じられません。全身に包帯を巻かれた、ゾンビ男改めミイラ男が語り始めます。
それによると集一は私が死んで間もなく、単身事故を起こして一時は意識不明だったそうです。
現在は退院して、元気にしている……かと思いきや、そうではないようです。
「集一が殺人⁉ そんな……いったい誰を……?」
「お前だよ!」
「お前って誰ですか⁉」
「レイナちゃんだよ‼」
「……はっ⁇」
意味が分かりません。私は悪霊に、あの黒い靄の塊に、女の霊に殺されたのです。何をどう転ばせば集一が私を殺したことになるのでしょう? この男、やはり信用できません。
「信用できないって思ってるだろ!」
「⁉」
今はっきりとわかりました! この男、私の心を読んでいます。幽霊を弄ぶなんて許せません。懲らしめてやります!
私は河内山と名乗ったミイラ男に向かって飛びこみます。すると、霊媒体質の人間だけあって、初心者の私でも簡単に取り憑くことができました。そして、見えたのは――。
これは……? ミイラ男の記憶です‼ 幽霊は乗り移った人間の記憶を覗き見することができるようです。恥ずかしい過去を暴いてやります! にひひひひっ‼
次の瞬間、私は愕然としました。
ここは……裁判所でしょうか? あれは……集一です!
『集一‼』
叫んでも言葉が届くはずがありません。それは男の記憶の一部だったからです。私は全てを見ました。そして悟りました。
集一を早く助けないと、取り返しのつかないことになる……。
私は河内山に体を返しました。河内山はいたって冷静です。こうなることを、最初から知っていたのでしょう。さすが……百戦錬磨のゴーストバスターです……。
「説明が省けたな」
「…………」
「落ち込んでるとこ悪いが、次はこっちの番だ‼」
「えっ⁉ ちょっと! きゃあああああっ‼」
気落ちしていた私に向かって、河内山はお札のようなものを投げつけました。このお札、霊体である私に干渉しています! 間違いなく除霊グッズです。私はこんなところでやられてしまうので……しょう……か……⁇
「念さえ込めりゃあ、こんな紙切れでも使えるもんだなあ」
「……私に……何をしたの?」
「これは驚いた⁉ レイナちゃんは封じても声が出せるタイプか」
こんなところでくたばってたまるもんですか‼
どうやら河内山は、私をお札に封じ込めたようです。
しかし、そうは問屋が卸しません! 私だって幽霊の端くれです。人間よりは断然有利な立場のはずです。死んでしまったのですからこれくらいのハンデ、あって然るべきです。それなのに……。
「私をどうするつもり? 集一に……せめて最後にもう一度、集一に会わせてよ‼」
「まあ落ち着け! 俺の言うとおりにしてれば、すべてうまくいくんだよ」
私を、正確には私を封じ込めたお札を、河内山はペラペラと、ベッドの上で、うちわのように仰ぎます。屈辱的です! こんな男に任せていて、本当に大丈夫なんでしょうか?
しばらくすると、河内山の病室に二人の人間がやってきました。私はお札に封じられてしまったため、顔を確認することができなかったのですが、二人とも聞き覚えのある声です。誰でしょう……?
「よくぞ来てくれた! 同志たちよ‼」
「あのぅ……シュウを助けられるって、本当ですか⁉」
確か……鶴屋君だ‼
「先輩! もう、頼りになるのはこの人くらいしかいませんって⁉ ホントの最終手段っすよ‼」
たぶん、後輩君だ! 河内山は二人を使って何を企んでいるのでしょう?
「実はなあ、切り札を手に入れた。聞いて驚くな。――目撃者だ!」
『⁉』
二人が驚くのが感じられました。切り札とは私のことでしょうか、お札だけに……。誰がうまいこと言えと言いました⁉ そ・れ・にっ、私は目撃者ではなく被害者デス。河内山のデリカシーのないユーモアには付き合いきれません。ホント、うんざりデス!
「で、その目撃者はどこに?」
「これだよ。このお札が彼の無実を証明してくれる」
「……はあっ⁉」
鶴屋君の怒りのエネルギーが伝わってきます。爆発しそうです。裏を返せば、それだけ集一の事を心配してくれているのでしょう。うれしい限りです。
一方、後輩君は最初こそ威勢良かったものの、私(お札)の存在に気づいてから、一気に大人しくなりました。河内山の冗談のような話にも、真剣に聞き入っているようです。もしかして、後輩君は……?
「本当は俺が裁判所に出向けば、すべて片付くんだが、出禁になっちまった。法廷を侮辱した覚えなんて、俺にはこれっぽっちもないんだがなあ……」
「ふざけるなよ‼ おっさん‼」
怒鳴り声と共に、病室から一人、人間が出ていく気配を感じました。鶴屋君は河内山の話を冷やかしだと受け取ったのでしょう。そりゃあそうです。私だって同じ立場なら、そうします。
一方、後輩君の方は、まだ病室に残っているようです。声こそしないものの、気配を感じます。やっぱり、後輩君は……。
「……俺は、どうすればいいんっすか?」
「簡単なことだ。このお札を持って裁判を傍聴すればいい」
「ホントにそれだけっすか⁉」
「えっ……ああ、それだけだ」
後輩君は、信じられないくらい落ち着いています。私は、集一の紹介で後輩君に何度か会ったことがありますが、その時と雰囲気が全く違います。お調子者で、いじられキャラでもあるはずの後輩君が、なぜこれほど真剣なのでしょう?
答えは一つです……。
「今、嘘つきましたね! 俺、そのお札が何なのか……なんとなくわかるんっすよ」
「……⁉ これはすまなかった。まさか、そうだったとは」
「でっ、本当はどうすればいいんっすか?」
後輩君と河内山はひそひそ話を始めます。私は耳を澄ませました。しかし、聞き取ることはできませんでした。二人して何を企んでいるのでしょう? 不安です。
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