#11 ささやかな食卓



 ソウジくんへの恋心を自覚してからは、自分自身への嫌悪感が酷く、なんとか今までの失敗した分を取り戻したくて、自分に何か出来ることが無いか、そればかり考えるようになっていた。


 同居のことを口止めしてしまったから、教室で話しかけることは気が引けるし、今更ソウジくんと同居していることが知られるのは怖かった。また放課後の図書館では私も部活があるため、そう頻繁に話しかけられない。

 そうなると、後は家の中になってしまう。

 でも家の中では、ママに見られてしまうと恐らく厄介なことになる。


 毎日では無くてもいいから、たまにでも何とかソウジくんとコミュニケーションをとることが出来ないか、を考えた。



 そんな時に、週末の日曜日、パパとママが買い物に出かけると言った。

 私とエミも誘われ、エミは友達と遊ぶ約束があると言って断り、私は頭が痛いから留守番すると断った。


 その日はパパとママは朝から出かけ、夕方に帰ってくると言っていた。

 エミも二人に遅れて出かけた。




 私は、ソウジくんと自分の二人分のお昼ご飯を作った。

 料理は得意では無かったけど、チャーハンとサラダを用意した。


 一度部屋に戻り、スカートに着替えて、お気に入りのリップを塗った。

 キッチンに戻ると二人分の食事をお盆に乗せて、ソウジくんの部屋の前まで運び、一旦床に置いて扉をノックした。



「はい」


『あの・・・お昼ご飯が出来ました』


「あ、ありがとうございます。すぐに取りに行きます」


『あ、ここまで持ってきたから、扉を開けて貰えれば』


「すみません!すぐ開けます」


 ソウジくんはお盆に二人分乗っていることに、戸惑っている様だった。


『あの・・・迷惑じゃなかったら、一緒に食べてもいい?』


「えっと・・・判りました。 何もない部屋ですが、どうぞ」


 ソウジくんの許可を貰い、初めて部屋の中に入った。


「すみません。ここだとテーブルとか無いので、床で食べることになってしまいます・・・」


 そこで自分の部屋にテーブルがあることを思い出した。


『少しだけ待ってて貰えるかな? 私のテーブル持ってきます!』


 私はソウジくんの返事も聞かずに部屋を飛び出し、2階の自室からテーブルを抱えて戻ってきた。


「す、すみません! 重いのに」


『大丈夫です。 そんなに重くないから。 これで食事にしましょう』


 何もない部屋の中央にテーブルを置き、その上に料理を並べて二人で向かい合って座って食事を始めた。



 とは言え、今までほとんど会話をしてこなかったせいで、いざこういう場面になっても、何を喋ればいいのか分からず、緊張して黙ったままスプーンを口に運び続けた。




 そんな重い空気の中、気を使ってくれたのか、ソウジくんの方から話しかけてくれた。


「あの、このチャーハンは、アミさんが料理されたんですか?」


『はい・・・美味しくなかったですか?』


「いえ、そういう訳じゃなくて・・・僕の分まで用意して貰って、すみませんでした」


『謝らないでください・・・本当はこっちが謝らないといけないのに・・・』


「アミさんに謝られるようなことは何もないですよ」


『いえ、ママやエミの態度とか・・・』


「ああ、気にしないで下さい。 年頃のお嬢さんが居る家に、いきなり同世代の男が来るなんて誰でも嫌ですよ。僕は寝る場所があるだけでもとても助かってますので、感謝しています」


『でも・・・』


「あと、このチャーハンも美味しいです。 ありがとうございます」


 ソウジくんはそう言って、また優しい笑顔を私に向けてくれた。


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