第7話 10回クイズ

「せんぱい、十回クイズしましょう」

「いいけど急になに。あと俺は強いぞ」

 せんぱいがものすごく誇らしげな顔でそう言い放ったのであたしは思わず笑ってしまう。

「どのくらい強いんですか」

「大したほどじゃないが、小学生の時は十回クイズ王って呼ばれていた……かな」

「本当に大したほどじゃないやつですよそれ!」

 あとせんぱいそれ、虐められてません? という突込みは飲み込んだ。

「じゃあ問題だしますね」

「うい」

 せんぱいが構える。

 そこまで気合を入れてもらっていてなんだけど、あたしは別に本気でせんぱいをひっかけようとして挑んだわけではなかった。

 おちょくり二割、いちゃつき八割のテンションだ。だからそんな風に構えられると、むしろ困る。

 けどまあいいや。あたしは右手をひらりと広げて問題を出した。

「『好き』って十回言ってください」

「好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き」

「じゃあ、あたしのことは~?」

「死にたいのか?」

 その視線、氷点下。

 ちょっと待って。言ったよね? おちょくり二割のいちゃつき八割って言ったよね?

 いや、せんぱいに直接言ったわけじゃないんだけども!

「曲がりなりにも恋人に向かってその言い方は酷いですよ!」

「うるせえ、十回クイズ王に向かってそんな生半可な問題を出すほうが悪い」

「十回クイズ王って名前にそんな誇りを持っていたんですか」

「十回クイズ王ってのは名前じゃない。”号”なんだよ」

「どんな小学校だったんですか……」

 各々が”号”で呼び合う小学生、いやすぎ。友達の家に遊びに行ったとき親御さんの前でなんて呼ぶんだよ。

「もちろん”号”だけど」

 なんて清々しい顔で言い放つんだこの人は……

「そもそも、親の前で呼ばれても恥ずかしくないような名称、というテーマでつけたからな」

「な……なるほど。小学校はいろんなローカルネタがありますからね」

 そう返してからあたしはとある可能性に思い至った。

 この人今、「つけたからな」って言わなかった?

 どうして、あだ名(……号か)なのに受動的ではなく能動的なんだ?

 もしかして、十回クイズ王って……自称?

「どうした亜湖、ぼうっとして」

「いや、ちょっと怖くなってきたんで何も思いつかなかったことにします」

「ふうん? まあいいけど」

 あたしは頭を振ってその恐ろしいアイデアを振り落とした。

「ところで亜湖、十回クイズはさっきのクソ問で終わりか?」

「……」

 かっちーん。

 せんぱいいま、あたしの愛情表現をクソ問って言ったな。

 イラっとしたあたしは本気を出すことにした。

「わかりました。じゃあもう一問だけ出しますね」

「うい」

 せんぱいが構える。あたしは大きく息を吸った。

 負けられない。

「『好き』って十回言ってください」

「……お前」

「いいから」

 いつになく真剣なあたしの表情を見て、せんぱいはおとなしく指を折り始める。

「好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き、好き」

 食らえ!

「一般的に、金偏に秋と書いて?」

「……えっと……スキ?」

「残念!!!!!クワでした!!!!!!!!」

「だぁぁぁぁっ、くそ、悔しい!」

「あは、あたしの問題をクソ問って言った罰ですよ」

 せんぱいは頭を抱えて声を絞り出した。

「こんなの、難読漢字王の号が泣いちまう」

「……いや何個号持ってたんですか」


<あたしとせんぱいと10回クイズ>

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