第3話 浮気のライン

「せんぱいの浮気のラインってどこからですか?」

 浮気のライン。

 それはカップル同士できっちり認識を合わせておかなければならない大きなポイントであり、喧嘩のタネになりやすい要因の一つだ。

 相方が異性と二人きりで飲みに行っても全然気にしない人もいれば、例えサークルの打ち上げなど、大人数の飲み会だとしても異性がいる時点でアウト、という価値基準の人もいる。

 大抵の場合ここのラインは一致しないので、結局どちらかが我慢することになる。喧嘩になりやすい原因はそこだ。

「突然どうしたんだ」

「いや、この前学科のグループで飲みに行こうって話になったんですけど」

 男女比半々程度の、仲がいいかと聞かれると怪しいけれど一緒に富士急ハイランドに行ったことがある程度のグループで飲み会の話が上がったときのこと。

 ノリのいい男の子が「ちょっと厳しいかも」って気まずそうに目を伏せていたから、「どうしたの?」と問い詰めたところ、最近出来た彼女の束縛がきつくて集団での飲み会にも女の子がいたらアウト、と言われたらしいのだ。

「うわー、きっつ……」

「せんぱいのその下らないギャグの方がきついので口と鼻を塞いで黙っていてください」

「皮膚呼吸の才能が開花しちゃう~~」

 しません。

 あたしが再度浮気のラインを問いかけると、んー、と唇に人差し指をあてて考え込み始めた。

手持無沙汰になったあたしは、手の小指だけを曲げる練習に勤しむ。

 どうがんばっても薬指が一緒についてきちゃうんですけど。

 数秒経って、せんぱいの顔をあげる気配を感じたあたしは目を向けた。

「俺の浮気のラインは、ありふれているけど、相手にバレたらかなあ」

「……」

 相手にバレたら浮気。

 バレなければ浮気じゃない理論も巷でよく言われる。

 しかしあたしはその理論に常日頃から違和感を覚えていた。

「あのですね。相手にバレたら浮気って言うのは実は何も答えになっていないんですよ」

「というと?」

「相手に、何がバレたら浮気なんですか?」

 ああ、とせんぱいは手を打った。

「相手にサシ飲みがバレたら浮気なのか、キスしたことがバレたら浮気なのか、それを提示できていないってことだな」

 あたしは大きく頷いた。せんぱいが言葉を続ける。

「となると結局、彼女が浮気と思うかどうかっていうのがラインなんじゃないかな。異性とキスまでは許す彼女なら、キスしたことがバレてもセーフだけどその先はアウトだろ?」

「あたし的にはえっちよりキスの方が罪が重いです」

「唇だけは許さないタイプ~~」

 結構多いと思う。

「じゃあ逆に聞くけど、亜湖の浮気ラインはどこなんだ?」

「せんぱいと目が合った女は全員殺します」

「目と目が合った瞬間に恋が始まると思っているタイプか?」

「そしてその後せんぱいを殺してあたしも死にます」

「破壊竜ガンドラみてぇな女だな……」

「っていうことで、これからもよろしくお願いしますね」

「ちょっとこれからの対応を考えたわばーか」



<あたしとせんぱいと浮気のライン>

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