暗殺者ギルドにて
「さぁ、着いたよ、ここが暗殺ギルドの本拠地だ」
男に連れられしばらく歩いて到着したのはどこにでもあるような居酒屋の前、とてもここで人殺しの依頼がされているようには見えない。
「そこはまぁ、国から隠れるための工夫だね、表ではおいしい酒で有名な居酒屋、その裏では暗殺の依頼を請け負う場所ってな感じでね」
「なるほど、暗殺者も色々と考えているんですねー」
「そうでもしないとすぐに見つかっちゃうからねー、国に」
今まで黙っていたレヴィも暗殺者のことには興味があるのか、身を乗り出させながら聞いてきた。昔は暗殺者は暗黙の了解で貴族の間で使われていたがここ数年になって暗殺者を取り締まる法律が発表され、おおっぴらに暗殺者ですと名乗ることができなくなったらしい。
「まったく、肩身が狭い世の中になったもんだね」
「まぁ…国としてはいい方向へ向かって行ってるということだろ」
「あはは、そのせいで職にあぶれるのは困るけどね」
などと言いながら男はギィィィッと居酒屋のドアを開けた。
「……いらっしゃい」
「やぁマスター元気そうだね」
扉を開けるとまず最初に居酒屋の店主であろう大男が仏頂面で挨拶をしてきた。男は普段と変わりなさそうに声をかけているのでこれが普通に顔なんだろう………コエェ。
「今日は『掃除』の依頼を受けにきたんだ」
「…………後ろの二人はどうした?初めてみる顔だが…」
「ああ、この子達も一緒に依頼を受けたいんだ」
機嫌の悪そうな店主に向かって怯えずに笑顔でそう言う男、すごいなかなりの度胸だ。
「………ふん、今は身内しかいねぇ、本音で喋っていいぞ」
「お?珍しいね、料理の腕が落ちてきて有名度が下がってきたんじゃない?」
「ほっとけ、無駄口を叩くな、それと小僧、こっちにこい」
「……俺のことっすかね?」
「お前以外に小僧がどこにいる」
「ですよねー…」
マスターに呼ばれ、俺はマスターの前の席にドガっと座った。
「一応、確認するんだが、本当に暗殺者ギルドに加入するんだな?」
「ああ」
「……覚悟はできているようだな…それとそっちの嬢ちゃんは…」
「あ、私も入ります」
「……遊びじゃねぇんだぞ?」
「ええ、知っております」
その瞬間マスターからかなりの殺気が放たれる、おそらく元暗殺者、それもかなりの高位に存在していたであろう力量の持ち主だ。しかしレヴィはこれでも最上級の悪魔、平然とした顔で威圧を受け流していた。
「…なんだ、カタギじゃねーのかよ…」
「まぁ、そういうことですー」
心配して損したと言うように肩をすくめさせ、殺気をしまうマスター。すみません、その子可愛い顔してるけど悪魔なんです。
「とりあえず小僧と嬢ちゃん、こいつの上に手を置きな」
そういうとマスターは何から機械を二つカウンターの下から取り出し、その上に置いた。ちらりと俺たちを連れてきた男に目線を寄越すが、いつもと変わらぬニコニコとした表情で頷いたので大人しく俺たちはその機械の上に手を置いた。その時、その機械から針が飛び出し、俺の指を刺した。
「!?」
思わず機械から手を離すと、ガッガッガーという音がして、機械からカードのようなものが排出された。
「これが暗殺者の身元法証書となるギルドカードだ大事に無くさないように持っとけよ」
「いや、それよりも今の針はなんなんだよ…」
「んあ?カードを作るために遺伝情報がいるんだよ、それで血を少しばかり流してもらうってわけだ、ガハハハ、ビビったかよ」
「いや、ビビったというか…驚いたわ」
騙されたかと思って殺しかけたぞ、おい。
「んじゃ嬢ちゃんの分もパパッと済ませるぜ」
マスターはその言葉の通りになれた手つきで作業を済ませる。
「うしっ、できたぞ」
「ありがとうございますー」
嬉々とした表情でレヴィがカードを受け取る
「んじゃ、ここからは暗殺者ギルド、およびギルドカードの説明だな」
「それではここからは私が説明を受け継ぎましょう!」
マスターはいきなり会話に乱入してきた男をジロリと見つめるがはぁっとため息をつき、好きにしろと言った。
「ではまず、暗殺者の位からですね、暗殺者には小さい方から番号順に位をつけられています、最大は第九位階ですね、その位についている暗殺者はいわゆる幹部のような扱いをされています、それと……名前が二文字になってますね」
「二文字?」
「ええ、暗殺者は基本、本名はバラさないので一文字の渾名のようなもので呼ばれます、ちなみに私の場合は鴉です」
ここで俺たちは初めて男の名を知った、鴉とは……言い得て妙だな。マスターはどんな名前なのか興味の視線を飛ばすと、
「俺はマスターだ、それ以上でもそれ以下でもねぇ」
との事だ。やはり教えてはくれないらしい、暗殺者は情報が命だもんな、当然だ。
「まぁ貴方達にもそのうち名前が伝えられますよ、話を戻しますね、自分が今どのくらいの位なのかはそこのギルドカードを見ることで確認できます」
「へぇ?」
確かに見てみるとデカデカと第一位階と表示されている。
「ん?横にある数字はなんだ?」
「おお、そこは我が暗殺者ギルドの特権!冒険者ギルドでも表示できない、人間の存在値、すなわちレベルと呼ばれるものを私たちは可視化し、ギルドカードに表示させています!」
ああ、漫画とかで出てくるテンプレ的なやつか、というかお城で大量虐殺した時にそれなりにレベルは上がっていたはずだが…………ん?
「レベル……564?」
「………今なんだが聞き逃せないこと言わなかったかい?」
鴉が温和な表情を引っ込ませ、引きついた笑いをしながら聞いてきた
「流石です、ご主人様!私のレベルは328でした!」
「………ちょーーーーっと待って??」
「あーいや、この数値ってやっぱり異常なのか?」
「異常も異常ですよ!!この世界の成人男性平均のレベルは15!冒険者ですら最高ランクでも200あたりが限界です!それを貴方達何を呑気に超えとるんですか!!」
いやぁ、そんなレベルが上がるようなことなんてあんまりしてないけど………あ、あれか、体乗っ取られかけた魔法使いのジジイの分も上乗せされてるのか?
「…………まぁ聞かなかったことにしておきます……」
「まぁ、懸命な判断だな」
「……貴方は……ほんと……なんというか……」
はぁぁぁぁぁぁと片手で額を押さえながら長いため息をつく鴉。
「……これで説明は以上です、ギルドカードは身分証明書としても使えるように偽装されているのでそれを使って今日はどこかの宿屋に泊まって、また明日、依頼を渡すのでここに来てください」
「あぁ、わかった………あーいや、やっぱだめだ」
「?何か問題が?」
「いや、そのぉ……宿に泊まるお金もないんです、貸してくれません?」
「………まぁ良いですよ…」
「あざっす!!」
俺は言いにくそうにお金をせびると鴉は快く(?)お金を貸してくれた、なんていい人なんだろう。
「お邪魔しやしたー!!」
ガラッと勢いよくドアを開けて俺は宿屋へと駆け込んだ。
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「全く、なんてもん連れてきてくれてんだ『闇鴉』」
「そう言うなよ『豪腕』、面白くなってきただろう?」
「まぁな、さて、あいつらに合った依頼探すから今日は閉店だ、テメェもどっか行きやがれ!」
「ああ、つれないじゃないかぁ」
主人公が走り去った後に店から叩き出された男の姿があったとか無かったとか。
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