閑話 異邦人
――諸王国会議開催。
待ちわびたメインイベントの開幕に、心躍らせ、意気揚々とアタックをかけ――想定外の、いや、公開された情報にない状況に混乱した。
まず、驚いたのが、まだ登場するはずのないファルティナがシュレイセ王国の王族として参加していること。しかも、いるはずのない王太子と側妃エルシアーナが存在している。しかも、かなり仲がいい状況に目が点になった。
この
それ以上に衝撃的だったのは、ファルティナがエルシアーナの娘であることだ。
ファルティナは正妃・セレスティーナの実子で、すでにセレスティーナも亡く、シュレイセ王国は王位継承を巡るお家騒動が勃発していて、会議には国王・アルフレードと対立する王弟公・ヴィルフォードが参加し、互いに牽制し合っている―そんな設定だったのに、大きく違っている。
「何がどうなってんだ?」
目の前で繰り広げられた喜劇に、大剣を背負い、短く刈り上げた黒髪に少し幼さを残したミスリル製の胸当てを付けた少年は物陰に隠れ、頭を抱えた。
自分たちが持っている情報が全く違うなんて論外だ。運営に文句でもいってやろうかと思っていたところに、青ざめた表情をした腰に太刀を佩いた栗色の髪を後頭部で束ねた侍風の衣装をまとった少年と腰にレイピアを下げた薄桃色のラインが入った白い戦闘服を纏った薄茶色の長い髪をした少女が駆けてきた。
「なあ、どうなってんだ?これ、『諸王国会議』の初期イベントだろ?なんで俺たちが知っているイベントと違ってんだ?」
「わたしも街を回ってみたんだけど、なんかおかしい。このイベで重要な情報をくれる『イヅキ一族』が八年前に滅亡してるっていう話よ。しかも『絶界』がやったって」
自分たちが集めてきた情報を一気に話す仲間に黒髪の少年は右手で口元を覆い、まさか、と呻くように呟いた。
ただの都市伝説だと思っていた。だが、実際にその事件があったのは知っている。
どんな結果になったかは噂でしか聞いたことがない。ただ、その事件に関わった
「俺たち、とんでもない場所に来てるのかもしれない……一度、帰還して、別ルートで入ってみないか?」
「それがいいかもしれない。このルート、全然人が使っていないガラ空きだったから、ラッキーって思ってたけどさ。あの『都市伝説』がマジなら、相当ヤバいって」
黒髪の少年の提案に侍の少年は即座に同意する。彼もまた『都市伝説』を知っていたらしく、表情が硬い。
見れば、戦闘服姿の少女も険しい表情でうなづいた。
当然と言えば、当然の話だ。この世界を知っている人間で、あの『都市伝説』を知らない人間はとんでもない世間知らずだ。
初心者は必ず古参のメンバーから聞かされるし、運営からも説明があり、絶対に危険なルートは使わないように、と念押しされてスタートするのが常識になっている。
『都市伝説』と自分たち3人が置かれた状況。公式の発表と大きく違いすぎる世界。それらを考えれば、おのずと答えにたどり着く。
「緊急退避だ。いつものルートで、ギルドハウスに集合しよう。他のギルメンにも相談しよう」
「運営にも報告しようよ。これかなり怖いよ!」
3人一組のパーティーで情報収集を行うように、とギルマスに言われてきたが、これ以上は危険だと、黒髪の少年は判断し、目の前に出現させたステータスボードから
「当然だろ。こんなの、俺たちの知っている世界じゃない。あの『都市伝説』みたいなことになりたくないよ」
侍の少年は半ば叫んだ瞬間、彼らの姿は揺らぎ、一瞬にして、消え失せた。
無事に帰還した彼らはギルマスを通して、この事態を運営に報告し、彼らが使ったルートは閉鎖で決着がつく――はずだった。
運営から彼らに伝えられたのは、このルートからの『世界』への挑戦依頼だった。
――失われたはずのルートが再発見です。
信じられない依頼に3人が固まったが、ギルマスは危険と判断したら、即座に帰還させること、それ相応の報酬とサポートを確約することを条件に受諾した。
3人が口々に文句を上げたが、いつもは穏やかなギルマスが絶対に引こうとしなかったことで、彼らは渋々と引き受けることになってしまった。
ほんの偶然の出来事だった。
だが、このルートの発見は後に世紀の大発見となり、世界に激震を走らせることになるのだが、それは少しばかり先の話である。
七星紀伝・公爵令嬢はとある職業に転職しました。 神楽 とも @Tomo-kagura
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