3.それでも王族か?!
諸王国会議。
二年に一度、西側の全諸国首脳陣が一堂に会するグラン大陸最大の円卓会議。ここで話し合われる事案は西側諸国全てに関わる最重要事項であり、開催国は栄誉であると同時に国家の威信をかけて執り行われる大陸最大の祭典でもある。
この会議を知らぬ者はグラン大陸では存在しないとも言われ、西側のギルドのみならず東の帝国に属するクランにとっても重要な意味を成す。
「へぇ~そんな会議なんだぁ~」
帝国最大のクラン『
「ファル。お前、一応西の大国の一つ・シュレイセ王国の第一王女だよな?」
「ええ、まぁ一応は王女。ただし、追放中なので身分はないですけど~」
額に青筋を浮かべた、黒く輝くミスリル製の胸当てを身に着けた筋骨隆々のがっしりとした体格の身長180センチの燃えるような赤髪の男にすごまれても、ファルティナは意に介さず、テーブルに突っ伏してまともに取り合わない。
それどころか、かなりなめた態度を崩さないので、クランホールに集まっていた全パーティーが大きく嘆息し、どこかの預言者よろしく左右に道を開けた。
「ふ~ざけてんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!ファル!!」
大きく振りかぶった拳がファルティナの反応速度を遥かに上回る速度で繰り出され、見事な軌道を描いて、ファルティナの身体をあっさりとクランホールの壁際まで吹っ飛ばす。
その衝撃でホールの壁に穴が開いたのを見た受付嬢は冷静に修理費を計算し、請求書に書きつける。
「ってぇぇぇぇぇぇ!!普通に殴るか?マスター!!私、ここの重要戦力だよね??」
「「「最重要危険人物の間違いだろ??ファル」」」
瓦礫から身を起こしたファルティナの抗議に傍観していた全パーティーから総ツッコミされ、押し黙るしかない。
「だいたい、シュレイセの王位継承争い……じゃなくって、『絶界』絡みの案件。お前、まぁぁぁぁぁったく役立たずだったんだろ?」
「そうそう。ウィンレンド……つーか、『七星』二人が解決したんだよな~なのに、王太子の辺境伯と一緒になってケンカ売るって、どういう神経してんだよ」
「クランの信頼失墜寸前。でも『七星』神極が『こっちのミスもあるから』って、不問にしてくれたんだっけ?」
「いいえ。盟主がそれはもう喜んでお怒りになってくれたお陰で、ギルド『戦いの足跡』から賠償請求を受けました。皆さん、その穴埋めでどれだけ大変だったか……分かるわけないですね。『歩く人災』」
次々と上がる非難の声がグサグサと突き刺さり、ファルティナは小さく呻き、押し黙るが、容赦のない受付嬢のとどめの一言にダクダクと涙を流して土下座した。
「すっみませんでした!!」
「でな、ファル。お前、その責任取って、諸王国会議に参加しろって、お母上から依頼が来てるんだよな~こ・れ・が」
大股で土下座するファルティナに近づき、身をかがめると、ゼノアはこれ以上ないくらいの笑顔で依頼書を顔面に押し付けた。
恐怖の母からの依頼と聞き、顔色を変えて飛び起きたファルティナはぶんどった依頼書に目を通していくうちに、顔面の色が青から土気色へと変化していく。
「ふ~ざけてんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!『クランの皆様にご迷惑をおかけしたのだから、無償で諸王国会議の護衛をするパーティーのお手伝いをしながら、母の元へ来なさい♡でなくば、クラン追放ですわよ♪』って」
なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!と絶叫するファルティナをよそにゼノアは思いっきり嫌そうな顔をしている全パーティーを見回す。
「嫌なら断って構わん。困るのは
にやりと不敵―というか、人の悪い笑みを浮かべ、受付嬢が黙ってトレイに載せて持ってきた革袋をドンッとテーブルに置く。
その重みのある音に皆の顔色が一瞬にして変わる。
「
破格の値段に、誰もが息を飲み―ファルティナにかけられる迷惑と白金貨五枚と金貨二百枚を天秤にかけ、思い悩む。
はっきり言うと、ファルティナを連れて稼ぎ時の諸王国会議に行きたくはない。だが、まっとうに働いても稼げるかどうか分からない白金貨五枚は魅力的すぎる。
特に借金を抱えているパーティーからすれば、喉から手が出るほどの迷惑料だ。しかし、それ以上の大打撃を与えるのがファルティナである。
下手をすれば、パーティー崩壊もあり得る危険人物。そんな奴と組みたくはないが、金は欲しい。
突き付けられた究極の選択に全パーティーが悩む姿にファルティナは頬を引きつらせる。
―こいつら、人を何だと思ってやがる!!
怒りを爆発させて、ここにいる連中全員を沈めてやりたいが、そんな真似をすれば、クラン追放は決定。しかも帝国全土のクランを敵に回すことになる。
いくら『歩く人災』と呼ばれるファルティナでも、そんなバカな真似はしない。というか、できるわけがなかった。
「迷うのも無理はねーな……だが、エルシアーナ様のご依頼には一つ追加事項がある。ファルティナが面倒を引き起こしたら、即捨てろ。その場合はこの迷惑料に白金貨三枚追加してくれるとのお墨付きだ!!」
高らかに告げるゼノアの隣で受付嬢がエルシアーナ妃のサインが記された依頼書を広げて見せる。
まごうことなき、母の署名にファルティナは床に倒れ伏すと同時に、我も我もと声が上がる。
迷惑掛かったら捨てて良し、なんて条件が加われば、問題はない。
かくして一気に美味しい仕事に変わった瞬間、目の色を変えた腕利きのパーティーたちによる依頼争奪戦の火ぶたが切って落とされた。
「母上、そんなに娘がお嫌いですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ~」
怒声を上げて騒ぎ出すパーティーたちを横目にファルティナは高らかに笑っているだろう王妃至上主義の母を思い、涙するしかなかった。
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