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 瞬間移動魔法テレポートで去った人形遣いマリオネットマスターの追撃は諦め、『七星』・神極レティアが下したのは、『絶界』の真の狙いを阻止することだ。

 というのは、建前だ。正確に言うなら、あの超ド級の変態・人形遣いマリオネットマスターを仕留めきれなかった以上、関わりたくなかったのが本音だ。

「レティア。大講堂、派手にぶっ壊したけど……請求されないかな?俺、盟主に殺されたくないんだけど。」

「それは私も一緒だよ、アシェ。まぁ、大丈夫でしょ。まさかの『絶界』介入だもん♪想定外だし、国王陛下アルフレードたちも文句は言えないだろうし♪」

 瞬間移動魔法テレポートで移動したのはいいが、今更ながら、国の重要文化財を吹っ飛ばし、破壊しまくったことが契約問題にならないか、と焦るアシェ。

 別にシュレイセ王国から文句言われても、怖くもなんともないが、盟主たるシェーナを怒らせるのは怖い。

―無駄な経費、払わせて♡あんたたち、お仕置きがひ・つ・よ・う・ね?

 今までの経験則から、凶悪な笑顔を張り付けたシェーナがお仕置きという名の制裁を食らわせるのは想像でき、アシェはかなり恐怖していたが、レティアの考えを聞いて、ほっとなる。

 それもそうだ。本来の依頼はあのバカ王子クリストフたちの目を覚まさせて、バラーナ男爵令嬢エリナを引きはがし、学園を平穏にすることだった。それがファルティナが乱入して、お家騒動の様相を呈した挙句、全大陸から最恐犯罪集団『絶界』に介入されかけるなどという状況までになった。

 下手をすれば国家崩壊レベルを未然に防いだのだから、文句は言えない。感謝されるくらいだ。

 重要文化財は再建させればすむ。国が滅びたら、そんなことさえできないのだから、被害は最小限。こちらは『絶界』相手にしたから、依頼料上乗せできる。

「そうだよな~あの変態、今頃身悶えしてなきゃいいけど。」

「言うな。考えただけで鳥肌が立つ。」

 シェーナのお仕置きがなくなったことで安心し、軽口をたたくアシェにレティアは頬を引きつらせる。

 前回、人形遣いマリオネットマスターと戦った時は地極と組んでいたが、あの時はこっちの神経を逆なでにするような非道な真似をしてくれたので、両腕をぶった切ってやったが……今回、その腕は復活していた。

 おそらく毒遣いアシッドマスターが面白がって、治したのだろう。

 考えると、頭が痛くなるが、今回はあの最悪中の最悪。魔剣士ソードマスターが介入してこなかったのが救いだ。

 あいつが関わったなら、レティアとアシェだけで対処できなしきれない。それも念頭に地極たちも動いていただろうし、魔剣士ソードマスターも下手に動いてはいないと思う。

 何はともあれ、連中の目的は潰させてもらう。そのために王宮から学園に向かう国王一行を待ち構えていた。

 学園に向かう街道を近衛騎士団の精鋭が先行し、そのあとを荘厳な馬車が続いていく。さすがは一国の王の護衛だけあって、強固なものだが、『絶界』の仕掛けはそれさえも打ち破る。

「何者……『七星』・神極様と火極様?!」

 アルフレード一行の前に立ちはだかった二人組に、近衛騎士たちが一斉に刃を向けるも、『七星』の証である半仮面を見て、慌てて居住まいを正す。

「失礼しました、神極様、火極様。しかしながら、何用でございましょうか?陛下にお取次ぎを……」

「必要ない。悪いが、に用があるのでね。」

 最強の武人暗殺者にしてシュレイセ王国の救い主となった二人に対し、礼を尽くし、アルフレードへに取次ぎを近くにいた兵に命じようとする近衛騎士隊長に神極は手で制する。

 同時に火極が軽い足取りで、最後方の―牢獄のような馬車に押し込められたソフィーヌ妃とマグクール侯の元に窓を蹴破って飛び込んだ。

「ひっ!!何者じゃっ!!」

「我らを誰と心得ておる!シュレイセ王国の!」

「疫病神だろ?元愛妾に元侯爵。」

 散々、泣きじゃくったのか、化粧も取れ、髪も乱れ放題のソフィーヌ妃の顔が恐怖に引きつり、マグクール侯爵は精一杯の虚勢を張ろうとするが、火極があっさりと言ってしまうと、悔し気に押し黙る。

 二人にとって切り札であったクリストフ王子が仕出かした数々の乱行、そして、王太子僭称の罪により離宮で衛兵騎士団に取り押さえられ、裁きを受けるべく、学園に向かっている最中の乱入者。

 しかも右手には、鈍く輝く剣が握られている。

「へ、陛下のご命令か?それほどまでに妾が憎いのか!!あれほど愛……」

「押しかけ女房で、王家の金使って贅沢し放題。体裁整えるために一回だけ通ったら、バカ王子クリストフができたんだから、王も災難だよな~」

 どこに愛されていたなんて自信があったのか分からないが、面白いので火極は一刀両断に切ってしまうと、般若のごとく顔を歪ませ、泣きわめきだす。

 マグクール侯爵も唾を飛ばして、自らの正当性とクリストフこそ王太子だと喚き散らすが、外にいる近衛騎士団の騎士たちはうんざりした表情で聞いているのが、窓越しに見え、同情する。

「時間の無駄だから、聞きたいことだけ聞く。お前ら、あの銀髪、赤い目の執事はどこで雇った?」

「あの者か!我らに実に忠実で真摯であった。あのような律儀……」

 油でもついたのか、ベラベラとしゃべりだすマグクール侯爵の髭を一瞬で切り落とす。

「聞いているのは一つだ。あいつはどこで雇った?」

 静かな火極の怒りを感じ取り、マグクール侯爵は腰を抜かして、床にへたりこむ。

「あああああ、あやつはローゼンに紹介されたのだ。メルベイア王国の伯爵家を不当な理由でクビにされて困っておった故、ソフィーヌ妃様の元で一時仕えた後、クリストフ様の元に仕えさせた……」

「ならいい。」

 火極が剣を引いたのを見て、ほっとするマグクール侯爵とソフィーヌ妃だったが、それは一瞬のことだった。

 次の瞬間、胸に焼けつくような熱が走り、次いで全身から熱が抜けていく。娘であるソフィーヌ妃がけたたましい悲鳴を上げ、縋りついてくるのを最後に見た後、マグクール侯爵は永久に意識を失った。

「何のつもりじゃ!!父上が何をした??妾は次期国王の母ぞ!?」

「国家反逆罪の大罪人が何言ってんだよ。悪いが、始末させてもらう。」

 冷たくなったマグクール侯爵に冷たく見下ろす火極の本気に気づき、ソフィーヌ妃は恥も外聞もなく、反対のドアをこじ開け、外へ飛び出す。

 助かった、と思ったのは一瞬のこと。最後に見えたのは驚愕する近衛騎士たちと高く澄んだ青空。

 外へ飛び出したソフィーヌの体は待ち構えていた神極が放った糸によって縛り上げられ、切り刻まれる。その破片とマグクール侯爵を火極が炎壁魔法フレイムウォールで焼き尽くす。

 ぱきり、と小さな音を立てて、炎の中で指先ほどの赤い欠片が炎に溶けた。

「国王・アルフレードに伝えよ!『絶界』と通じ、シュレイセ王国を存亡の危機に陥れたマグクール侯爵とその娘・ソフィーヌは我ら『七星』が処断した。その罪を問う者あらば、ギルド『戦いの足跡』と『七星』が相手になる、と。」

 堂々とした声で言い切る神極に異を唱える近衛騎士たちはおらず、皆一様に頭を垂れ、大声で喧伝する。

「国家反逆の大罪人・マグクール侯爵とその娘・ソフィーヌは『七星』により処断された!!シュレイセの危機は去った!!残るは王太子僭称のクリストフとその一味を断罪せよ!これは国民の総意である!!」

 何事かと、行軍をやめ、集まりかけた近衛騎士たちはその言葉に応じ、鬨の声を上げる。

「処断されたか。」

「これが狙いでしたか?陛下。」

 喜びを含んだ鬨の声をアルフレードは馬車から降りることもなく、ひどく冷めた目で聞く。

 そんな父王にナジェル辺境伯にして、王太子であるアルスフォードはやや侮蔑が混じった声で問うも、応えはなかった。

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