26
生気を失った虚ろな目で、ただひたすら剣を振るうだけの存在になりさがったメルベイア王国の元騎士―
バラバラになった
そこへ火極がとどめとばかりに
無駄のない連携攻撃に、
その数、およそ三百。多少の時間稼ぎになると踏んで、ここに仕掛けた手持ちの駒を全て投入する。
生前、そこそこの腕前があった連中だ。神極に負けるのは当然だが、足止めには充分だ。彼らが足止めされている隙をついて、
「逃がすかぁぁぁぁぁぁっ!!」
爆炎と轟音が轟かせ、三百の
「やはり化け物ですね!七星はっ!!」
あれだけの数の
これが奴ら『七星』の実力。首領が決して侮るな、と釘をさすわけだ。だが、
さて、話を変えよう。
大陸最強の武人暗殺者『七星』と大陸最恐の犯罪集団『絶界』が―本気でないとしても、ぶつかったら大講堂がどうなるか。
説明しておくが、大講堂は王国の議会場に近い広さを持つ白亜の大理石で作られた『歴史的価値の高い』建築物で、それなりの耐久性を持っているが、そんな化け物クラスがぶつかれば、ただで済むわけがない。
爆炎を上げて、燃え上がる大講堂を尻目に、目にも映らぬ剣戟戦を繰り広げる神極と
「次元が違いすぎるだろ、あれ。」
「ええ、大講堂が破壊されたのは残念ですが、被害がこの程度で済んだのは奇跡でしょう。あの『七星』と『絶界』の戦いは人外です。」
冷や汗を流しながら、呟くファルティナに衛兵部隊の隊長は遠い目で乾いた笑いを浮かべる。
彼らの戦いはもはや人外だ。国が亡びるよりは遥かにマシな状況だ。被害も呆然と戦いを見つめているファルティナ王女に比べたら、それほどひどくはない。なにせ歩く人災と呼ばれているファルティナは各国から天文学的な賠償金を要求されている。
対して『七星』は国家存亡の危機を与える『絶界』を倒すための戦い。賠償金どころか、国王以下全員が頭を下げて感謝する状況なのだ、と考える。
はっきり言おう。人外レベルの戦いを目の当たりにして、衛兵隊長の思考が妙な方向に飛んでいるだけだ。ファルティナもそこはツッコんでおきたかったが、あの戦いでは自分は足元にも及ばないことを痛感させられた。
鋭い剣戟で押し切っていく神極に対し、剣から鞭に武器を持ち替えた
ぶつかり合う二人の衝撃波が大気を震わすも、火極が瞬時に張り巡らせた結界で避難したファルティナや生徒たちに被害は及ばない。
何度も空に炸裂する火花と電光。戦っている当事者の姿は見えないが、それが一層戦いの凄まじさを物語っている。
息をつく暇もない攻防戦。隙などない。誰かが割って入るのは不可能に思う戦いだったが、決着は一瞬だった。
幾度目かの剣戟を受け止めていたミスリルで作られた
弧を描いて飛ぶ鞭の残骸。舌を打ち、即座に剣へと持ち替えようとする
吹き出す血にためらうことなく、神極はその勢いのまま
無駄な動きなどない、華麗な連続攻撃にファルティナは決着がついたと思った。無意識に一歩前に踏み出した瞬間、火極の鋭い制止が飛んだ。
「離れろっ!ファルティナ!!」
その一言にファルティナは背後に感じた気配に反応し、剣を抜きながら、切り捨てる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
甲高い耳障りな絶叫が木霊し、神極は攻撃をやめ、大きく息を吐き、
鮮血に染まるファルティナの剣。ごとりと地に転がる右手首。手首を切り落とされて、のたうち回るのはバカ王子にして弟のクリストフ。
何が起こったのか、分からない表情を浮かべるファルティナ。感じた殺気に体が反応し、思わず切って捨てたのが弟の手だとは思わなかった。
だが、そうしなければ、殺されていたのは自分だった、とファルティナは弟の手首のそばに転がった鈍く光る短剣から視線が逸らせない。
気絶していたはずのクリストフは剣の心得など全くなく、自らの手で攻撃することができない根性なしだ。それが剣術の達人で魔法の心得のあるファルティナを自分から襲うなどあり得ない。いや、やる根性がないのに、こんな真似をしたのが信じられなかった。
「おや、残念。やはり根性なしの
「これが狙いだったんだろうが、
腕を切られたのに、焦りなど全く感じない、飄々とした
「は?どういうこと??」
「今回はここまででしょう。こちらもこれ以上の戦いは不可能ですし、あなた方も残りをどうにかしないとまずいでしょうからね。」
「
混乱して話についていけないファルティナを無視し、
「いつまでボケっとしているつもりだ?ファルティナ王女。さっさとこの状況を収めろ。国王陛下が来られる前になんとかしろ。」
そこまで面倒見きれるか、とややキレ気味になる神極に火極は肩をすくめ、
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