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 学園におけるウィンレンド連邦共和国の留学生への脅迫事件は国王及び議会の早急な謝罪によって、厳しい追及を受けずに収束した。

―表向きには、だが。

「どぉぉぉぉゆぅぅぅぅぅおつもりかしらぁぁぁぁぁっ??アルフレード。私たちはあなた方の依頼を受けて、『七星』をも派遣してあげたのよ?それを侮辱し、あまつさえ、隷属扱いしてくれちゃって……滅ぼされたいのかしらぁぁぁ?」

「申し訳ない!ファルティナと学園から報告は受け、あのバカ息子クリストフたちは処断した。あいつらを野放しにした上に、自分たちで事を収めずに、そちらに任せてしまった我らの責任だ。そちらに一切の非はありません。」

 王宮の奥にある円卓の間で、アルフレードとその弟二人に宰相以下全員が平身低頭で、通信球に映し出されたシェーナに謝罪する。

 傲岸不遜に睥睨する怒れる盟主・シェーナの映像を片手に持ち、テーブルに腰かける紅玉の黒仮面・火極も冷ややかな態度で、半ば土下座に近いアルフレードたちを見下ろす。

 同情の念など一切ない。こちらとしては即座に依頼を破棄し、攻め込んでやってもいいくらいの侮辱を受けたのだから、これくらいは当然のことだ。

「そーよねぇぇぇぇぇっ。こちらは『七星』を二人も派遣してるのよ?しかも、破格の値段で!損害賠償を請求してあげましょうか?」

「その程度でいいんですか?盟主。俺らの受けた屈辱って、それぐらいじゃ気がすまないんですけど?」

「あら、どうしましょ?『七星』の中でも便の火極がそんなに怒るなんて……他の子たちも派遣したほうがいいかしら?」

 噓をつくな。『七星』の火極と言えば、一度激怒したら最後、相手を徹底殲滅しなければ気が済まないで有名なほど残虐性の持ち主ではないか。

 心の内で、そうアルフレードは叫ぶが、言い返せるはずもない。剣に覚えがあるオーウェルやヴォルフォードでさえ、目の前にいる黒仮面の少年・火極に敵わない。威圧してくる覇気が人外レベルで、指一本動かせないほどだ。

 本当になんてバカな真似をしてくれたのだ、と我が息子クリストフたちを罵倒したいが、とにかくシェーナの機嫌を取るしかない。一つ間違えば、ファルティナがやらかした騒ぎ以上の事態になりかねない。

 それだけウィンレンド連邦共和国のシャルーナ領は危険なのだ。まさに今、シュレイセ王国の命運は風前の灯火にさらされている。それを正確に、意外なほど分かっていたファルティナは即座にアルフレードたちと議会に報告し、クリストフたちを旧学園寮に幽閉させ、衛兵たちに見張らせていた。

 そのお陰で、ウィンレンド連邦共和国としては穏便に済ませてくれたが、シャルーナに関しては直接交渉となった。

 連邦共和国の大統領曰く、下手に止めると国の危機だから、だそうだ。

 当然だ。ウィンレンドにとって、シャルーナはそれだけ重要な地位を占めているのだ。そこと本気で事を構えるなら、こちらもその気である、と言外に釘を刺されていたのだから、もう国王のプライドなんて関係ない。ひたすら許しを請うしかないのだ。

「本当に申し訳ございません。予定されていた模擬戦などの行事は全て中止させ、明日にでも大講堂にて、此度の一件に関して学園の生徒たちには伝えます。無論、息子たちにはそれ相応の処分を下します。そちらの言い値で賠償金も支払いますので、どうか、これで収めていただきたい。」

 土下座で必死に謝罪するアルフレードたちの姿にシェーナだけでなく、火極の心は動くはずがない。

 留学生を侮辱された件もそうだが、それ以上に、この国王バカどもが気づいていないことが気に食わない。

 神極からの報告によれば、あの王子たちは、自分たちの仕出かしたことに気づいておらず、明日、大講堂で何か騒ぎを起こそうと、不穏な動きを見せているそうだ。しかも、荒事で名の知られたメルベイア王国の傭兵団を雇っている。

 それだけの情報が揃っていれば、連中が何をしでかそうとしているかは察しがつく。なのに、ことが腹立たしかった。

 全く懲りていないなら、上等だ。こちらもこちらで受けて立ってやる。例え、この国が滅びようとも、それが王子たちの望みなら叶えてやろうではないか。

 シェーナが過激な思考を巡らしたその時、許可もなく、一人の青年が入室してきたことで、火極が盛大に舌を打ち、シェーナも珍しく渋い表情を見せた。

「ご無沙汰しております。盟主・シェーナ殿。此度の貴国や貴殿の民に対する無礼の数々、この私に免じてお許しいただけませんでしょうか?ではありますが、あれでも一応。」

「議長と我が国の大統領の差し金ね。あなたが出てくることは想定していたけど、ここまで早く動かれるとは思わなかったわ、ナジェル辺境伯・アルスフォード殿。」

 ナジェル辺境伯・アルスフォードのどこかズレた、だが、底知れない何かを感じさせる言葉に、癪だと言いたげな表情を見せるシェーナ。

 その様子に首をかしげるアルフレードたちだが、ともかく助かったことを悟る。

 温厚でやや天然ではあるが、議会からの信頼も厚いアルスフォードをシェーナは苦手だった。

 確かに天然ではあるが、彼は非常に優秀な人物なだけでなく、剣や魔法が尋常ではない強さを持っている上に、補佐している親友にして側近たちも極めて優秀な連中揃いだ。

 正直、事を構えたくはないが、いずれは

「まぁ、いいわ。今回の件はこれ以上、追及しません。、明日はひどく荒れそうですわね。あの王子、まだが理解していらっしゃらないようですわ。」

「反論、弁解の余地もありません。明日、きちんと分からせましょう。この件はファルティナにも伝わっています。あれに群がる……いえ、、叩き潰してみせましょう。」

 深く頭を垂れた後、上げたアルスフォードの目は刃のごとき鋭い光を帯び、火極は背に冷たいものが滑り落ちていく。映像のシェーナも威圧され、話をそこで打ち切った。

 分かっているのだ。アルスフォードが真に怒っているのは、あのバカ王子たちでも羽虫でもない。シェーナたち・ギルド『戦いの足跡』に、だ。

 だが、あの件はこちらに非はない。どちらかと言えば、被害者だ。そして、あの時、決断したのは他の誰でもないレティア自身だったのだから。

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