12
ファルティナが会長になったことにより、生徒会は刷新され、メンバーは慣例通り特別クラスの生徒によって構成され、クリストフたちが行った悪しき慣例は即時撤廃となり、多くの生徒たちは歓喜して受け入れた。
食堂の利用もクリストフたちが最優先で、その間は他の生徒たちは利用不可とされていたことも撤廃され、昼食を持ってくるのが難しかった一般生徒たちは大歓迎で、新会長のファルティナを褒めたたえた。
だが、実際にはファルティナは自分では全く動かず、他のメンバーに任せているので、悠々自適にしている。
副会長となった伯爵子息はこの状況を喜び、自ら率先して動き、多くのメンバーもそれを受け入れていたが、中には歓迎していない者もいる。
その一人がコルディット侯爵令嬢・ヴィオーラだ。はっきり言って、今回の改革で八つ当たりを一番受け、迷惑極まりない話だ。
あの恋愛お花畑で、一応婚約者であるクリストフは姉であるファルティナに直接抗議しても、軽くあしらわれ、面白くない。自分たちが生徒会から追われたのはファルティナだけでなく、ヴィオーラの働きかけがあったのではないか。
それならば、納得がいくと考え、ヴィオーラに対し、地味な嫌がらせを繰り返している。あまりにもバカらしくて生徒の誰も信じていないが、リヒトとヴォルフが中心となって、ヴィオーラがクリストフに愛されるエリナに嫉妬して陰湿ないじめをしていると吹聴してまわっているのだ。
呆れて反論する気にもならないヴィオーラに同情したのか、ファルティナがクリストフたちを生徒会室に呼び出して説教したくらいだが、全く懲りていない。
曰く、エリナが大切にしていた母の形見であるブローチが盗まれた。
曰く、エリナが伯爵位以上の令嬢たちにいじめられていた。
曰く、エリナの教科書やノートが破り捨てられていた。
これら全てはファルティナの後ろ盾を得たヴィオーラが令嬢たちに命じてやらせていたことだ、とクリストフたちが騒いだが、ファルティナたち生徒会のみならず全生徒から一蹴された。
「ヴィオーラがエリナに嫉妬??ありえないだろ。お前なんかがヴィオーラに惚れられるなんて、一ミクロンもあるものかっ!恥晒すのもいい加減にしろっ!」
ファルティナの珍しい正論に言葉を詰まらせるクリストフをヴィオーラは氷点下の目で見下していた。
王女の言う通り、ヴィオーラはクリストフと婚約なんてしたくなかった。あんなバカ王子との結婚なんてありえない。父であるコルディット侯爵も頑なに拒否し、国王や王弟公たちも認めなかったが、マグクール侯爵やクリストフの母妃・ソフィーヌが王子の婚約を断るなど不敬の極みだ、と言って騒ぎ立て、仕方なく認められた婚約だ。
決められた瞬間、ヴィオーラの母は卒倒し、他の貴族たちから非常に同情された。
「あのバカにはもったいない才媛です。何があっても、ヴィオーラ嬢の名誉は守ってください!」
サイスト公爵が一家総出で最後まで猛反対し、コルディット侯爵家に有利となるいくつかの約束を交わしての婚約を結んだ。
現在、その約束をクリストフは思いっきり破っているので、近いうちに婚約破棄になることが決まりそうだが、早くして欲しいと、ヴィオーラは人気の少ない森の中を屋敷に向かって走る馬車の中で思う。
「いい加減、あのバカ王子と取り巻きたちと縁切りしたいわ。王女殿下が思った以上に大人しいのは帝都からの知らせが原因のようだもの。基本、あの方も歩く人災のはた迷惑ですから。」
「お嬢様、もっともなご意見です。あの方々のせいでお嬢様が学園に通わされていることが屈辱です。」
同乗している専属メイドにヴィオーラは満面の笑みで応じる。
その時、大きく馬車が揺れて止まり、外から御者の叫び声と馬のいななきが聞こえ、護衛たちの怒号と共に切り合いの音が響く。
何かと思ったヴィオーラと侍女が外を見ようとした瞬間、乱暴に反対側のドアが蹴破られ、片刃の剣を持った盗賊らしき男たちが乗り込んできた。
とっさにドアを開け、ヴィオーラと侍女は外へと逃げ出すが、その先にも盗賊たちの仲間が数人待ち構えていた。
「お逃げください!お嬢様っ」
盗賊たちと切り結ぶ護衛たちが叫ぶが、あまりにも多勢に無勢だった。
ヴィオーラの護衛六人に対し、盗賊たちは二十人は超えている。すでに周囲は取り囲まれ、御者と馬を抑えられた状況でヴィオーラが侍女を連れて逃げ出すことは不可能だった。
「悪いな~嬢ちゃん。アンタは俺たちに……」
「あ~あ、バカが考えることって、どーしてこんなに分かりやすいんだろうな~」
「いいんじゃない。わっかりやすくて、俺はめっちゃ楽しいけど?」
ヴィオーラを捕えようと手を伸ばした男の真上から降ってきたフードを目深に被った二人が踏みつぶし、反射的に切りかかってきた数人の男たちの剣劇を二手に分かれ、軽い動きでかわし、懐から取り出した短刀をのど元に投げつけ、貫く。
あまりにも流麗で無駄のない動きに、剣に興味のないヴィオーラでさえ、その力量が桁外れであることが容易に分かる。
現に先ほどまで余裕の表情を見せていた盗賊たちが動揺し、小刻みに体を震わせながらも切っ先を二人に向けている。
「な……なんだっ!!てめーらはっ!!」
背後で指揮を執っていた人一倍体格のいいリーダー格の男がだみ声で二人の乱入者に向かって怒鳴りつけるが、体が震えていた。
「格の違いが分かってるんだろ?おっさん。こいつらみたいになりたくなかったら、大人しく投降しなって。」
悪いようにはしないよ、とからかい口調でフードの一人が言うが、男は怒りに顔を真っ赤にして切りかかるが、寸前で目の前から消え、剣が空を切る。次の瞬間、顎に強烈な激痛が走り、白目をむいてひっくり返る。
「雑魚のくせに吠えるなよ。」
「なぁ~俺一人で残り片づけていい?」
「やってもいいけど、これ以上殺すな。一応確認取っておきたいから。依頼料、ふんだくれるならふんだくりたいし。」
「じゃぁ、いいな。好きにするな~」
言うが早いか、やや小柄なフードの片割れが歓喜の声を上げて、腰に帯びていた剣を抜く。思いっきり小物扱いされたことに怒り狂い、やっちまえとお決まりのセリフを吐いて襲い掛かる盗賊たち。
だが、実力の差は明らかだった。小柄なフードの片割れは足場の悪い森の中をものともせず、襲ってくる男たちの懐に一歩で飛び込み、剣の柄で思いきりみぞおちに一撃を加えて昏倒させていく。
水のような一連の動きで十数人を倒した相手にリーダー格の男は破れかぶれで切りかかり、そのフードの下に隠れていた顔を見て、腰を抜かした。
「へぇ、この顔に覚えがあるのか?なら、話は早いか。」
「ま、持った方じゃないの。久しぶりに暴れられて楽しかったけど。」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
今までの強気な姿はどこへ消えたのか、リーダー格の男は腰を抜かしたまま、フードの片割れから滑るように後ずさり、二人は楽しそうにフードを脱ぐ。
その下から現れたのは、顔の上半分を隠す半仮面。一方は黒地に銀の縁取りがされ、額の部分に紅玉が埋め込まれ、もう一方は白地に金の縁取り、額に金剛石が埋め込まれた仮面だ。
たかが仮面。しかし、その意味を知る盗賊のリーダー格と手下たちにとっては恐怖でしかない。
「ししししし、『七星』火極!!?神極!!??なんで大陸最強の武人暗殺者がここにいるんだよぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
仮面に隠されていない口元が弧を描き、白仮面・神極と黒仮面・火極は緩やかな足取りで盗賊たちに歩み寄った。
「運がなかっただけだろう?さぁ、どうしてやろうかな?」
容赦する気が全くない神極の発言に恐怖が限界を超えた盗賊たちは全員その場で失禁し、気絶した。
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