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「たっだいま~レティア。面白いこと分かったよ♪」
「お帰り、アシェ。こっちもツッコミどころ満載なネタがあるよ。」
窓から機嫌よく戻ってきたアシェをレティアはベットから跳ね起きて、出迎える。
目立つ学園の制服ではなく、平服にフード姿で学園を抜け出したアシェは下町まで情報収集をしていたのだが、思っていた以上に分かったので、ホクホク顔だ。
「いや~笑えるよ、あの令嬢。平民上がりのわりに、すっげー貴族社会ってか、生活に詳しいんだよな。普通、庶子がいきなり迎え入れられたら、御用達商人を呼んで買い物なんて戸惑うのにさ~平気なんだよな。」
「へぇ~そう言われると、話し方とかが洗練されてるね。付け焼刃じゃないところが気になったけど。」
話を聞いて、ふと気づいたことを口にすれば、アシェは我が意を得たりな笑みを浮かべ、口を開く。
「そうだろうな。エリナだっけ?あいつ、確かに母親と一緒に下町で暮らしてた。ただ、ガキの頃に母親が亡くなって、父親のことは分からない。身寄りもないから孤児院に送られるように周りが取り計らったら、親族だって男が来て、引き取ってたってさ。」
そこまで聞いて、レティアは疑問符を浮かべる。唯一の保護者である母を失い、身寄りもなかった幼い少女の前に親族が現れる、なんて、おとぎ話みたいな都合のいい話が早々転がっていない。正直、出来すぎな話だ。と、親族の男の正体がひっかかる。
「でさ、引き取った親族ってのが、エリナが一番使ってる御用達商人にそっくりだって話。どこにでもいるような平凡な顔してるみたいだけど、魔力持ちの占い師がエリナと母親のこと知っててさ。引き取った男の顔も覚えてたんだ。」
「なるほど、魔力持ちに幻惑の魔法は通用しないものね。その商人、普段から幻惑の魔法で顔を変えてるなんて、怪しさ爆発だね~」
なんというか、どこまでも分かりやさすぎて爆笑寸前になる。アシェも同じ感想らしく、必死に笑いをこらえている。それはそうだ。『七星』の仕事でこんなにも簡単なことはなかった。
「わっかりやすいよな。貴族社会に慣れていないふりして、王侯貴族に取り入る時点で狙いが丸わかりだよ。」
「いや~ここまで世間知らずの箱入りバカだったなんて爆笑だね~。完全に狙ってきてるよね。でもさ、あいつの立場知ったら、逃げ出すね。」
笑いながら話すレティアにアシェは全くだ、と同意する。だが、気づいていないところからして、エリナとその商人は知らないのだ。まぁ、あのバラーナ男爵は王家の法について疎い貴族で有名だから仕方がないが、今のところ、王子であることは間違いないから狙いは間違っていない。間違っていないが笑える。
他国から来たばかりのアシェやレティアが気づいたのだから、おそらく、エリナの狙いに気づいている生徒たちもいたのだろう。
このままクリストフたちの乱行を放置しておけば、王家の危機、ひいては王国の危機につながると考えた生徒たちはファルティナが転入したことを機に動いた。
傍若無人の限りを尽くしてきたクリストフたちを生徒会から追い出し、ファルティナを祭り上げて、実権を握り、学園生活の平穏を図ったことは見事に成功したわけだ。
「ファルティナ王女、人気爆上がりだな。ちょこっと食堂に顔出したら、みんなファルティナ様の方が人間ができてるって。」
あの暴走王女をそう言うなんて、世も末だね、と笑いまくるアシェにレティアは何とも言えない笑みを浮かべる。
うん、アシェの言う通り、あいつの方が人間ができているなんて、よほど苦々しい思いをさせられてきたのだろう。本来、生徒会を仕切ることができるのは、上位成績者のみで構成される特別クラスの生徒だ。
レティアも学園中に使い魔を放ち、些細な情報を集めていたが、なんというか、すごかった。
あんな恋愛お花畑集団より一大パーティーを率い、帝国のクランでソロ活動しているファルティナ様を生徒会長に、と学園長たちに貴族階級の男子生徒が数名、直談判し、それがあっさりと認められるなり、即座に動き、今度は貴族階級の女子生徒たちが寮の自室でだらけていたファルティナのところに駆け込んで、生徒会長就任を迫った。なんとも手際が良いことだ。
それだけクリストフたちに人望がない話なんだが、ファルティナが生徒会長なのはどうなんだろう。
はっきり言ってしまえば、仕切るのはうまい。ただし自分は必要最低限しか動かないような仕組みを作って、重要事項以外は丸投げするのが目に見えている。
それはそれで大変だろうが、クリストフよりは遥かにマシだ。全く仕事もせず、重要事項も把握しておらず、失敗すれば、責任を押し付けてくるバカ王子と比べるまでもない。さっき使い魔を通して見ていた限り、なぜ生徒会追放になったのか、全然思い浮かばないクリストフたちの方に勝ち目などあるわけがない。
「昔からだけど、ファルは悪知恵働くから、クリスの奴、散々泣かされてきたのにすぐ忘れるから、もっと痛い目に合うんだよね~」
「それって、真正のバカだな。だから、あんなバレバレな連中に引っ掛かるんだ。本当なら諫める側近たちが全員、取り巻き集団化してるから余計拍車がかかったって感じだよな~」
何年たっても成長しないクリストフもだが、側近となるべきリヒトやアイセン、ヴォルフが同じレベルのお花畑なんて道化もいいところ。サンドバックのように、一方的に殴られるしかないよな~とレティアは遠い目をする。
「この寮、今、俺たちしかいないから平気で話せるから助かるよな。警戒して周囲に結界魔法使う必要がなくて楽だな~」
「ああ、そうだね。普通、結界魔法使うよね。なのに、クリスのところは楽勝で使い魔送れた。ファルティナは使ってたから無理だけど、周りの生徒の話から分かるけどね。」
「うわ~それでよく王太子なんて名乗れるな~。」
ウィンレンドからの留学生だから、と国王命令で寮は貸切。王族であるファルティナやクリストフを超える特別待遇なので快適すぎる。
秘密裏の話をする場合は結界魔法で部屋全体を覆い、声が外に漏れないようにし、使い魔の侵入を阻むようにしている。ウィンレンドだけでなく、各国の上層部では常識なのだが、クリストフたちはそういう基本常識さえもない。これでは王太子になれるわけもない。
「まぁ、あいつらのことは置いておくとして……御用達商人の出身ってどこ?あんまり遊び過ぎてると、盟主の逆鱗に触れる。」
「それも掴んでるから安心してくれよ。俺も盟主の逆鱗は怖い。」
爆笑を引っ込め、身震いするアシェ。優位な情報を掴んでおいて遊びすぎれば、戻ったときのお仕置きが怖い。
大体のことはつかめたし、短期決戦で終わらせる。長居すれば、ファルティナに気づかれかねない。レティアにすれば、死活問題だ。
まずはリヒトとヴォルフが動いている問題を片付けることで二人は動くことにした。
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