13
『七星』。グラン大陸のギルド・クランでその名を知らぬ者はいない七人の最強の武人にして暗殺者パーティー。ウィンレンド連邦共和国シャルーナ領のギルド・『戦いの足跡』創設以来の伝説的強さと不敗神話を誇るパーティーであり、その素顔を知る者はいない。
噂では何度か代替わりをしているらしいが強さは変わるどころか、更に強くなっている、まさに最強の称号を持つパーティー。
その伝説が目の前に二人も現れれば、卒倒するのも無理ははない。無理はないが、
気絶されても地獄が少し伸びるだけの話だ。
「で、さっさと気が付かせたんだけどさ、あんまり手間かけさせるなよ。俺たち暇じゃないんだけど?」
「いやいや、ダメだよ、火極。せっかく起こしたんだから、聞きたいこと聞けないと困るだろう?そういうわけだから、さっさと口割ってくれるか?」
あんまり手荒な真似したくないからさ。
表情は良く分からないが、思いっきり笑っているのが分かり、縄で芋虫が如く縛り上げられたリーダーの男はすでに涙目だ。手下たちは全員氷漬けにされて、適当に転がされているのが見え、羨ましかった。
笑顔で楽しんでますの『七星』二人、しかも一人はその中でも最強の中の最強と呼ばれる『神極』がいるなんて恐怖を受けずにいるのだから、そう思えた。
夢ならばどれだけ良かったと思うが、
「それでさ、誰に頼まれて、コルディット侯爵令嬢を襲った?」
「話させていただきます。ええ、もうそれこそ喜んで全てお話します!ですから、命ばかりはお助け!」
「余計な事話すな。無駄な労力は使いたくない。問われたことのみに答えろ。」
軽い口調で尋ねる火極に必死で媚びを売るリーダーの男を見苦しく思ったのか、神極はわずかばかり語気を強めた。それだけで、リーダーの男は震えあがり、自由にならない身で土下座した。
「すみませんっ!俺たちに依頼してきたのは、リムス公爵の次男と宰相の次男です!バラーナ男爵の御用達商人の仲介があって、金貨五百枚で雇われましたぁぁぁぁぁぁっ!!」
別に怒ってはいないのだが、逆鱗に触れたと思われたのか、リーダーの男は神極と火極が問わずとも、素直に全て喋りまくった。
リヒトとヴォルフから今日の夕刻、この場所をコルディット侯爵令嬢が乗った馬車が通る。それを襲撃して、令嬢を攫い、王都の外れにある旧市街に連れてこい。そこで待っている商人の配下に引き渡せば、仕事は終わりだと言われた、と。
「商人……ね。」
「全ては王太子殿下であるクリストフ様のためだ、とか可笑しなことを言ってましたが、俺らは金が欲しかっただけで受けてしまったんです!!反省しています!!警備隊に引き渡すなり、騎士団に引き渡すなり、好きにしてください!!どうか命ばかりはお助けをぉぉぉぉぉぉぉぉっ~」
「うん、俺たちも命取る気ないから♪ただ、引き渡すのは近衛だから。」
罪償うために、馬車馬のように働けよ、とのたまう火極にリーダーの男は歓喜の涙を流して感謝し、呆気に取られていたヴィオーラたちに額を地にこすりつけて謝り倒した。
その姿に満足したのか、火極は容赦なく手下と同じ魔法を使う。
「じゃ、後は凍り付いてろ。
涙を流しながら、凍り付けになるリーダーの男にドン引きする護衛たちに神極は嘆息し、やや低い声をかける。
「いつまで呆けているつもりだ。誰か増援呼んで来い。こいつらを連行しないと、厄介なんだよ。それと馬車は大丈夫なのか?いつまでも大事なお嬢様を地面に座らせておくつもりだ。」
言われた護衛たちは慌てて手分けして、二人が無事だった馬に乗って、増援を呼びに行き、残った四人は馬車の状態などを確認する。
「で、ヴィオーラ嬢。あなたにお聞きしますが、なぜこの道をお使いになられたのです?」
「ここってさ、最近、近くの村や町を荒らしまわってる盗賊たちの住処になってるって話だよ。コルディット侯爵がここを使わせるなんて考えられないんだけど。」
説明すると、王立学園は王都から小一時間ほど離れた場所に造られた学園街で、ほとんどの生徒たちは寮生活を送っているが、家の都合で乗り合い馬車や自家用馬車で通う生徒も一定数いる。
安全面を考え、国王たちはきちんと警備隊が配置され、整備された王都まで一直線の街道があるのにも関わらず、ヴィオーラたちは裏街道と呼ばれる森林の中を貫くこの道を使った理由を聞き出したかった。
「クリストフ様たちの命令です。お前が街道を使うのは目障りなどと言われ、御者を脅したり、馬に興奮する薬を嗅がせたり、といった地味な嫌がらせをされておりまして、仕方なくこちらをつかったのでございます。」
全く情けない自称王太子様ですわ、と嘆息する侍女に神極と火極は心から同情した。侍女の言葉通り、大人げない。いや、バカすぎる。
「王都の外れにいた奴はどうした?」
「ここに来る前に片づけたよ。襲撃なんて考えてる時点で、ヴィオーラ嬢をどっかに売り飛ばすとか定番すぎだろ?同じく氷漬けにして、近衛騎士団の詰め所にぶん投げてきた。」
「ご苦労様。じゃ、追加の護衛が来るまで、保護させていただきますね。ヴィオーラ嬢。」
礼金は王家からふんだくりますので、ご安心ください、と念押しする火極に侍女と御者は心から安堵し、ヴィオーラはクリストフたちのやり口に頭が痛くなる。
こんな真似をして、ただで済むわけない。いくら王子がいるとはいえ、人攫いに人身売買までやれば、重罪。もう呆れて言葉がでない。
「あとはこちらに任せてください。ヴィオーラ嬢。あなたが心配することはありません。むしろ、これを理由に婚約破棄できますから。」
穏やかな口調ながら、欲しかった展開を告げてくれる神極にヴィオーラは久方ぶりに心から微笑みをこぼした。
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