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 シュレイセ王国・王都フランにある王立学園。王侯貴族の子息・令嬢のみが通う学校機関なのだが、国王・アルフレードが改革を真剣に考えている機関でもある。

 理由は単純。貴族のみが通うことを許された学園など異常。爵位など、実社会の前に役に立たない。平民、貴族が平等に学び、切磋琢磨する国立学院との実力差は歴然となっている、という前書きはどうでもいい。

 早い話が、前者の学園では、昔から親の身分を盾にするバカ集団が毎回発生し、問題を起こすからだ。

 その都度、是正を行うが、無駄に身分だけは高いと、プライドも異常に高い連中だらけなので、全く改善されない。その結果、卒業後も国の中枢を担う人材になるはずがないので、出世はできず、そのまま爵位を継ぎ、没落するパターンが多い。

 まともな貴族や平民達は成績や人望次第では出世の道が約束される学院への進学を目指し、幼いころから勉学・礼儀作法を学ばせる。切磋琢磨することで、より広い視野と知識を得るだけでなく、人脈を広げられる。

 平民は10歳まで無料で学ぶことができる初等学校で最優秀な成績を修めると、自自動的に国立学院への進学が許され、学費の必要もない上に奨学金が与える特権がある。学院での成績次第では、上級官吏にもなれるので、必死で這い上がってくる者たちが多い。

 そういった学院制度からあぶれた、いや、試験で落とされた者たちを救済するために設立されたのが、学園のはずだったが、いつの間にか貴族だけが通う学びの場に変わってしまった。

「っていうのが、国立学院と王立学園の力関係。学園の根本的な問題って、地位だけしかないバカ貴族の子どもが多すぎて、学園至上主義に凝り固まっているんだよね。でもって、問題起こしても、親が権力で揉み消すから自浄作用がなくなって、国王陛下の頭痛のタネになってるんだよ。」

「あ~つまり、学院はエリート。学園はバカ集団。更なるエリートは留学するってわけだ。」

 レティアの説明にアシェは金の瞳を細め、くだらないな、と呟く。まあ、確かにそうなので、レティアも訂正はしない。

 なにせシュレイセでの常識だ。それでも、学院の試験に落ちてしまい、仕方なく学園に通っている者たちもいて、中にはかなり優秀な人物もいるので、一概には言えない。言えないのだが、そうも言ってられない事態になっているのだ。

 発端は二年前。シュレイセ王国の王子・クリストフと王弟・リムス公爵の子息、宰相の次男に騎士団長の次男が揃って、学園へ入学した。

 これが公表された時、国民のほとんどが思った。この国、危ないんじゃないか?と。

「王子だけじゃなく、王弟公、宰相、騎士団長の次男が揃って、学園で入学じゃ、心配になるな、そりゃ。」

「ああ、そうさ。あんた達、他の国の人だろ?シュレイセのこと、あんまり知らないで来たのかい?」

 急にレティアとアシェの会話に割って入ってきたのは、シュレイセ王国の王都でも評判の良い、安くておいしい食事が提供される宿の女将。

 シェーナからの依頼を引き受け、半月かけてシュレイセ王国・王都に来た二人は学園入学前日に選んだ宿で夕食を取りながら、ざっとした説明をしていたところへ、女将がシュレイセ名産のベリージュースが並々と注がれたカップを持ってきたところだった。

「俺は初めて来たんだけど、こいつは違うよ。結構な事情通なんで教えてもらってたんだ。」

 幼さを残しているが、切れ長で大きな金の瞳に人懐こい笑顔で答える少し小柄だが、短く切りそろえた黒髪の少年に女将は頬を赤らめる。

 黙っていれば、美少年だもんな、アシェって、とレティアは思うが黙っておく。見た目に騙されると痛い目に合うほど、アシェは辛辣な毒舌だし、乱暴狼藉など働こうものなら、相手を地獄に落とす程、徹底的に叩きのめす性格だ。けれど、知らない者から情報を聞き出す話術の持ち主でもある。特に女性陣からの受けは並外れて高い。

 美少年は得だよな、と思うレティアだが、アシェから言わせると、レティアも大概だと思っていたりするが、ここでは関係ない。

「へぇ~そうなんだね。兄弟ってわけでもなさそうだけど、なんでこの国に来たのかい?」

「留学です。私たちの国のご領主様がシュレイセの学院で学ぶように命じられたんだけど、手違いがあって、学院の留学者枠に空きがなくて、予定変更で学園になって頭抱えてたんだ」

「そりゃ、災難だったね。学園は今、クリストフ王子とお取り巻き集団がやりたい放題で牛耳ってるし、姉君のファルティナ王女は色んなところで暴れてくれただろう。笑い話にならないって、皆言ってるよ。」

「じゃあ、本当にこの国って危ないのか?俺たち、とんでもない国に来ちゃったのかな~」

 そりゃ、充分よく知ってる。なにせ三年前まで実害受けてました、と言えないレティアに代わってアシェが上手く女将との会話をつなぎ、困ったな、と言わんばかりの表情を見せる。

捨てられた迷い子のような顔をするアシェにすっかり骨抜きされた女将は慌てた、いや、安心させるように話す。

「いや、そうでもないさ。リムス公爵様のご嫡男様やサイスト公爵様のご子息様たちがしっかりされているからね。王様だって、素晴らしい方だから心配はしなくても大丈夫だよ。」

 国民のためにがんばってくれるさ、と胸を張る女将だったが、すぐに別の客に呼ばれて、席を離れていく。

 夕食時を迎え、かなり込み合ってきたこともあり、喋りすぎたと大慌てで離れていく後ろ姿を見送ると、レティアはテーブルに突っ伏した。

「同情するよ、レティア。王子たちが権力を振りかざして牛耳ってるなんて、ありえないよな。」

「それ以前に王族が学園って時点で終わってるよ。子どもの頃から学院に通うように勉強させられてるのに、なんで普通に学園入学する?信じられないよ。」

 国の要職任される家の子どもが、しかも次男とはいえ、学園へ四人も入ってることも頭が痛くなる。どこまでバカなんだ、と叫びたくなるが、さすがにこらえる。

 今まで見たことないくらいの落ち込みぶりを見せるレティアにアシェはかける言葉が見つからない。

 シェーナが行かせたくない、と言っていたのも、うなづける。

 それもそうだ。バカやっている連中の二人はレティアにとっては、非常に認めたくないが、従姉弟なのだ。

 ただ威張り散らして牛耳っているだけなら、まだマシだが、自分たちが呼ばれた理由はそれだけではない。

この依頼が来た最大の理由。それは、学園を牛耳ったバカ王子たちが、揃いも揃って、一人の少女に惚れ込み、傍若無人な真似を始めたからだ。


 


  

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