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グラン大陸・南に位置するウィンレンド連邦共和国。山岳地帯に三方向を囲まれた小国なのだが、大陸屈指の強国と呼ばれている。
その理由は、とある領地が原因なのだが、多くを語らない方が身のためと恐れられている。
「って〜随分、失礼な案内本ね〜」
「いや、事実でしょ。ウィンレンドに攻め込もうとした帝国や連合国が仕掛けてくる前に、全滅させられているから。」
「そうだよ。ウィンレンド連邦の交易中心で、入り口のシャルーナは地獄の入り口、第一歩。意味もなく攻め入れば、最恐メイド集団にブチのめされるのがオチだからね。」
シャルーナ領主館の執務室。椅子に座る領主・シェーナは最近発行された各国の案内を纏めた観光本の内容にふくれ顔になり、執務机に突っ伏すが、呼び出されたレティアとアシェは放り出された観光本を一瞥し、納得してうなづく。
何を今更と思うが、シェーナのご機嫌は最底辺まで急下降する。
「あ〜ら、そのメイド達に散々、お世話されたのは、どこの誰だったかしら?」
茶色がかった金の瞳を細め、剣呑な笑みを浮かべる小柄な、一見すると、幼女にしか見えない濃紫のローブを纏った白銀の髪の女・シェーナにレティアとアシェは表情を凍らせる。
ーヤバい。地雷を踏み抜いた。
心の中で絶叫し、冷や汗を流すレティアの脳裏に3年間のしつけ、という名の地獄の日々が走馬灯の如く駆け巡る。
縁あって、いや、勧誘されて来たレティアは目の前で、静かに威圧してくるシェーナに徹底的にしごかれた。それこそ、死ぬ一歩手前まで。お陰でレティアは大陸きっての実力を持つほどに成長した。
ただ、その引き換えに、長い金髪の蒼い瞳で、整った顔立ちをしていた美少女は、今では首元で短く切り揃えた髪をした男装の麗人と化し、知らない女子達から惚れ込まれる程、大モテな状態だ。
月日って、残酷だよな〜と仲間達に遠い目でボヤかれたのは、一度や二度ではない。
だが、最強と呼ばれるレティア達に唯一無二の暗黙のルールはシェーナの怒りに触れるな、である。
シェーナをひとたび怒らせたら、最後。地獄を見た方がマシな思いをさせられる。
「よく分かっております。冗談抜きにシェーナが大陸最強であることは変えがたい事実です。私達が束になっても敵わないお力をお持ちです。」
「ええ、ありがたいこと。で・も・ね、根性なしをいじー失礼、鍛えても意味はないだけなの♪」
まあ、そうですよね、とレティアは胸の内で呟く。悪人面よろしく笑うシェーナの言葉に嘘はない。
このシャルーナで冒険者となるならば、あのメイドという名の戦闘集団の洗礼は必須。彼女達に負ける程度の実力なら、さっさと冒険者を諦めて平凡に暮らすのが身のためだ。無駄にプライドなんて持っている者はさっさと捨てないと破滅する。
それを捨てられなかった蛮勇を誇る者達が生きる屍と化したかを、レティアは数知れない程見てきた。
なにせ、シャルーナの全住民が他国では一騎当千の戦士や魔導士という規格外だらけ。普通に暮らすだけでも、慣れるまで苦労する。
ここに来た時点で、レティアは早々にプライドなんてものは、捨てていた。素直に頭を下げて、死ぬ気でやらなければ、生きていけない異常な領地。それがシャルーナだ。
「案内本の話で呼び出したのではないでしょう?シェーナ、いえ、我らが盟主。」
「ええ、そうだったわ。レティア、アシェ。あなた達二人に行ってもらうわ。」
「どこへ?話によっては拒否」
面倒事はごめんだ、と言いたかったアシェにレティアは青ざめ、シェーナは無言で椅子を下げ、右足を軽く執務机に振り下ろす。
次の瞬間、執務机は鋭い刃で切られたかのように真っ二つになる。
「私に逆らうことは許さなくってよ。あなた達に拒否権など」
「分かってます。そんなもの、存在しませんよねぇー、盟主。なので、依頼内容を教えてください。」
状況によってはそれなりに準備がいる。シェーナがレティア達を呼んだ時点で、拒否権がないことは骨の髄まで叩き込まれ、よく分かっている。そんな事を言う事態、無意味だ。
「いい子ね、レティアは。アシェはすこーしお仕置きが必要かしらね?」
「仕事に差し支えるので、それは許してください。」
「まあ、そうね。本当のこと言うと、レティアを行かせたくなかったのよね〜でも、事態が事態で、あんまり猶予がないの。だから、行って来なさい。『神極』『火極』。」
「仰せのままに、我が盟主。」
シェーナの命令は絶対。それ以上に、レティア達を二つ名で呼び、命じる事は最重要任務。
片膝をつき、受け入れるレティアとアシェに、シェーナは僅かばかり面倒だ、と思いながら、依頼を告げた。
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