ローズ歴史館

@nanaclaris

第1話 力

私は、物に触れるたび、その物が持つ記憶や感情を読み取ることができる。

突如目覚めた力は、私の性格を大きく変えてしまった。

私は他人と関わるのが恐くなった。

そして、私は次第に他人を遠ざけるようになった。

親しくしていたものでさえも…。

「ソフィア、俺、お前に何かしたか…?どうして俺を遠ざけるんだ…。」

幼馴染みだった少年アルハルトはいつも私に話かけてくる。

「アルハルト卿。騎士のお仕事はどうされたのですか?」

「それだよ!それ!何で昔みたいにアルって呼んでくれないんだよ!!?俺、寂しい!」

「…。」

アルハルトは、涙目で私を睨み付け、顔を膨らませていた。

彼はいつもそうだ。

私が距離を置いても彼は近づいてくる。

だから、つい忘れてしまう。

彼が私に対してどういう感情を抱いていたのかを…。

彼が携えている双剣を私は静かに見つめた。

この双剣が私になにを語ったかを忘れてはならない。

(何でだよ…。何で負けるんだよ…。ソフィアに!嫌いだ…!嫌いだ、…!) 

いつか聞いた声が、こだまのように頭に鳴り響いてくる。

「ソフィア!顔色悪いけど、大丈夫か!!?」

「…!!」

私は、彼が差しのべてくれた手を振り払ってしまっていた。

「ごめんなさい…!」

私は、気まずさと申し訳なさでその場にいられず立ち去った。

「ソフィア!」

彼が私を呼ぶ声がしたが、後ろを振すり返ることはできなかった。

彼は何もしていないのに。

けれど、自分では、どうすることもできなかった。

こんな力を持つことがなかったら、彼と昔の関係のままいられただろうか。

この力に目覚める前までは、彼と同じ夢を掲げながら、いつも側にいた。

けれど、今はもう彼にどう接したらいいか、分からない。

あの声を聞いてしまったあの日から。



私は、屋敷に戻り、自分の部屋に閉じこもった。

今日は、もう誰にも会いたくない。

アルハルトと会うといつもそうだ。

彼の優しさが眩しくて、自分が嫌になってしまう。

「ソフィア、いるか!!?」

「……。」

扉を叩く音がしたが、私は無視した。

扉を叩くのが、誰だか分かっているからだ。

「ソフィア!電気もつけないで何してる!」

大声で扉を開けてきたのは、私の兄であるソラル兄様だ。

私は、この兄がどうしても苦手だ。

声がでかく、あと距離感がおかしいからだ。

「ソフィア、部屋に引きこもってばかりでは、体に悪いぞ!お兄ちゃんと出掛けよう!」

「嫌です…。私、疲れてるので。」

私は、そっぽを向いた。

しかし、兄は全然気にしておらず、話かけてくる。

「どこか具合が悪いのか!??」

兄は距離の感覚がおかしくなるくらい、顔を私に近づけてきた。

「うわっ!いきなり顔を近づけないでくださいよ!」

「具合が悪いわけではないんだな!それなら、出かけるぞ!ほら、着替えてこい!」

「あの、私の話を…」

「出かけるぞ!玄関で待っているからな!」

兄はそういい残し、私の部屋から出ていった。こうなってしまった以上兄に従うしかない。

「面倒くさい…」

私はそう呟かずにはいられなかった。





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