第45話 衝撃に次ぐ衝撃
忍さんの中で、私ってどんな認識なんだよ……
マキは虚ろな目で地面を見つめる。
そういえば、前だって私がいつ後ろから刺してきても対処する準備をしてるとか言ってたなー。あの時は、なんだかんだ冗談半分かと思っていたんだけど、本気も本気なのでは?
そう認識されている上に、相手の弱みを握るような性格だと思われているのか……、そんなに間違ってもいない!?
まぁでも裏を返せば、子どもっぽくないって思われてるってことだよね!? そう考えればそこまで悪くはないんじゃない? よし、そういうことにしよう。
マキは表情をキリッとさせて前を向いた。
――マキ達は特に会話することもなく、黙々と街を目指して歩き続けていた。
「全然街見えてこないですね」
「そうだな」
その会話を最後に、また黙々と歩き続け、遂に日が暮れた。
うわぁ、今日はこのままじゃあ野宿かなぁ。嫌だなぁ~、あ!
辺り暗くなっていく中、体力は有り余っていても精神的な要因で足取りが重くなっていたマキの目に宿屋の文字が写った。
「忍さん! 宿ありました!! 今日はあそこで泊まりましょう!」
「そうか」
マキ達は宿屋でまったりと一夜を過ごした――
ふわぁ~。よく寝たぁ~。昨日はなんだかんだ疲れていたんだな~って、あれ? 忍さんは?
マキが部屋から顔を出すと、赤髪の忍が宿屋の主人と何か話をしている姿が見えた。
「忍さん、おはようございま~す。何話していたんですか~?」
まだ視界がぼんやりした様子で目をこすりながらマキは尋ねた。
「マキ。すぐに出るぞ。準備しろ。どうやら
「えっ?」
何その物騒な展開。
「剣術大会が開催される場所が分かった。中核都市キセンという所だ」
「あっ、店主さんに教えてもらったんですね! 分かって良かったじゃないですか!」
「ただ、かなり距離がある」
「どれくらいですか?」
「昨日のように歩いていては三週間はかかる。剣術大会は二週間後だそうだ」
「えぇっ!?」
マキの眠気が一気に覚める。
「とっ、とにかくすぐ準備しますね!」
マキはボサボサな頭に気を向けることなく支度を済ませ、二人は宿屋を後にした。
「昨日より早歩きで行けば、大会の日までには間に合いますよね!?」
「それでは意味がない」
「へっ?」
「俺達の目的は大会に出ることではないだろう」
「あっ。そうでしたね」
私まだ寝ぼけてるな……
でも急がないといけない割に、そんなに急ぐ様子がないんだけど良いのかな?
「このままではさすがに
「だったらもっと速く歩きましょうよ! 私も頑張りますから!」
マキは赤髪の忍の前に両手を出し、ギュッと拳を握った。
「ふむ。仕方がない。面倒だが、前と同じようにマキを担いで走るか」
「そうそうそうですよ! 私を担いで……って、んん??」
真剣な眼差しをしていたマキの瞳が右上を向く。
「『前と同じように』とは? 担いで走るとは!?」
「ん? どうかしたか?」
「いやいや、どうかするでしょ! まず! 前と同じようにってどういうことですか? そんな経験記憶にないんですけど?」
「ん? なんだ? 気付いていなかったのか?」
「何がですか!?」
「以前、山を三日ほど進んだ時があっただろう?」
「はい、ありましたね。思い出したくないですけど」
「ふむ。ではいくつ山を越えたと思っている?」
「え? 三つですよね」
「山は六つ越えている」
「はっ……?」
え? それはおかしくない?
「いやいや忍さん。何を言っているんですか! だって私数えてましたもん!」
「そうか。確かにマキが歩いたのは三つ分だけだな」
「さっきから何を……」
赤髪の忍は歩みを止め、マキを見た。
「マキのペースに合わせていては一向に山脈を抜けられそうになかったからな。マキが寝ている間に担いで進んだ」
「えっ……」
マキの顔から血の気が引いた。
「それってつまり、夜な夜な寝ている無防備な女の子の身体に触れたってことですよ?」
「まあそういうことになるな」
「その、ほら……、寝ているのを良いことに好き放題――
「何を言っているんだ?」
「まぁさすがにそれはしないでしょうね、忍さんですし。でも、いくら私が寝てからと言ったって、ガタガタする山の中を進んでたら普通起きそうなものですけど?」
「もちろん途中で起きることがないよう、幻惑魔法をかけていた」
「なっ……」
そりゃ、そこまでされたら起きないわ。あれ? でも……
「幻惑魔法って寝ていても効くものなんですか?」
「そういうものもあるにはあるが、俺が使っていたものとは違う。俺はあくまでマキが目覚めかけた瞬間にまた意識を奪うというのを繰り返しただけだ」
えぇぇぇ。や、やべえよ……。さらっととんでもないこと言っている。無自覚な凶悪犯が一番質が悪いよ……。というか野宿中、朝起きると場所が変わっているような気がしていたのは気のせいじゃなかったのね。てっきり寝相がとんでもないことになっているのかと思ってたわ~……って、そんなことよりもっ!
「と、ということは、私が起きられないような状態にしてあんなことやこんなことを……」
「さっきから何を言っているんだ?」
「分かれよ!!」
あっ、やば。口にしちゃった!
別に決してされたいという訳じゃないけど、そういうことが起こり得るってことをちゃんと理解してほしいだけなんだ!
正直、忍さんのことだから、仮に私の全裸を見たとしても眉一つ動かさなさそう。なんなら冷ややかな視線を送られるかも……
いやいや、待てよ。なんで私がそれで冷ややかな視線を送られるの? 私がまだ子どもだから? いや、まだ子どもと言っても背は決して低くはないはず。となると、やはりあれか。私のブツが控え目だからか!? でもこれは私のお淑やかな性格が表されたようなもの。そもそも胸なんてでかけりゃ良いってもんじゃないよね。まぁその内、はち切れるくらいになるかもしれないけど。
もし私の乳がお淑やかなせいで、忍さんが私を女として見ないのだとしたら? そうなると、乳のせいで私は虐待の疑惑すらあるキツイ稽古をさせられているんじゃ……
マキは暫くの間、考え込んでいた。
「ずっとブツブツ言っているが、そろそろ良いか?」
「へっ!? あぁ、ごめんなさい。自分の世界に入ってました」
「で、もう良いのか?」
「あっ、え? あ、はい」
「では、早速始めるぞ」
はじめる? 何を!?
「なんだ? 聞いていなかったのか?」
「ご、ごめんなさい!」
「さっきも言ったが、キセンまではまだ距離がある」
「はい。それは分かってます!」
「だが、なるべく早く到着しておきたい」
「それも分かってます!」
「だから一日で向かう。準備は良いな」
「え!? 一日で向かえる方法があるんですか! 一体どうやって……」
ん? 準備とは?
「いくぞ」
「え? 何を…………まさかっ!?」
一瞬にして不安が頭をよぎったマキの予想通り、彼女の意識は奪われていった。
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