第36話 団子屋にて
だんごっ、だんごっ、だんごぉ~!!
マキはご機嫌な様子で駆け足で歩く。赤髪の忍はその後ろを淡々と付いていく。
少し進むと街道にポツンと家屋が見えた。
「忍さん! あれがきっと団子屋です! のぼりが立ってます!」
「そうか……、ん?」
赤髪の忍が唐突に足を止めた。
「だんごっ、だんごっ、ん? 忍さん、どうかしましたか?」
赤髪の忍が立ち止まったことに気付いたマキも振り返る。
「どうかしましたか?」
「俺はいらない」
「えぇ? 急にどうしたんですか!」
「金はやるから一人で食ってこい」
「えっ。まあ、はい」
やや不審に思いながらも赤髪の忍からお金を受け取ったマキは団子屋に一人で向かった。
本当にどうしたんだろう? 実は団子嫌いだったとか? にしても急よね。まぁいっか!
団子屋の入口には腰掛け椅子、中には四人掛けの机がいくつかあり、独りで黙々と食している人もいれば三人ほどで談笑しながら団子を楽しんでいる者もいた。
良い雰囲気だなぁ。もう。忍さんも来れば良かったのになぁ。
「すみませ~ん! 三色団子を五つください!」
「あいよ~」
店主の姿が見えないためとりあえずマキが声を張って注文すると、すぐに店奥から年老い女性の朗らかな返事が聞こえ、それからほどなくして注文した団子が運ばれてきた。
「はいお待ちねぇ~」
「ありがとうございます~、わ~綺麗な色! 美味しそう!」
「ありがとねぇ~。美味しいよぉ~」
笑顔の素敵なおばあちゃんだなぁ。このおばあちゃんが持ってきたっていうだけでもう美味しいと思える!
マキは笑顔で団子を口に運ぶ。
「美味しぃ~! あま~い!」
幸せだな~。特に人のお金だと何食べても美味しいなぁ~! 何よりいっぱい食べられるしね!
軽々と一本食べ終えたマキがお茶をすすっている間に、マキの後に入ってきた三人組にも団子が運ばれていた。
「あっ、痛ってえぇぇぇ!」
「ん?」
マキが団子を頬張ったまま声がした方に目をやると、その三人組の一人が団子を手に持ち立ち上がっていた。
「おい婆さん! 串が口の中に刺さって血ぃ出たぞ! どうしてくれるんだ!」
うっわ。これはタチの悪い言いがかりだ。どうせ串でシーシーしてて刺さったとかでしょ。
でもこのままではまずい。と、止めなきゃおばあさんが! でも怖いなぁ……
三人組は店主の老人に詰め寄っていく。
「ちょっとあれ、止めた方が良くね……?」
「お前行ってこいよ!」
「嫌だよ」
さっきまで談笑していた客達がヒソヒソと言っている間に店主の目の前まで三人組が近付く。
「オイオイ、婆さんどうするよ? これじゃあお代はもらえねえよなあ!?」
三人組はヘラヘラ笑い合っている。
忍さん、助けに来てくれないかな…………違う、ダメだ! 忍さんを呼びに行っている時間はない。それにここにいるのは私なんだから私が何とかしないと! 山賊の一人だって倒せたんだ! こ、こんな奴ら、わ、わたしが――
バンッッッ!!
机を強く叩く音が場を一瞬にして凍り付かせる。
叩いた衝撃で机の上にあった皿は少し跳ね上がり反動で小刻みに音を鳴らした。
「ごちゃごちゃ、うっせえなぁ! せっかくの団子がマズくなんだろうがあ!」
声を荒げて立ち上がったのは黙々と団子を食していた男だった。かきあげられた茶髪と長身が威圧感を醸し出している。
その男の姿を見てマキは気付いた。
あっ! あの人見覚えがある!
確か一回町ですれ違った時にギロッと私を見ていった、やつれている風の人だ! 背が高かったし間違いない!
「んだテメエ! 急に……っ、でけえなお前」
「何お前ビビってんだよ。こっちは三人いるんだぞ」
「お、おう。そうだよな……」
威勢良く振り返って叫んだ男だったが立ち上がった男の威圧に委縮している。残る二人は委縮した男を焚き付けるだけで、自分達で何か言おうとする様子はない。
「て、テメエさっき何て言いやがったよ! も、もう一回言って見やがれぇ!」
「あぁ!? 団子食ったぐらいでケガすんのはお前がザコだからだろうが。団子も碌に食えねえザコはとっとと失せろっつったんだよ!」
三人組は一瞬にして血相を変えた。
「んだとコラァァァア!! お前ちょっと表出ろやぁ!!」
三人組は店の外へ出ていく。長身の男もそれに続いた。男が店を出る前、マキは男が横目で彼女に視線を向けたように感じた。
え!? 今あの人またこっち見なかった!? 前もそうだったけど何!? 私に見惚れたとかなら分からなくもないけど、明らかにそういう目じゃないし。何かこわっ。
でもまぁ、ふぅ~。一時はどうなることかと思ったぁー…………じゃない! これはこれでやばくない!?
マキは一人であわあわとしだす。
「いやぁ~、一時はどうなることかと思ったよな~!」
ヒソヒソ言い合っていた客達はほっと息をついている。店主の老人は終始無言で笑顔のままだった。
「あのチンピラ達も運が良かったよな」
「あのでっかい男も凄そうだけど、まだマシだよな、きっと!」
「え?」
マキは客の発言に敏感に反応する。
「あ、あの、いきなりすみません。今言っていた運が良かったというのはどういう意味ですか?」
発言の意図が読めずマキは恐る恐る聞いてみた。
「ん? どうしたお嬢ちゃん。そんなビクビクして? あ、お嬢ちゃんはここ初めてか! なら知らなくて仕方ない。ここはね、団子は絶品なんだけど店主の婆さ――
「婆じゃと?」
店の中の空気がまた凍り付いた。
店主の老人が目を細く開け、客を睨みつける。
「おっ、ばっ……お、おねえさまが……」
店主の老人はニッコリと笑顔を取り戻した。客の男は顔を引きずり冷や汗を垂らす。
「えっ、何ですか? このおばあ――
「婆?」
「ひぃっ!?」
えぇ!? こわっ。しまった。流れでつい言ってしまった。あんな可愛らしい笑顔だったおばあさんから刺さるような視線が飛んでくるなんて。冷や汗が止まらない……
「お、おっ、おばさま!!」
「よろしい」
「ほっ……」
「ギリギリじゃがな」
「ひぃぃ!?」
収まりかけていたマキの冷や汗が勢い良く流れ出る。
「ま、まあ……、とりあえず、続けるね……」
未だ顔を引きつったままの客がマキの問いに対して続ける。
「この人は店内で舐めた態度を取った奴や食い逃げを謀るような奴をボッコボコにして、顔面を血と青あざと血の気が引いた白い顔に染め上げることで有名な、通称『三色ばばあ』だ……うわぁぁぁ!?」
言い終わりと同時に串が数本、客の顔の頬をかすめるようにして壁に突き刺さった。驚きのあまり、その客は泡を吹いて気絶した。
一緒にいた客達も顔面蒼白となる。
「あれまぁ、気ぃ失うほど団子が美味かったんかね~」
店主の老人はニコニコしながら串を数本持ったままだ。
こ、こわぁぁぁ、このおばあさん! 『三色ばばあ』とか怖すぎるでしょ! 化け物じゃん! ……って、あれ? そんなおばあさんがなんでさっきは手を出さなかったんだ!?
「あ、あの素敵なおばさま!」
「なにかね?」
串を握りしめたまま、店主の老人は笑顔で応える。
「ひぃ!? いやっ、その、なんでさっきのチンピラさん達をとっちめなかったのかな~なんて、あははー」
「それはじゃな……」
店主の老人の表情が真顔に戻る。
「あのバカ共に声をかけた大男を危険じゃと判断したからのぅ」
「なっ!?」
狂気の三色ばばあが警戒するなんて、あのやつれ風の人は一体何者っ!?
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