第35話 好意?

 マキと赤髪の忍はアヤメ達を助けた後、ミズキに依頼完了の報告を済ませるとすぐ場を後にした。


「本当に、本当に、目覚めるまで待たなくて良かったんですかぁ?」

「ああ」


 マキの心配を他所に赤髪の忍は無機質な返答をする。


「でもやっぱり変じゃないですか?」

「何がだ」

「うーん、なんというか、忍さんらしくないというか……」

「意味が分からない」

「アヤメさん達を守りはしましたけど、アヤメさんが起きるまでは安心出来なくないですか? 残党だっているかもしれないじゃないですか! 私実際、一人遭遇しましたし。まぁ偶然倒しちゃいましたけど」

「あぁ知っている」

「えぇ!? 見ていたんですか!? てかどうやって!? その時はアヤメさんとバチバチにやりあってたじゃないですか!」

「気配は感じていた。特に気にはしていなかったが」


 えぇ……。それはそれで結構ひどくない!? まぁまぁ危なかったよ私。正直実力で倒したとか言いきれないんですよ? ちょっとは心配してー。


 マキはじとっと赤髪の忍を見たが彼はそれを無視して話を続ける。


「念のため、あの場所はに見張らせている」

「なんて??」


 マキは首を傾げた。


「分身体を作成する魔法を使った」

「はへ??」


 一向に話が理解できないマキは首を傾げ口も開けた。


「要するに、俺を模した動く人形を作ったということだ」

「そ、そんなことが出来るんですかぁ!?」


 続いてマキは驚きで目を大きく開く。


「だからその魔法を使ったと言っているだろう」

「だって、びっくりしたんだからしょうがないじゃないですか! さも当たり前のように言われても私にとっては全部未知なんですー! もうちょっと私の気持ちに配慮してくださいよ!」

「分身体が不自然に消えたら急行するつもりだが、今のところ正常に活動しているようだ」

「いや……、当たり前のように無視しないでくださいよ。まぁ、もう今更なんでいいですけど。はぁ~。ちなみに分身体とやらの実力はどんなものなんです? さすがに忍さんのそのままってことはないですよね? それじゃあさすがに出来すぎだろうし」

「与える魔力量にも依るが、まあ良くて五割程度だろう。見張りをするだけなら別段支障はない」

「忍さんの半分もあればその辺の山賊程度じゃまともに相手になりませんね」

「ただし分身体は魔力を閉じ込めた風船のようなものだ。外傷を与えられれば簡単に消えてしまうため油断は出来ない」

「いや、そこまで気にしてるならアヤメさんが起きるまで居れば良かったんじゃ……」


 聞こえないようにボソッとマキは呟いた。その時、彼女はハッとした。


「アヤメさんのこと、本当に好きなんじゃないの……?」

「何を言っているんだ?」


 あ、やば。口に出てた。


 独り言を聞かれて焦ったマキだったが、急に何か思い出したようにニヤニヤし出す。


「いやぁ~、忍さぁ~ん」

「なんだ?」

「忍さんはやっぱりアヤメさんのこと好きなんじゃないんですかぁ~?」


 赤髪の忍は醒めた目でマキを見る。


「……だ、だってさっきミズキさんから依頼料のこと聞かれた時にいらないって言ってたじゃないですか! あれはもう、そういうことでしょ!?」

「依頼料を取らないのは、そもそも依頼を受けた理由が俺の過去の過ちに対する清算だからだ。俺が剣を教えなければああはならなかっただろうからな。その埋め合わせをしただけだ」

「それって助ける前にも言ってましたけど、アヤメさんはそんな風には思ってないと思いますよ?」

「なぜそう言える?」

「うーん……、強いて言えば女の勘ってやつですかね!」

「当てにならないな」


 おい! 信用ゼロだな!


「まあ、もしマキの言っていることが万に一にでも当たっていたすれば、これ以上の埋め合わせの必要がなくなるから楽ではあるな」

「余計な一言は無視するとして、忍さんってそーゆーとこ地味に律儀ですよね。でも私が言っておいてあれですけど、それだとただ依頼料取り損ねたことにはなりますね」

「そうだな。だがまぁ、あの女から不幸の種を取り除けたとするなら、それが依頼料代わりでも悪くはないかもな」


 赤髪の忍は表情を変えず、ただ遠目に空を見た。


 それって……、本気で忍さんはアヤメさんのこと好きなんじゃないの!?


 マキは女の勘を働かせ、またニヤニヤする。


「だが、しまったな。依頼料代わりにマキを押し付けておけば良かった」

「いきなり何をぉ!?」

「俺から剣を教わるよりあの女から教わりたいんじゃないか?」

「それは確かに否定しきれませんけど、アヤメさんからじゃ魔法は学べないじゃないですか! 分身体の魔法とか聞いちゃった以上、教えてもらうまでは引けませんよ!」

「……」


 赤髪の忍は何も反応をしなかったが、マキにはわずかに反応があったように見えた。


「……今ちょっと嫌がりませんでした? ま、まぁそんなことはとりあえず置いといて、忍さんから見てアヤメさんの実力はどうでした?」

「おそらくだが、最後まであの女の全力は引き出せなかったな」

「えぇ!?」


 マキは唖然とした。


「えっ……。でも忍さんの方が途中までは明らかに押してませんでした!? なのにアヤメさんは本気じゃなかったんですか?」

「人を斬る気がない以上は本気にはならないだろうな。俺の剣を叩き飛ばした時は明らかにそれまでの動きとは違ったが、あれが本気だったのならば飛ばした瞬間に間髪入れず一太刀は入れられていたはずだ。その程度の余裕は十分あったように見えた。仮にそうされていたら避けきれなかった」

「……そんなに強かったんですね」

「本気自体は本人にも分かっていないと思われる。全く底が知れない。普段の状態なら大したことはないだろうが、本気で戦われたら剣だけで相手をしても勝機はほとんどないな」


 マキはアヤメの実力に少し引いた。


「世界は広いんですね……」

「マキが知っている世界が狭すぎるだけだ」

「へい……」


 相変わらず忍さんは容赦ない。



――しばらく歩き続けてからマキは次の目的地を確認した。


「今これはどこに向かっているんですか?」

「とりあえず別の町を目指している」

「忍さんは普段から同じ場所にあまり留まらないんです?」

「長期間いることはあまりないが、普段は短期でここまで移動したりはしない。留まらない理由はせいぜい、今はマキを歩かせるためだな」

「なぜわざわざ歩かせるんですか!?」


 赤髪の忍は何も答えない。


 え、真面目に意味が分からない! 単なる嫌がらせ??


 マキは頬を膨らませた。


「むぅー」


――ぐぅ~


 マキの不満は空腹にかき消された。


「忍さん、私お腹が空きました……」

「この先にどうやら団子屋があるようだ」

「だ、団子!? 寄りましょう! ぜひ!」

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