第28話 もちろん
「えっ!? 今アヤメさんって言いました?」
「はい、アヤメちゃんですっ! アヤメちゃんを助けてほしいんですっ!」
驚きの名前にマキは頭の整理が追い付かない。
アヤメさんを救う!? あんな強い人を? 変な人に絡まれたってどうとでも出来そうなのに。何が起きているの!?
「く、詳しく教えてくれませんか?」
「はい。アヤメちゃんは今、山賊の隠れ家にいるんですっ」
「ん? それはつまり山賊に捕まっているってことですか!?」
「いいえ。そうじゃないんですっ……」
え!? 捕まっている訳じゃない!?
話を聞いて余計にマキは状況が呑み込めなくなった。
どういうこと!? アヤメさんは山賊と一緒なのに捕まってはいない? それだと山賊の一員みたいじゃないか。
「アヤメちゃんは山賊の言いなりになっているんです……」
「えっ!?」
ミズキの話を聞き、赤髪の忍も僅かに目を見開く。
「アヤメちゃんはどうやら山賊達に弱みを握られていたみたいで、ちょっと前から山賊の警護みたいなことをしていたんです」
「そ、そんな……」
「それ自体は前から知っていたんですけどっ……」
ミズキは眉間に皺を寄せる。
「何日か前の夜、私が寝ぼけて外を出ていたら偶然、林の中を歩いていくアヤメちゃんを見かけたんですっ」
いや、寝ぼけて外歩くって……
「見間違いかもと思って次の日の夜にもう一回、記憶を頼りに林に行ったらアヤメちゃんを見つけて後をつけたんですっ!」
……やっぱりこの人やばくね?
「そしたら林の中に不自然な住処があって、そこからぞろぞろと男達が出てきたんですっ。すぐに山賊だと分かったんですけど、怖くて何も出来なくて……。そのあとアヤメちゃんだけが住処の外で周囲の警戒をしていたので、門番みたいなことをしているんだなと思いましたっ」
「見かけた後、ミズキさんはどうしたんですか?」
「見つからないように離れて観察していたはずなんですが、気付いたら朝になってしまっていて……」
「あぁー……」
マキは苦笑いする。
「あっ、でもでもっ! その時はもうアヤメちゃんはいなくなってて、私もとりあえず家に戻りました! で、その日は道場開く日だったので行ったらアヤメちゃん普通にいたんですよっ!」
それもそうか。私達も昨日アヤメさんに会っているんだからずっと山賊といるわけではない。夜だけ警護しているってこと? なんで? さっぱり分からない。忍さんならどう考えるんだろう?
「おそらく山賊はあの女を都合良く利用しつつ同時に反抗されないか相当警戒しているのだろう。近頃山賊同士の抗争が各地で勃発している。常に利用するのは気が引けるが夜襲への警護ぐらいには使いたいというところだろう」
マキは赤髪の忍がいきなり話したことに驚き振り向いた。
え!? 忍さん、私の心読んでる!? さっきまでだんまりだったのに急に話しだしたよ?
「何だ?」
「いえ何も……」
怖い怖い。やはり忍さんは侮れない……
マキからポタっと汗の雫が流れた。
「道場が終わった後、私はアヤメちゃんに聞いたんですよっ! そしたらアヤメちゃん、自分で解決するから気にしないでって。だから私黙っていたんですっ。けど……」
「けど?」
「昨日、道場で騒動あったじゃないですかっ。騒動が落ち着いてちょっと経った後、アヤメちゃんに近付いていった男がいて、何か話して去っていったっぽいんですっ。そしたらアヤメちゃんがしばらく道場は休むって」
「その男って……」
「山賊の使いっ走りだろうな。大方、人質を取ってでも利用しなければならない状況が生じたのだろう」
「昨日道場休んだ子が一人いたんですけど、どうやらその子が連れ去られたらしくて……」
「そんな……」
「警志隊に相談しようと思ったんですけど、アヤメちゃんが絶対にダメだって」
「なんでダメだなんて?」
「ごめんなさい。そこまでは聞いていなくてっ……」
「山賊が絡んでいるのだとすると町の警志隊ではそもそも動かない可能性が高い。仮に動いたとしても下手に話が大きくなって山賊達に気付かれたら人質の命がないだろうからな」
「警志隊の奴らって本当に役に立たないな」
「どうやら警志隊の精鋭部隊が秘密裏に制圧しているという話もある。その山賊達は大きな抗争に発展することなったか制圧し回る警志隊の動きを掴んだのか。どちらにせよ、奴らもよほど切羽詰まっているんだろう」
警志隊。アイツら何のために存在しているんだ。
多分だけど警志隊は動かない。奴らは弱者を救おうなんて思わない。地位を悪用して好き勝手するだけなんだから。
「アヤメちゃんの弱みというのが私達だったんだって気付きましたっ……。私達を守るためにあの子は心を鬼にして山賊に協力をしているんだって……」
ミズキは涙を滲ませる。
「アヤメちゃんを助けたい。でも私にはとてもそんな力はないし頼れる人もいない。どうすることもできずにいたらマキさん達が見えたんですっ。昨日道場の前にいた人だってすぐ気付きましたっ。悪い人には見えなかったので事情を話せばもしかしたら協力してもらえるかもって」
ミズキさんもかなり追い込まれているんだ。この気持ちには答えないといけないと思う。それに、これは私にとって初めての正式な依頼だ。
マキは赤髪の忍に耳打ちする。
「忍さん。この依頼を受けましょう」
赤髪の忍はミズキの方に顔を向けた。
「女を助けるという依頼を受けることは可能だ。ただし一つ確認しておくことがある」
「な、なんでしょうっ?」
「場合によっては今後その女が道場を続けられなくなる可能性がある。それでも良いか?」
「良いですっ! アヤメちゃんが解放されればなんでもいいです! 他の子達だって絶対そう思いますっ!」
ミズキは笑顔で即答した。
「そうか。ではマキ」
「はい?」
「初めての依頼にしては少々厄介な内容だ。それでもいいな?」
「もちろんです!」
マキも気合いを入れるように即答した。
「あっ、ありがとうございますっ」
ミズキはやや声を詰まらせながら言う。
「私も微力ながら戦いますっ!」
三人揃えばなんとやらと言うしきちんと作戦を考えなければ! まぁほとんど忍さんの力が頼りだけどね。
「そうですね! では力を合わせて一緒に頑張り――
「お前は来るな」
赤髪の忍が冷ややかな目でミズキに言い放った。
「えっ? そ、それはどういう……」
ミズキは当然のように聞き返す。
「そのままの意味だ」
一切表情を変えることなく突き放すように赤髪の忍は返答する。それにはマキも納得出来なかった。
「ちょっと待ってくださいよ! なんでミズキさんは行っちゃダメなんですか! 一番アヤメさんを助けたいと思っているのに!」
「これは遊びでも稽古でもない。気持ちがあれば何とかなるというものではない」
「それは、そうですけど……」
残念だけど確かに忍さんの言葉は正論そのものだ。ミズキさんには酷だけどこればかりは仕方がないか。
「これ以上、足手まといが増えては困る」
そうだね、足手まといが増え……って、オイ! ちょっと待て!! 当然のように私も足手まといかい! ……でも、うん。確かに足手まといだな、私。
ミズキは顔をしかめ、マキは虚ろな目になった。
「……わ、分かりましたっ。アヤメちゃんを助けるため、お二人にお任せしますっ。どうか、どうかアヤメちゃんを、お願いしますっ!」
「必ず助けます!」
マキ達はミズキからおおよその場所を聞き、救出に向けて動き出した。
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