第27話 まさかの依頼
突然声をかけられたマキは動揺を隠せずにいた。
や、やばい。いきなりすぎるって! 心の準備出来てないって! 落ち着け私! ま、まずは冷静に名前を!
「あ、あの、どっ、どちら様でしゅか……」
死んだ。
マキは顔を真っ赤に染め、黒目を目の奥に追いやった。マキに話しかけた女性はその様子を目の当たりにして真っ青な顔になる。
「えっ!? あっあのっ! だっ、大丈夫ですかっ!? 私が悪いですよねっ!? きっと私が何かしちゃいましたよねっ!? なんか、ごめんなさいぃ!」
女性はあたふたしながらマキの顔色を窺う。
もうやめて……。大げさに心配しないでください。周りの視線が痛いです。意図していないのだろうけど、これ以上精神攻撃しないでください……
マキは放心状態のまま虚ろな目で赤髪の忍を見る。
あ、忍さん。私のこと毛ほども気にしていなかった。あれ? なんか不思議と落ち着いたぞ! そもそもよく見ると、恥ずかしくなるほど大して人いないし、注目されていないじゃん! 何を私は恥ずかしがってたんだ!
忍さんに鼻で笑われてたら危なかった。もう立ち直れなかったかもしれない。もしかしたら本心ではバカにしているかもしれないけど、表情に出ていなければ言っていないのと同じだ。とくかくありがとう忍さん!
女性は未だに取り乱したままで、震える唇に手を当て助けを求めるように周りをキョロキョロしている。
「ど、どうしよう……。ご、ごめんなさいっ! 私ったら何てことを……」
「いや、あの。落ち着いてください! 私は大丈夫ですから! 大丈夫になりましたから!」
マキは女性の両肩をがっしりと掴み、女性を落ち着かせた。
「あ、そうでしたかぁ~。良かったっ! ご迷惑おかけして本当にすみませんでしたっ!」
「あ、いえ、私の方こそご心配をおかけしてすみませんでした。改めて、貴方のお名前を聞いても良いですか?」
「あっ! すみません申し遅れました! 私はミズキと言いますっ」
「ミズキさんですね。私はマキです!」
二人はようやく冷静に会話することができた。
「ところでミズキさんはどうして私達に声をかけられたんですか?」
「うーん、なんかあなたがすごく困っているように見えたのでっ!」
「えっ?」
「えっ!?」
二人の疑問が共鳴した。ミズキはマキの反応が思いがけなかったようで再びあたふたし始める。
「えっ!? だって……、なんか助けを求めているように見えたのでつい。ち、違いましたかっ!? すみませんっ!」
ミズキの言葉を聞き、ようやくマキはピンときた。
そういえば私、助け求めてたわ! いきなり話しかけられたことに動揺してそれどころじゃなかったから、完全に記憶から飛んでいた!
ところで、ミズキさんは初めましてのはずだけど何となく見覚えがあるような……? 何だろう。年は私より上だと思う。そそっかしい性格で、どこかで会っていたら印象には残りそうなんだけど。
何となく親近感が湧く。髪はちょっとボサボサで顔がちょっと芋っぽい感じだからか? って失礼な!
マキは頭を整理させるために一度咳払いをした。
「いえ。ミズキさんの言う通り、お恥ずかしながら助けを求めていました。ありがとうございます!」
「いえいえ~! お役に立てたなら何よりですっ! なら私はこの辺で…………って、違った!!」
「ひっ!?」
突然声を大きくしたミズキにマキはビクついた。
「あっごめんなさい、いきなり大きい声出しちゃって! 実は私もマキさんに話があったんでしたっ!」
「え? な、何ですか?」
「相談したいことがありまして」
ミズキの表情が一気に引き締まる。真剣な眼差しに驚きつつマキも気を引き締める。
「それは、どんなことでしょうか?」
ミズキは覚悟を決めるようにグッと力強く瞬きをした。
「助けてほしい人がいるんです!」
いきなりの話にマキは少し呆気にとられたがすぐに聞き返す。
「ま、待ってください。急な話で呑み込めなくて。一体どういうことですか? というか、なぜ私に? もしかして、私のこと知っていたんですか?」
マキは疑問が尽きず一気に畳みかける。
確かに私は困っている人を探してはいた。だけど実際は私の方が困ってたぐらいで、てっきりミズキさんはおかしな様子の私を見かねて声をかけてくれたのだと思っていた。でも今の話だと最初から私に話しかけようとしていたようだ。どういうこと?
「うーんと。えっと。まずマキさんにお尋ねしたいんですけど、後ろの方は用心棒の方か何かですかっ?」
「え?」
マキは素早く後ろを振り向いた。
あっ、びっくりした! なんだ。ただの忍さんじゃん!! 知らないうちに誰かが忍び寄っているのかと思ったけど、最初からいた忍だったわ。
いやぁびっくりした。見えざる者でもいるのかと焦った~……って、あれ? そういえばさっきまで忍さんがいることをまるで忘れていたような? なんか変じゃない?
マキは顎に手を当てて赤髪の忍を凝視する。
ん? そういえば忍さんは影を薄くする魔法を使うとか言っていたな。とはいえ存在を忘れるほど薄くなるのか? でもさっきまでは明らかに存在を忘れていた。動揺していたから忘れてたなんてさすがにおかしくない? ……まさか、ミズキさんが話しかけてきた辺りからその魔法を強めていたんじゃ?
マキは凝視の状態から少し目をひそめて赤髪の忍を見るが、彼はその視線に一切反応しない。
あれ? でもそうするとミズキさんは何で忍さんに気付けたんだ? 存在感がほぼないだけで見えてはいるってこと? それとも私にだけ幻惑魔法的にかけていたとか? でもさすがにそんなことする意味ないよな。やっぱり見えてはいたんだな。
マキは疑問を自己解決した。
ミズキさんは忍さんのことを用心棒だと思っているらしい。どう答える? 「忍です」って言うのはやめといた方が良いよね? 用心棒っていうのもあながち間違いでもないし。
「ま、まぁそんな感じですかね」
マキは一応、赤髪の忍の反応を横目で確認したが何の反応も返されなかった。
「良かったぁ~。やっぱり用心棒だったんですねっ! 確認して良かったですっ!」
「ん? どういう意味ですか?」
「えっ? だって用心棒を雇うなんて高貴な人しか無理じゃないですかっ! でもマキさんは格好だけで全然そんな人に見えないから、もしかしたら違うのかなって!」
え。何この人今さらっと自然な感じでエグめの悪口ぶっこんできたよ!? ものすっごい笑顔で。ミズキさんって天然のヤバい人なんじゃ……
「そ、そんなことないと思いますけどぉ~……」
マキは笑顔を引きつらせながらやんわりと否定する。
「えっ?」
ミズキは純粋そうな黒目を大きくする。
うん、諦めよう。心が持たない!
「そ、そんなことは置いといて、ミズキさんは私達のことを知っていて話しかけてきたってことですよね? どこかで会いましたっけ?」
「あ、はいっ! 私は隣町で護身剣術を習っているんですけど」
「あ! それって、もしかして昨日の!?」
「そうですそうですっ! 昨日マキさん達は道場の近くにいらっしゃいましたよねっ!? 服だけ高貴な感じの人とその人の用心棒っぽい人の組み合わせが印象に残っててビビッときましたっ!」
ミズキは屈託のない笑顔で話す。そんな彼女を見てマキは少し眉をひそめてピクピクさせる。
「ぜひとも用心棒さんのお力をお借りしたくて……」
「そ、それで助けてほしいというのは?」
「はい。護身剣術道場の先生でもあるアヤメちゃんです。どうかお願いしますっ! 助けてくださいっ!」
えぇっ!? あ、アヤメさん!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます