第25話 夜襲?
「宿はどこにしますか?」
「泊まれればどこでもいい」
「私はボロボロのベッタベタなので、お風呂がちゃんとある所を希望します……」
「分かった」
町に着いたマキ達は、赤髪の忍の先導で町の中でも有数の大きな宿屋に入った。
「こんな高そうな所でいいんですか?」
「心配ない。金は明日からマキに稼いでもらう」
「え? 私が!? こんな所泊まれるようなお金を稼げる気がしないんですが……」
「だろうな」
おい! あんたが稼いでもらうって言ったんじゃん!
マキは心の中でツッコミを入れる。
「こんな良い宿だとお風呂も良さそうですね!」
「今日は俺も外に出るつもりはない。好きに入ってこい」
「はいっ!」
マキはウキウキしながら大浴場に向かった。
ふぅ~~。落ち着く~。癒される~!
ぶたれて疲れた体に沁みる~。痛くて沁みているだけかもしれないけど……。あらまぁ、これはまた鮮やかなほど青々しい傷だらけだ。まぁきっとすぐ治ると思うし、いっか。
いやぁ~お風呂は偉大だわぁ! 髪も体も綺麗になるし、毎日入りたい。忍さんのお財布事情は不明だけど、これに関しては甘えても良いよね?
マキは時間をかけてゆっくりと入浴し、タオルを頭に当てながら赤髪の忍のいる部屋に戻った。
「お風呂入ってきました~!」
「そうか」
「さっぱりして気持ち良かったです!」
「そうか」
「……自分から石鹸の良い匂いがするんですよー」
「そうか」
…………。
興味なさすぎませんかねぇ!? 一応女の子のお風呂上がりですよ!? そりゃ、鼻の下をのばして見られたら嫌だけど、全く興味ないのは辛いですよー? とりあえず一回ぐらいこっち見てー。
……というか、冷静に考えたら忍さんと同じ部屋で過ごすって初めてじゃない!? 野宿でなら一緒にはいたけど、忍さんは木にもたれているだけで寝てるかどうかも分からなかったし、そもそも結構離れていたし。
でも今の状況、布団は横並びになってるし、野宿の時と感覚が全然違う。大の大人と同じ部屋なんて。……まずい、なんか緊張してきちゃった!
マキの頬が少し赤くなった。
赤髪の忍は刀の手入れをしていた手を止め、マキの方を向く。
「どうした? 顔が赤いぞ。湯に浸かりすぎたか?」
「へっ!? あっ、いや、何でもないです!」
「そうか」
赤髪の忍はすぐに刀の手入れに戻る。
聞いておきながら全く興味ないのね……
頬と対照的にマキの心だけが冷ややかになった。
二人は特に会話することもなく過ごし、マキは徐々に眠気を感じ出す。
ヤバい、眠くなってきた! 眠いけどまだ微妙に緊張もしてる。でもやっぱ眠い!
「私はもう寝ますね」
「そうか」
「……」
「……」
「……あの」
「なんだ?」
「無防備だからって、手を出したりとかしないでくださいね? な~んて」
マキは掛け布団を鼻の上まで被せた状態で、反応を試すように言った。
「なんでそんなことをしなければならないんだ?」
凍りつくような鋭い一言が、掛け布団をすり抜けてマキの心に突き刺さる。
こんなこと言わなきゃ良かった……
マキは枕を濡らしながら目を閉じた。
――うっ、うううぅ、ハッ! あれ!? 目が覚めちゃった! なんで!? 途中で目が覚めるなんてこと滅多にないのに……。寝る直前に心に傷を負って安眠できなかった?
唐突に目が覚めたことに少し動揺したマキだったがすぐに思考を切り替える。
目がパッチリしちゃっている。こんなんじゃすぐには寝られそうにない……って、あれ? そういえば忍さんは?
マキは恐る恐る横の布団に目を向けるも赤髪の忍の姿はなかった。
もしかしてまた外に出てる? あっ!
部屋中を見渡したマキは、入り口の扉にもたれて座っている赤髪の忍を見つけた。
状態が野宿と一緒じゃん! まぁ予想通りではあったけど。本当に寝てるよね? ……へへっ。
赤髪の忍は刀をすぐ傍に置いて頭を下げているため顔は見えないが、マキは寝ていると確信しニヤリとした。
そういえば忍さんの寝顔ってどんなだろう? いっつも私より後に寝て、私より先に起きてるから一回も見たことない。お母さんか! 意外と子どものような寝顔だったりして?? よだれとか垂らしちゃったりとか!? あぁー、気になってきた! 確認しなきゃ寝られないわ! 覗き込むぐらい良いよね!? 部屋に筆が備え付けてあったし、ちょっとぐらいイタズラしちゃおっかな~!
あの無感情の忍さんの顔が硬直する所を見てみたい。ん? それだと常に表情ないから何も変わってない? いやいや、そんなこと一々気にしなーい!
寝起きでおかしなテンションになったマキはニヤニヤしながら赤髪の忍にそっと近づく。
さてさてどれどれ、忍さんはどんな顔して寝ってるっかなぁ~?
そっと赤髪の忍の正面に立ち、顔を覗き込もうとマキは屈んだ。その瞬間――
暗がりの中、いつの間にかギラリとした輝きがマキの喉元に据えられていた。
「ひゃぁっ!?」
「マキか。どうした、敵襲か?」
赤髪の忍は目の前にいるのがマキだと気付くとすぐにマキの首元から刀を引いた。
「あっ、ああっ……」
マキは口をあんぐりとさせ天井を向いた。
「おいどうした?」
口から何かが抜け出たように、マキは背中から力なく倒れた。口から吹いた泡が床を濡らした。
――……ハッ!?
日光が顔に差した瞬間、マキは急き立てられるように飛び起きた。
ん!? 何にびっくりしたんだ私は? 怖い夢でも見たのか? 一回起きて何かをしたような記憶はあるけど、何をしたのか思い出せない。
布団から出ていた気もするけど、ちゃんと布団の中にいた。なんだろう? あっ、忍さんは?
マキは部屋を見渡すが、赤髪の忍の姿はない。
「目覚めたか」
扉を開け、赤髪の忍が部屋の中に入ってきた。
「あれ? 忍さん外に出ていたんですか? 何かあったんですか?」
「あぁ。少しな」
「ん?」
「マキこそ昨夜は何かあったのか?」
ん? 珍しく忍さんが、少ーしだけ困惑したような表情をしたような?
「昨夜何か衝撃を受けたような気がするんですが、よく覚えていないんです」
「……そうか」
赤髪の忍は歯切れの悪い反応をする。
「忍さん、私が昨夜何してたか分かります?」
「いや、よく分からないがマキは寝相が悪いのか?」
「えっ? うーん、多少は悪いのかなって最近思っています」
「そうか」
「ん??」
マキにはさっぱり意味が分からなかった。
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