第14話 要確認
「ところで忍さんは昨日の夜、何を見に行っていたんですか?」
忍さんは昨夜「外へ出る」としか言わなかった。多分教えてくれないと思うけど一応聞いてみた。
「ここ最近、山賊達の動きが活発との情報を得て偵察していた」
……普通に教えてくれた。この人の思考は読めない。
「山賊なんていつだって暴れまわってるイメージなんですけど、何か問題あります?」
「裏向きの人間の不自然な動きは何か大きな企みが隠れている可能性がある。動向を探るに越したことはない」
「安全のためってことですね!」
「いや。依頼に繋がる可能性があるからだ」
山賊の怪しい動きが依頼に繋がるなんて発想がなかった。忍にとっては依頼があるかどうかが重要で危険かどうかは関係ないんだ。だから忍さんはお父さんの依頼も受けたんだし。ただ――
「そもそも依頼ってどういう風に受けるんですか?」
「町で噂を流す。『頼みにくい依頼でも受ける者がいる』と。後は待っていれば依頼がくる」
「そんなやり方とは!」
忍さんの話では、依頼を受け付ける場所もあらかじめ流しておくらしい。さらに決められた時間にのみ対面で依頼を聞き、それ以外の時間は報酬先払いの匿名依頼のみ受けるそうだ。
まさに風の便りってことだ。でも話を聞くだけだと何とも胡散臭いというか。ほとんどの人は面白がっても真には受けないんじゃないかな? でも、誰にも頼れない状況の人からすると、すがりたくなる気持ちも分からなくはないけど。
「その依頼の受け方だと全然依頼がないこともありそうですけど、そういう時はどうするんです?」
「どうとは? 依頼がなければ何もしないだけだ」
「あっそんな感じなんですね。てっきり忍さんは仕事命みたいな印象だったので」
結構意表を突かれた。忍さんに対する印象が大きく揺らいだというか。
普段の様子が想像出来なすぎて、勝手に仕事だけが全てな人だと思っていた。意外に仕事へのこだわりはないのだろうか? 依頼として受けた以上は完璧にこなすというような使命感があるだけということかな。
「この町はもう離れる」
またしても意表をつかれた!
「早くないですかっ!?」
「怪しい動きが確認出来る以上、拠点は別の町か野宿が望ましい。わざわざ巻き込まれにいくならこの町にいても良いぞ?」
「分かりました。別の町に行きましょう!」
イジワルな言い方だな~と思ったけどそんなことは言えなかった。忍さんの場合そういうつもりではない可能性もあるし。この町そんなに危ないのか?
忍さんの話だとなるべく早く離れた方が良いんだろうけど、その前に果たさなければならない最重要なことが私にはあるのだ!
「忍さん……お腹空いてませんか!?」
そう。私はとてもお腹が空いていた。
思えば爆睡から目覚めてすぐ忍さんを探して歩き回り、心身ともに疲れてて忘れていたけど、まだご飯を食べてなかったのだ! まぁそもそも私お金持ってなかったんだけど。
てっきりまた私が突拍子もないことを言ったからきょとんとなるかと思ったけど、忍さんの表情は特に変わらなかった。
「飯なら町を出てからにするぞ」
「……はい」
えー……ってなったけど、こればっかりは仕方ないか。
私たちはすぐに今の町を出た。
――結局ご飯は、道中で見つけたキノコと、忍さんが魔法で撃ち落とした鳥を鍋にしてくれた。
それはそれは美味しかった。相変わらずの手際の良さで、恐ろしいまでの隙のなさ。
こういう人は料理とかは出来ない~とかの方が人間味があって可愛らしいと思うんだけどなぁ。
パンパンに膨らんだお腹が落ち着いた頃、悪夢の言葉が聞こえた。
「剣の稽古をする」
私の怪訝な表情には一切構うことなく、連れ込まれたら逃げられそうにないような薄暗い茂みに誘導された。
腹をくくるしかないと思った矢先、幸福的……間違えた、衝撃的な事実が判明した!
「あのぅ、肝心の刀が見当たりません。どこかに落としてしまったかもしれないです。ごめんなさい!」
本心から申し訳なく思っている……はずなのだけど同時に少し表情が緩んでしまった。
そう! 決してわざとではない、けど刀がなければ当然稽古は出来ない。つまり稽古はなしになる!
方向の違う感情がぶつかり、定まることなくふわふわしていた私の表情は、忍さんが無言で差し出した見覚えのある
「昨日、男達から襲撃を受けた現場に落ちていたから拾っておいた」
手渡されたのは紛れもなく昨日の朝に忍さんから渡された短刀だった。
「……ありがとうございます」
思った以上に暗い声になってしまった。
「仮に失くしていようと予備はある。心配は無用だ。それに剣がなければ素手で稽古するだけだ」
忍さんの言葉は刀をなくす過ちを犯した私への慰めなのか、稽古の姿勢に対する厳しい言葉なのかは判別出来ない。
変に探ったところでこの人の考えなど読み取れない。忍さんがすぐに魔法を教えてくれないのだって、ちゃんと意味があるはずなんだ。そう思うしかない。
ヨシ!
「まず何をすれば良いですか!?」
「とりあえずかかってこい」
……え? 思わずひっくり返りそうになった。 まさか、忍さん何も考えてなかったりする? そんなわけ、ない……よね?
私がポカーンとしたのを感じ取ったのか忍さんが口を開いた。
「直感的な危機察知能力を鍛える」
忍さんは近くの木の細枝を折って手に持つ。
「マキは俺に斬りかかりつつ、枝で叩かれないように回避しろ」
刀初心者なんだけどその辺理解されてますかね?
そこそこ無理難題を突きつけられているとは思うけど緊張感はあまりない。なぜなら忍さんが手にしている枝はとても細く、振っただけでも折れそうに見えるから。
「その枝なら叩かれても大丈夫そうです、ねっ!!」
私は勢いよく忍さんに向け走り出す!
「折れない程度に強度は増してある」
え? なんて?
確認しようにも止まれずに忍さんの正面まで来ていた私は、とりあえず思いっきり刀を横に振った。振ると同時に何気なく瞬きをした直後、私の脳天に衝撃が走った。
ぃぃ痛ったぁっっっ!!!
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