第12話 消えた!?
えっ!? 消えた!?
今さっき口に入れたはずの牛肉が行方不明になった!
どこいった!? 私お肉噛んだ? そもそも口に入れてなかったとか!?
頭が混乱している。口の中からは消えたけど、舌が濃厚なお肉の味を確かに覚えている。
高いお肉はとろけるって何かの本で見たけど本当だったんだ! こんな味を覚えてしまったら今後のおいしい物事情に影響出るんじゃないか!?
あまりの美味しさと謎の恐怖で体が震えた。
未知の食べ物にまだ頭が整理できていないのに、体は続けざまにお米を求めている。
食べ方にはイマイチ慣れない中、また忍さんの手を真似てお米を口に運んだ。
ん? お米はうちの米の方が美味しいかも。
むしろこれで良かった気もする。お米でも感動してたら、多分今までの食事には戻れなくなっていたかもしれないし。
私は一口ずつ感動しながらお肉を噛み締める。対照的に、忍さんは流れ作業のように黙々と口に運んでいる。
食べ慣れているから? 実は味音痴とか? それとも感動という概念が存在しない!?
忍さんの食べる様子を見ていると、石板からの煙が何だか不自然な動きをしているように見える。
なんか煙が避けているというか、忍さんの周りに散らばっているような。まぁ大して気にすることでもないか。
石板がまだ熱々のうちに食べ終わった。
終わるなー!と思い続けたけど幸せは長く続かない。
忍さんは少し先に食べ終わっていた。
「ごちそうさまでした。こんなおいしい物を食べれるなんて思ってもいませんでした! ありがとうございます!」
「そうか」
相変わらずな忍さん。私の感動具合が微塵も伝わっていない! でもとにかく本当に感謝だ!
外に出ると日が落ち始めていた。
なんだかまだお肉の匂いを感じるな~。誰かがまた注文したのかなぁ~
あっ……。
この臭いは私の着物からだ。どうやら着たばかりの着物に匂いがついてしまったらしい。ガーン……
明らかに気分が落ち込んだことを忍さんも気づいたようだ。
「どうかしたか?」
「せっかく頂いた着物にお肉の匂いがついちゃいました……」
「まぁあれだけ脂が跳ねていたからな」
そんなこと一切気にしていなかった。というか、してられなかった。
ん? そういえば忍さんの方からは匂いがしないような? くんくん。
「あの」
「なんだ?」
「忍さんの服には匂い付いたりしてないですか?」
「あぁ。微弱な風魔法で煙を避けていたからな」
……忍さんだけズルくない!? ホントに魔法って便利だな! すすっと教えてほしいんだけど!
「服は観賞するものではなく着るためにあるのだから問題ない。そのうち薄まるだろう。今は臭うが気にするな」
「……分かりました」
忍さんが女心の分かる人でないことを早くも確信した。
「今日は宿を決めて終わりにしよう」
私の臭い問題を一切気にかけることなく忍さんが言った。
空は薄暗くなってきたけど、ここは宿場町。あちこちから明かりが灯り、まだ周りが見えることに驚いた。これが町という所なんだなぁ。
「宿もいっぱいあるんですね」
「ここは宿場町だからな」
「どの宿にするか決めてますか?」
「マキが泊まる宿だ。好きに決めろ」
ん?
「え? 私が泊まるって言い方だと、忍さんは泊まらないってことですか?」
「俺は少し気になることがある。部屋に着いたらすぐ出ていく」
「なら私も行きます!」
「マキは残れ。今日は疲れているだろう」
あれ? 忍さん優しい!
「それに、服が臭ったままでは好ましくない」
え……。一言多くないですか? そして多分、理由そっちですよね?
「……分かりました」
なんともいえぬ感じだけど、実際すごく疲れたのは確かだ。今日一日、色々と非日常すぎたし。
ここは素直にお言葉に甘えよう。
私はご飯の時の失敗をしないよう、図々しくなさそうな程度には良さげな宿を見つけた。忍さんは何も気にしないだろうけど、私としてはさすがに気にしてしまう。
宿の受付を済ませ部屋に入った。
私の家のようにすきま風が入ってこない。雨が降っても濡れなさそうだ。これだけでも私にとっては十分すぎる。
「かなり良い部屋ですね!」
「そうか」
忍さんは他人事だった。すぐ出ていくと言っていたんだから他人事なのは当然か。
実態は全く違うけど、状況だけ見たら男の人と同じ部屋にいる。なのにこの安心感。さすが忍さん。
「気配は感じないが、今日の襲撃者がまた襲って来ないとも限らない。この宿は浴場が部屋にない。入りたければ俺が出る前に済ませておけ」
言葉だけ聞くと怪しい雰囲気のやつでしょ。まぁ忍さんだから何の問題もないんだけど。でも一応女の子なんだけどなぁ。
「もちろん利用します!」
私は浴場に行くと、それはもう素早く風呂を済ませた。
あまりのせっかちな様子に周りの人から変な目で見られたような気もするけど、そんなのは大したことではない!
本当は私の家にはなかった風呂という魅惑を心置きなく堪能したかったのだけど、忍さんが待っているという状況では気が引けた。まぁぶっちゃけ朝また入れば良いと思ったし。
私が部屋に戻るとすぐに忍さんは出ていこうとした。
「そ、そんなに急ぎます!?」
「あぁ。朝には戻るつもりだ」
忍さんは本当にすぐ出て行った。
特にすることもないけど、慣れない宿にソワソワしてすぐ寝る気にもならない。
忍さんは一体何が気になっているのだろうか。私が考えたところで何も浮かばないけど。また明日聞けば良いか。
ゴロゴロしていると徐々に宿への緊張も解けていき、気付くと気持ち良い眠りに包まれていた。
あぁ~。よく寝たな~。
やはり疲れていたのか、物凄く寝た気がする。
部屋の外を眺めて驚いた。本当によく寝ていたのだ!
半日くらい寝ていたという事態よりも、忍さんのことが頭をよぎった。
寝過ぎた! やばい! って、あれ? 忍さんは?
朝には戻ると言っていた忍さんの姿がない。寝ている私に気を使って部屋の外にいるのだろうか?
扉を開けて廊下に出た時、一瞬何かに触れたような気がしたけど何もない。そして忍さんもいない。
困った私はそのまま宿を出てみたけど、周りを見渡しても忍さんがいない。もう朝は過ぎているぐらいなのに。
かなり動揺している自分がいる。
まさか……。忍さんは私の前からいなくなったの?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます