第10話 散策と調達

 トホホ……


 忍さんは上げてから落とすよね~。……いや、勝手に持ち上がった私が悪いのか?


 私の格好は貧相そのものだ。そんなことは分かりきっている。

 ボロ雑巾を着ているようなものだし。そりゃあ忍さんが着ている黒い着物なんかはいかにも高そうな感じで一緒にはならないだろうけど。にしてもちょっとひどくない!?


 てか、忍さんって結構お金持ってる?

 私みたいな貧乏人感ないし。忍って儲かるのか!? そもそも忍って結局何するんだ? 疑問が尽きない。

 じわじわと探りを入れてみる。


「あの~」

「何だ」

「私の服とかって、忍さんが買ってくださるんですか? 私全然お金持ってないんですけど……?」

「そのつもりだ」


 ダメだ。返答が淡白すぎて広がらない……


「でっ、でもいいんですか? なんか申し訳ないです」

「構わない。そもそも俺は帯刀を不審に思われないように武人の装いをしているだけだ。同伴者の格好が違いすぎては怪しまれる可能性がある」


 ちょっと話が広がった! もはや内容など二の次だ! ここから畳み掛ける!


「確かにそうですね。でも忍さんのお金は大丈夫なんですか?」

「問題ない」


 チーン。

 全然広がらず流れが止まってしまった……。自発的に忍さんが喋ってくれると思ったんだけど、さすがに一筋縄にはいかないか。もっとグイグイいっても良かったなぁ。

 まぁでも聞くタイミングはこれからいくらでもあるよね。その時の私に頑張ってもらおう。


 私の作戦が失敗に終わったところで、町の入り口が見えてきた。


「お~!!」


 思わず声を出してしまった。まだ入っていないのに聞き慣れない騒がしい音が聞こえてくる!

 建物同士の距離が近い! どこを見ても人がいる。人ってこんなに集まるもんなんだ! ちょっと人に酔いそう……

 私の家の周りに建物なんてほとんどなかった。全然違うな。

 ここは私の家からどのくらい離れているんだろう? 気絶させられて移動したとはいえ、そんなに遠くってことはないだろうけど。

 同じ国で距離もそれほど離れてはいないはずなのに人の数はこれほど違うのか。いや、そもそもこの町ですら大都市ではなかったりする? そうなるともう想像できない。


 興奮と混乱で忙しい私と違い、忍さんは落ち着いている。いや落ち着いていなかった場面ないか。多分この町に対して何の感情も抱いていないのだろう。なんか私だけバカみたいにはしゃいでるようで恥ずかしくなってきたな。


 ど田舎者丸出しにならないよう、なるべく前だけ眺めながら忍さんの少し後ろを歩く……が、右にも左にも露店が並んでいてついつい目が動く。なんだここは!


 ん? そういえば忍さんが武人のふりをしてるのはバレないように過ごしたいからってことだよね? 普通に堂々と歩いてるけど? しかもこの特徴的な赤髪は目立ちそうだし。


「もっと隠れながら行かなくていいんですか?」

「気付かれにくいよう、認識阻害の魔法を発動している。要するに影を薄くしている」


 さらっと魔法使ってたー。つくづく便利だよね。

 忍さんなら存在自体を見えなくする魔法とかも普通に使えそうなのになんか地味だ。

 影を薄くする魔法。忍さんが。それって……


「……そもそも魔法で影を薄くする必要あるのか?」


あぁ! まずい! また頭で思ってたことを口にしてしまった! 聞こえたか!?


「ある」


 珍しく忍さんが私の目を見て言った。何の感情も感じない目。声も別に尖った感じはなかった。だけどドキッとした。これ絶対怒ってますよね……?

 忍さんは唐突に立ち止まる。


「マキの服はここで買う」


 え? 話題逸らした? それとも元から興味なかった? どっち!?


 忍さんが見つめる先に目を向けると、色とりどりの着物が所狭しと並んでいるお店があった。貧乏人の目にも分かる。高い店だ。

ここは絶対気軽に入っちゃダメなところだ。いや、そもそもこんなお店に私みたいな貧乏人が入ったらすぐ追い出されそうだし。


 忍さんは一切の躊躇なく店に入っていく。仕方ないので私も店に入った。


 どれを見ても高そうだけど大丈夫かな? でも買ってくれるって言ってくれたし、いっか!

 さぁ~て。どんなのがあるかな~。全部キラキラに見えるし迷っちゃうなー!


「これにする」


 私に聞くことなく、忍さんは店の人に一つの着物を手渡した。暗めの紫色をした大人っぽい着物だ。

 てっきり選べるかと思ってたー。まぁ今の格好に比べれば本当に贅沢な話だけど。


「忍はあまり目立たない格好が好ましい。暗い色は暗闇にも紛れやすいからな」

「そうですね。ありがとうございます!」


 店の人は私の服装を見て何か言いたそうな雰囲気があったけど特に何も言わなかった。ちゃんと買い物すれば気にしないのかな。


 結構高そうにみえた着物一式の会計をすぐに済ませた忍さんは、店の場所を借りて着替えるよう私に言った。

 新しい着物は、手触りからして質の高さが感じられる。普段着なれないせいか、生地が肌に触れるとなんだかくすぐったい。

 でも着てみるとすぐにしっくりきたような感じがする。さすが高い服。

 忍さんが見たらどんな反応をするだろう? ちょっとくらい驚いてくれるかな!? 

 前、水浴びした後の私に近づいて頬を触った時は、傷がなくなったことに驚いていただけだったよな……

 でもあーゆー思わせ振りに見える行為はいただけません!


「お待たせしましたっ!」


 店から勢いよく飛び出し、忍さんの前で胸を張った。さあどうなる!?


「靴もいるな」


 えー……。確かにそうだけども。

 なぜ私は忍さんの反応に期待したのか。分かりきってたことじゃないか! バカなの!? さっきまでの私に言ってやりたい。


「そうですね……」


 忍さんと私は靴屋に行き、同じく忍さんが決めた靴を履くことになった。

 今まで着ていたボロ雑巾……じゃなかった。一応着物と原型を留めていない草鞋は捨てることにした。

 これで見た目は貧乏人じゃなくなったはずだ。

 忍さんと出会わなければこんな格好は出来なかっただろう。欲を言っちゃえば多少思うところもあるけど、やっぱり感謝しかない!


 きちんと改めて忍さんにお礼を言わなければ!


――ぐぅ~~


 お腹の方が先に声を上げてしまった。思えば朝はしっかり食べたけど、歩いたり驚いたりでお腹空いてしまった。恥ずかしい。ただただ恥ずかしい……


「……す、すみません」

「今日はとりあえず宿を探して終わりだ。先に飯にする」

「はい!!」


 全身全霊で返事した。

 もはや飼い慣らされていると言われても仕方ない状態だ。

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